3.出会い

 頑張ることが、嫌だった。嫌いだった。いや、はっきり言って、ダサいと思ってた。今思うと黒歴史もいいところだが、当時の俺は本気でそう思っていて、あげく大事な受験勉強も適当にこなしてしまい、見事に足をすくわれた。


 退屈だった。留年しない程度に授業に顔を出し、これもまた、留年しない程度の成績をとる。それすらできないやつもいた。そうして周りを見下すことにも飽きたとき、俺はもう二年生になっていた。


 その日は臨時で、五限目に数学、六限目に体育という、俺の嫌いな組み合わせが連なっている日だった。当然、やってられるか、俺は授業を抜け出していた。


 放課後のように準備室には入れないが、図書室自体のカギは開いている。司書の教員がいるにはいるが、その時間帯はたいてい準備室にこもって、何やら分からない作業をしている。まあ、本当に作業をしているのかは知らなかったが。


 こんな高校の図書館でもそこそこ本棚の数だけはあって、奥まったスペースにはちょっとしたデッドスペースがあることに、俺は気づいていた。日差しどころか、蛍光灯もろくに当たらない陰気臭いスペースだが、逆を言えばそれだけ目立たない。

 俺は、一応ゆっくりとドアをスライドさせ、図書室の中に足を踏み入れた。運が良ければ六限目まで、ここで時間を潰すことができる。

 今考えると罰当たり極まりない話だが、通りすがりに、長い間誰も手を付けていなさそうな書架から適当に本を数冊抜き出して、枕替わりにしようと小脇に抱えた。


 準備室からは、何の音もしなかった。あまり覚えていないが、四十歳くらいの、いつも寝不足のような目をした、にこりともしないおばさん司書だった。まるで俺と同じで、こんなところに来たくて来たんじゃないとでもいいたげな。

 もしそうだったなら、同情しただろう。図書室を本来の目的で利用する生徒なんて、俺はほとんど見たことがなかったから。試しに本を捲ってみても、貸出履歴は見事に真っ白か、数行のみのものがほとんどだった。


 外は動きがあるはずなのに、薄いガラス一枚に隔てられただけでも、何の音もしなかった。俺はだらしなくあくびをしながら、例のデッドスペースに向かって進んだ。

 

 手前の本棚から回り込んで、危うく、抱えていた本を取り落としそうになった。いないと思っていた先客が、そこにはいたからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る