第3話 籠城するは我にあり
「何人くらい居るんだ、アレは?」
「ざっと見て5万といったところですかな。後ろの方では攻城兵器の組み立ても始まっています」
「……三倍以上いるな」
このサザンブラ城の防衛司令官にして王国南方軍の総指揮官であるピエール・ギュスト将軍に、城壁の上から見た敵軍について尋ねたのだが、その返事を聞いて麿の気は非常に重くなった。
サザンブラ城には、現在72万人の民衆と、1万5千人の兵隊が籠城している。兵力は、ほぼ予想通りだ。また、民衆からも義勇兵を募っている。退役した老兵とか、力自慢の若者や弓が得意な猟師など、戦力になりそうな人もいるはずだ。
とはいえ、マトモに戦えそうな兵力を結集して、ようやく敵の三分の一になるかならないか程度。攻城戦では三倍の兵力が必要という用兵の原則からすると、非常に厳しいものがある。何せ、敵軍は前人未踏といっても過言ではないような大砂漠を超えてきた精兵揃いの軍隊なのだ。
食料や飲料水は豊富だから長期の籠城には耐えられる。しかし、三倍の兵が力攻めしてきたら、持ちこたえられずに陥落する可能性が高い。武具や矢などはそんなに備蓄が無いのだ。義勇兵を募っても充分に武装させられないし、矢を放つこともできない。
「狼煙台からは王都からの返信の煙が上がっています。伝令兵も王都に着く頃でしょう。半月あれば援軍は来ます」
王都は既に状況を確認しているはずだというギュスト将軍にうなずいて、思わずつぶやく。
「半月……か」
「何とか、全力を尽くします」
一瞬「守り切れるか?」と言いそうになって、慌てて押し殺したのだが、歴戦の将軍には分かってしまったようだ。
ギュスト将軍は「鼓舞」の天賦スキル持ちで、北方戦線で長らく師団長として活躍していた名将なのだ。その後、「統率」スキルを得たために北方軍司令官に任ぜられたフィリップ兄上を副司令官として五年間補佐し、実質的な司令官として指揮統率の見本を見せながら厳しく指導して、兄上が司令官としてひとりだちできるよう育て上げたのは、この人なのだ。
もう退役間近の老将なので、その功績に報いるために安全な南方軍司令官に任ぜられ、勇退の花道を飾るはずだったのに、とんでもないことになってしまったものだ。
「麿は王族として一応は用兵術を学んではおり、予備役魔術師団士官としての籍もありはするが、実戦経験はない。だから将軍の指揮に口出しをして邪魔するつもりはない。また、兵が足りぬときには一介の魔術兵として使ってもらってかまわぬ」
「ありがたきお言葉」
麿の言葉に一礼するギュスト将軍。実際、麿は王族ではあるが官職としては内政官なので、軍隊への命令権は正式には直属の護衛兵に対してしか持っていない。
「ただ、麿のスキルを使って、ちょっとやってみたいことはある」
「ほう、それは?」
問い返した将軍に、麿は思いつきを言ってみた。
「……やってみる価値はありそうですな。失敗したところで状況は悪くなりませんし」
「麿が魔力を無駄に消耗するだけだからね。一晩寝れば回復するし」
「よろしいでしょう。敵軍が陣形を整えたところでお願いいたします」
そして、麿は城壁の上で将軍が防衛のための命令を下すのを聞きながら、敵軍が陣形を整えるのを待った。
そして、陣形が整い、その後方では移動式の櫓や長ハシゴ、城門攻撃用の車輪付き丸太などの攻城兵器の組み上げが終わったタイミングで、敵陣から使者とおぼしき騎兵が現れ、軍使の旗を掲げながら城壁前まで進んできて叫んだ。
「サザンブラ城の防衛司令官に、カトフェル帝国南方軍総司令官カール・クライスより勧告する。我が軍と貴軍の兵力差は明らかである。無駄な抵抗はあきらめて開城せよ。さすれば名誉ある扱いを約束しよう。民に無駄な犠牲を出さないためにも理性的な対応を期待する。以上!」
これに対して、ギュスト将軍は近くの参謀将校を呼んで何かを告げる。すると、その参謀将校が拡声の魔法をかけた上で叫んだ。
「クレセント王国南方軍司令官兼サザンブラ城防衛司令官ピエール・ギュストより返答する。バカめ! 以上だ!!」
……どこぞの宇宙戦艦の艦長かよ。でも、この状況で啖呵を切れるのはカッコいいぞ、将軍。
「さて将軍、そろそろやっていいかな?」
「お願いします、殿下」
将軍の許可を得て、麿は自分の天賦スキルを発動する。別に何か言葉を口にする必要もないし、特別な儀式や身振り手振りも必要ない。
その瞬間、敵陣全体が一瞬薄黒いモヤのようなものに包まれた。
「何だ!?」
「うわぁ、何だコイツ、どっか行け!」
「ひい、刺されるぞ、痒い!」
それは、百万匹にも及ぶ
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