第3話 黒髪猫耳清楚系メイドはお好きですか?

 その女司祭は振り返って、にこやかにこう言い放った。

「さ、参りましょう、リオン様」

 自慢の黒髪はべっとりと血に濡れ、聖職者用のローブも鮮血によって染色、いや変色してしまっているのを気にもせず、シャランと音を立ててメイスをベルトのリングにかけ直す。


 待て待て待て待て。


 なんでそんなに爽やかな笑顔できんの?

 え?俺がおかしいの?


 目ん玉飛び出る、とはこういう状況で起こる表情――なのだろうか?

 誰が信じられるのだろう? 目の前に転がる数十体――いいか、数十体だぞ、十数体じゃない、見間違えるなよ?

 数十体のゴブリン共の群れ――それを、たった一人で、メイスを振り回しただけで、道の先にいる女司祭は全てを殺っちまった。


 それからくるりと振り返って、にこやかに先の台詞。

 服に着いた埃を払ったくらいにしか思っていない表情。


 あんな光景、誰が見たってエグすぎて戻すモノ戻すって。

 俺も戻した。

 ほら、俺の足元にもあるだろ?

 昼飯の変わり果てた姿――かつて昼飯だったモノが。



 え、あの三人はどうしたんだって?

 そうだな、最初から話そう。


 時は半日程前に遡る――。



 ◇◇◇


「いや~リオンさん、勘弁してくださいって~」

「そうですよぉ。私だって命は惜しいんですぅ」

「神が言っています、あの城に近づくべきではない、と」


 王都でスカウトした三人がそんな事を口々に言いだしたので引き留めもせずそれを了承、即席パーティは終了となった。


 今いるのは大魔王の居城に最も近いレビント村。


 俺の目的地がその城だと気づいた三人は少しの葛藤の末、離脱と言う結論を出したのだから、俺が感情的に納得は行かなくても了承をする以外に道はない。

 説得しようものなら折角上げた名声を失う事になってしまいかねないからな。


 だが俺には、引き返してチキン野郎とそしられて残りの人生を惨めに過ごすか、英雄と湛えられてパブリックイメージうなぎ上り、残りの人生を華やかに過ごすかの二択に対しては選択の余地はない、進むのみだ。



 ――ま、しゃーない。気休めに必勝祈願でもしていくか。


 ガラじゃないと言われるかもしれないが、俺は正義の神様を厚く信仰している。

 だからしっかりと神聖魔法は授かっているし、見た目が派手だから攻撃魔法も覚えている。


 どこの町や村でも、教会の一つくらいはあるものだと周囲を見回すと、ちょうど村のメインストリートの隅にそれっぽい建物を見つけ、そちらへと足を向ける。


 一度ひとたび教会の敷地内へと足を踏み入れると、その荘厳さに心まで洗われるようだ。

 パブリックイメージに固執する俺でも、この静謐な空間では雰囲気に呑まれて自然と厳かな気分になってしまうから聖なる場所と言うのは不思議なものだ。


 心穏やかに、そっと教会の扉を開く――。




「お帰りなさいませ、ご主人様♡」


 んっ⁉


 ――俺は入る扉を間違えただろうか?

 待ち受けていたのは――猫耳カチューシャを付けた黒髪清楚系メイド。


「すみません間違えました」


 素の表情でたった今開けた扉を閉める。



 ――なんだったんだ? 今の……。

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