6.ユウ
内気な私が、彼のことをいつの間にか「ユウくん」と呼ぶようになるまで、時間はかからなかった。「夕焼け」の、「夕」。「
「夕」の字が、カタカナの「タ」と紛らわしいから嫌いだって言っていたけれど、私にはそれがすごく、眩しくて。もちろん言わなかったけれど、やがて、夕日のように。
ユウくんはユウくんで、私のことは最初「
あの頃を思い出すと今でも頬が温かくなってしまうのだけれど、十代のかけがえのない時間というのは、私にとっては間違いなく、あの図書室で過ごした時間だった。
待ち合わせしてるわけじゃない。過呼吸の発作が起きそうで、私が教室に入れないときと、ユウくんの「ヒマ」が重なったとき。二人のこぶし分くらいの距離で椅子を並べて、私たちは言葉を並べあった。
二人で作る歌は、当然私だけでは思いつかないものばかりで。「カコの才能だよ」ってユウくんは言ってくれたけど、そのたびに私は、そんなことないよって笑うことができた。ほかのどこでも、できなかった笑顔を。
「コンクールに出そうと思ってるの」と言ったとき、思い切って言ったのに、ユウくんの返事は、「出せばいいじゃん」という、気の抜けるような返事だった。
「ちょっと。私、真剣な話なんだけど」
からかわれた気がしてほんの少し強く言うと、ユウくんはいたずらっぽく笑って言った。
「本気で言ってるよ。俺、カコの歌好きだし」
あくまで、歌の話だ。けれど、なぜか胸が詰まりそうになった。そしてそれと、なぜかうろたえたように「じゃ、またな」と去っていくユウくん。その後ろ姿を見送る私の中に、初めての感情が生まれていたのに気づいたのは、一文字も思いつかないまま、広げたノートを閉じたときだった。
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