5.二文字

(短歌・・・・・・って、あれか。俳句じゃなくて)


 知識のなさが露わになるのを恐れて、最速で頭の辞書をめくる。五・七・五・七・七。ああ、そういえば現国か何かであったような。

 同時に、彼女の手元のノートに記されたそれの、空欄に気づく。

 「風が」の後。始まりの、「五」の部分が、ぽつんと空白になっている。

 俺の視線に気づいたのか、彼女が言った。


「なかなか決まらなくて。あの、どう思います? 『吹く』じゃ、ちょっと単調な気がして」


 どうやら彼女の中では、俺は同類に分類されてしまったらしい。今更、枕にするつもりだったなんて、口が裂けても言えるはずがない。とはいえ俺には、そんな文学的な趣味はない。勝手に勘違いされただけなんだが、咄嗟にそう言えなくて、思わず口から洩れたのは、別の言葉だった。


「なき、とか?」


「なき?」


「や、『泣く』とか『鳴く』とか、何でもいいんだけど・・・・・・」


 あのとき輝いた彼女の顔を、俺は折に触れて思い返すことになる。そういえばクレヨンを握った親戚の子が、こんな顔をしていた。


「それ、いい! なんか、単調だと思ってて。そっかー、『なく』かー。『なき』でも、あ、『なく』もあるかー!」


 なんだか勝手に一人で盛り上がられてしまった格好なのだけれど、自分の思い付きで人が喜んでいるなんていう光景を、無味乾燥な生活を送っていた俺は、ずいぶんとしていなくて。


 やっぱり、嬉しいじゃんか。そういうの。


 だからなんだろうな。俺は何も考えずに、彼女の隣に座ってしまったんだ。





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