カこそパワー! 5cm以下の虫を召喚使役するスキルを得たんで地方をドサ回りすることになったけど、農業だけでなく戦争でも無双できますよ?
結城藍人
第1話 戦争用としては期待外れだったんで地方ドサ回り確定
「アンリ第四王子殿下のスキルは『虫召喚(5cm以下)』です」
神官が読み上げた結果を聞いて、神殿内のあちこちから深い溜息が漏れた。まあ、そうなるわな。これでも「神童」って期待されてたんでねえ。
令和日本で死んだら、何の因果か魔法とかスキルのあるファンタジー世界(でもなぜか度量衡とかはメートル法だったりする、いわゆるナーロッパ世界)へ異世界転生。よくあるパターンで幼少期から魔力操作の鍛錬をしてたお陰で
天賦スキルってのは、十五歳の成人の儀式の際に神様から与えられる特別なスキルのこと。別に儀式しなくても十六歳になれば自動で与えられるから浮浪者だって持てる。街角の浮浪児が突然「爆裂魔法」みたいなスキルを得てテロに走るなんて可能性もあったりする。てか、過去に実際あった。なので、この世界では、どの国でも孤児院には力を入れているし、低所得者向けの福祉は意外に充実している。そして、低所得者層でも凄い天賦スキルを得たことが明らかになれば、好待遇で国や領主にスカウトされる。
なお、天賦でない普通のスキルは努力で身につけられるので、麿は既に「上級魔法」や「槍術」「剣術」「弓術」などのスキルは取得済みだったりする。戦闘力は王国軍の魔術師団の正規兵と同等だったりする。
でも、その程度なんだよねえ。同じ程度の戦闘力の持ち主は我が国でも二万人以上いる。魔力が規格外だから継戦能力は高いんだけどね。それに比べて、天賦スキルは能力が普通のスキルに比べて隔絶してるから、一人で戦局をひっくり返せる人間兵器みたいなのになれるんだわ。「極大爆裂魔法」なんて前世の核兵器レベルの破壊力があって、しかも環境にはクリーンなんだよねえ。まあ、それこそ三百年に一人レベルでレアなんだけど。
「母方の血か……」
「せめて『虫召喚』でもサイズ制限が無ければ『昆虫侯』のような活躍も期待できたというのに……」
ボソボソとつぶやく外野の声が聞こえてくる。麿の母上は我が国でも有数の有力貴族であるファブリック侯爵家の出身で、父上の第一妃だ。で、建国時にファブリック侯爵家を立てた初代ジャン・ファブリック侯は「虫召喚」スキルの持ち主だったんだけど、全長が5mもある巨大なカブトムシを召喚して使役したんだそうな。その外殻は弓矢も魔法も寄せ付けず、そのパワーは一撃で城門を粉砕したという。その巨大カブトムシを使役して戦争で大活躍したことで侯爵位を得て「昆虫侯」と呼ばれたそうな。
「いやいや、5cm以下限定の『虫召喚』でもアンリ殿下の膨大な魔力なら、大量の虫を召喚できますぞ。それこそファブリック(織物)侯の家名の由来になった養蚕業の一層の発展も期待できるというもの」
「土地を肥やす虫や、害虫を食べる虫を召喚することも可能でしょう」
そういう声を上げたのは、そのファブリック侯爵家の派閥に属する貴族たちだ。第一妃である母上と、その長子である第一王子シャルル(父上と同じ名前)兄上、第三王子フィリップ兄上などを推す立場で、当然麿のことも擁護してくれるわけだ。
そう、虫召喚スキルは決して「外れスキル」ではない。ジャン・ファブリック侯爵は戦争での活躍だけでなく、その虫召喚スキルで蚕を多数召喚して絹産業を立ち上げて大成功したからこそ、ファブリックの家名を得て貴族に叙されたのだ。ミミズを召喚すれば荒れた地を豊穣な農地にすることもできるし、カマキリやトンボを召喚すれば害虫駆除もできる。ミツバチを召喚して受粉を補助したり、ハチミツを得ることもできる。農業無双ができるスキルなのだ。しかし……
「この非常時には、いささか迂遠なスキルでは……いや、有益ではありますが」
「最前線で戦っている兵としては直接的な助けを欲しかったでしょうなあ……いや、もちろん農業は国の
そんな内容を、ひそひそと、しかし人に聞こえるように話しているのはファブリック侯爵家とは対立関係にあるブラックスミス侯爵家の派閥の貴族たちだ。ブラックスミス侯爵家出身の第二妃の子である第二王子ルイ兄上を推している立場だから、麿のスキルも
だが、その言っている内容は、我が国の貴族の意見としてはむしろ多数派になるだろう。既に三十年にもわたって膠着していた隣国との戦争が、少し押され気味になっているからだ。
シャルル兄上の天賦スキルは父上と同じ「
フィリップ兄上の天賦スキルは「統率」。兵を率いれば、徴募されたばかりの農民兵だろうと精兵並みに一糸乱れず戦わせることができるスキルだ。これは強い。実際に、フィリップ兄上が本格的に指揮をとるようになってから、国境の防衛戦では負けたことはない。だから強いんだけど……戦力が拮抗している状態だと、押し返すだけの力は無い。
これに対してルイ兄上の天賦スキルは「
かくして上の王子三人の天賦スキルは戦局の維持はできても打開できなかったので、麿の天賦スキルに期待がかかってたんだけど、期待外れだったわけだ。
「静まれい」
そんな神殿内のざわめきは、父上、すなわち国王シャルル五世が発した一言でピタリとおさまった。さすが天賦スキル「威厳」。そんなに大声でもないのに全員が畏まる。
「アンリよ、そなたの得た天賦スキルは、我がクレセント王国の難局を乗り切るために非常に役立つものである。長引く戦争で地方から徴募された農民兵も多い。農村の人手が不足気味になっており、田園はまさに荒れなんとしておる。そなたの天賦スキルを活かし、我が国の農村を救うべし。そなたを特任地方巡検農務官に任命する。王直属の内政官として直轄王領のどこであろうと農政に対する指揮命令権と、諸侯の領地であっても農政に『助言』する権限を与える」
父上からご下命を賜った。第一妃腹とはいえ、王太子に相応しいシャルル兄上と、それを補佐するフィリップ兄上や別腹でもルイ兄上が居て、王権を継ぐスペアは上に充分にいる第四王子としては、これだけの仕事と権限を与えて貰えたら御の字だろう。
「ははっ、ありがたき幸せ。このアンリ・クレセント、陛下の御恩に報いるため、謹んで我が国の農政に尽くすことを誓います」
きちんと礼法にのっとり
いや、脳筋貴族には陰口叩かれるかもしれないけど、コレ別に悪くないんじゃない? 麿としては、戦場で無双なんて物騒なのより、明るい農村のために地方周りしながらスローライフの方がなんぼかマシだと思うし。
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