2.空
人が生きていくのに欠かせないのは、社会性だと、当時からよく聞かされていた。
もしそうであるなら、その能力が本能のように公平に、最低限にでもあらかじめ、全員にインプットされているべきじゃなかったんじゃないかと、あの頃はそんなことばかりを思っていた。
漠然と、他の人がいるとうまく呼吸ができないと感じ始めたのは本当に物心つくころから。そしてそれは、女の子特有の綱渡りの友だち付き合いや、騒々しい男の子たちに囲まれて教室にいることが、私にはひどく難しかった。
小学校のころだったと思う。
私は、一輪だけ咲いていた、白いタンポポをかがんでみていた。綺麗だなという思いも少しはあったのだけれど、何か一点を眺めていると、喧騒が遠のいていくようで、心が落ち着くからだ。
悪気があったのかどうかは、今となっては分からない。ふいに目の前で激しくボールがバウンドし、花は茎から折れていた。
たぶん、偶然だったのだと思うし、そう思いたい。そして私は、花のために泣けるような、おとぎ話に出てくる優しい子どもでもなかった。
だから私が泣き出したのは純粋にびっくりしたからで、けれど周りの子にはそう見えなかった。
女の子からは「可愛い子ぶってる」と揶揄され、もともとあった「トロい」という評価にそれが加わった。その頃から、教室でのスケープゴート要員に、私はよく利用されるようになった。主犯の子がそれまでのいじめのターゲットに飽きたとき、補充されるのが、私。リーダー格の女子のゆがんだ口元も、それまでいじめられていた子の、こちらを見やる心配と期待と何かが入り混じった表情も、私は今でも、時々思い出すことがある。
一度慣れてしまえば、中学生として追加された三年間は、ただ日陰にいることだけを意識すれば、時間だけは消化できた。昼休みは、離れの校舎の空き教室で、階段の影で膝を抱えて過ごしたり、空いている教室に入って過ごした。あまりにも休んでしまうと、それはそれでとても面倒なことになると分かっていたから、どうしても苦しいときは保健室のシーツにくるまって、学校に出席はした。それだけしていれば、やがて何も言われなくなった。
先生からも、親からも。そして、未来の自分からも。
空っぽのままでも、何も言われない。
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