第2話 のんびり農村スローライフ……のはずが!?
「帝国軍が攻めてきました!」
「は? ドコから!?」
そう叫んだ伝令兵に、思わず目を点にして問い返した麿はおかしくないと思う。だって、このあたりに敵軍が来るはずがないんだから。
我がクレセント王国は、その名の通り
大陸東側に位置し、こちらと同じように中央大山脈を抱え込んでコの字の形に広がる隣国カトフェル帝国とは三十年以上にわたって戦争が続いているが、主戦場は中央大山脈よりさらに北部の高原地帯である。
そして、ここはクレセント王国南端の熱帯雨林に位置する農村地帯。北には踏破不能の中央大山脈が控えている。西から北西は我が国の領土となる。南は遠浅の海で、大量の兵を積んだ大型の軍艦や輸送船が接岸することはできない。そして東には、東西が1,500kmを超えると言われる巨大なサウス砂漠が広がっている。
少人数のキャラバンや冒険家ならいざしらず、この大砂漠を通ってまともに機能する規模の軍隊を送ることは補給面から考えて不可能に等しかったはずなのだ……今までは。
「東の砂漠から万を超える大軍が……」
「ど、ど、ど、どういたしましょう?」
村役場に飛び込んできた伝令兵の言葉を聞いて、麿と打ち合わせをしていた村の代官が慌てふためきながら尋ねてくる。よく分からんが悩んでいる暇はなさそうだ。
「伝令兵、よく伝えた、ご苦労。そなたは少し休んで麿の護衛兵に合流しろ。それから代官、第四王子として命令する、民を早急に西のサザンブラ城に避難させよ。台風や水害の災害避難指示と同様に考えよ。身一つでの避難だ。それから、麿の護衛兵を全員ここに呼べ。何名かを新たに伝令としてサザンブラ城と近隣の村や町にも送り警告と避難命令を出す」
伝令兵をねぎらったあと、
西のサザンブラ城は、南方の直轄王領の中心地として、中央山脈から流れ出す大河沿いに建設された巨大城塞都市だ。王国成立時に南方攻略の拠点として作られ、そのまま南方支配の拠点として拡張されてきた。高さ10mの城壁が10km四方に広がっており、およそ50万人が生活している。この城の東側の農村地帯から避難民を受け入れても、まだ生活スペースに余裕はあるはずだ。
そして、この城は南方で台風や洪水の被害があったときの緊急避難場所として使う事が想定されている。常に、100万の人口をかかえて半年間生活できるだけの物資がため込まれているのだ。
常備兵力は1万人。ただし、主な役割は治安維持であり、北方の前線で戦っている精兵に比べて練度は低い。治安維持のため周辺に散っている部隊もあるはずだから、そいつらも収容すれば1万5千は兵力を確保できるだろう。
「殿下、どうすればいいだぁ?」
「王子様、どうしよう?」
「慌てるな。だけど急いで避難準備をしろ。台風や水害のときと一緒だ。とりあえずサザンブラに行くぞ」
顔見知りの農民や子供たちが不安そうに声をかけてくるのに答えて麿も水筒に水だけ詰め直して町の外へ急ぐ。
くそ、特任地方巡検農務官に任命されてから約三年、昨日までは平和なスローライフだったのになあ。北から南、西から東と王国内の田舎をあちこち移動して、ミミズを召喚して土地を豊かにしたり、アブラムシ退治のためにテントウムシや、バッタ退治のカマキリを召喚したり、受粉を助けるチョウやミツバチを召喚したり、養蚕のためのカイコを召喚したりして、農村のみんなに「さすが王子様だ」「助かりますだ殿下」とか尊敬されて、とれたての米や小麦とか野菜や果物なんかを分けてもらって、楽しく暮らしてたのに。
「この村の者は全員揃いました」
「殿下の護衛兵とこの村落の警備兵、ともに点呼完了。伝令は既に出立しております」
「よし、出発だ」
本来なら焦土作戦のために食料を焼いたりした方がいいのかもしれないが、そんな余裕は無さそうだ。とりあえず逃げることを優先しよう。
麿も含めて何名かは馬に乗っているが、ほとんどが徒歩だ。幸いここからサザンブラまでは徒歩でも半日程度だからな。帝国軍が騎兵のみによる機動作戦でもしかけてきたのでない限りは何とか避難できるだろう。
それにしても帝国軍め、どうやって砂漠を超えてきたんだ?
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