7.カコ

 歌の話だ。誓って言いたかったが、歌の話をしただけだ。そう思っていても、心臓はばくばくいって、俺の嘘を暴き立てるようだった。いや、違う。そんなんじゃ。

 そう思えば思うほど、かえって気持ちが強くなっていった。


 カコが、教室に入れないときがあるとは知っていた。けれどその分自宅で頑張って、成績優秀者の欄にたいていその名が載っていることも、もちろん知っていた。


 三年生になったとき、思ってしまった。カコと同じところに、行けないかって。

 担任は、当然それは無謀だと言った。正直、反発はあったけれど、俺も同感だった。

 

 カコだけだった。それを言った俺を、まっすぐに見つめ返したのは。

 「行こうよ」と。あのときたった二文字の空白が埋まったときに見せた、最高の笑顔で。


 そりゃもうな、俺は頑張ったよ。多分、今までの人生で二番目には、確実に頑張った。知恵熱って、ほんとに出るんだっていうのも知った。周りは、表向き、俺の変化を歓迎はしていたけれど、どう捉えたらいいのか分からないようだった。

 まあ、自分だって分かっちゃいなかった。そんなもんだろ。


 ただ、現実はそんなに甘くなかった。返ってくる模試の結果は、ことごとく俺を落ち込ませるものばかりだったし、金銭的にあまり裕福ではなかった俺の家では、予備校に通うほどの余裕はないし、今さら俺にそんな必要もないという意見だった。

 兄貴の大学院への進学のほうが、優先順位がよほど上だった。


 俺は、だんだん腐っていった。再び教室から足が遠のいたし、問題を教えてもらいに、いつもより多く会いに行っていたカコのところにも、行かなくなった。

 カコがそこで、歌も作らずに、一人で必死に勉強していると知っていても。


 俺は、バカだった。大バカだった。

 なぜかって? あきらめるどころか、何もかも止めちまった。

 学ぶことも頑張ることも、先に進むことも。


 俺は進路が空白のまま、高校を卒業した。

 カコに会うことにすら、背を向けたまま。

 

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