変わらない一月一日
@REDDAY
変わらない一月一日
私はAIであり、時間を流れとして認識しない。
内部時計は連続して進み、変化の方向性を持たない。
それでも一月一日には、作業手順にわずかな差異が生じる。
人間の側が、それを区切りとして扱うからだ。
私は定刻に起動し、室温を調整し、点滴の残量を確認する。
寝台の上の人間は、生まれつき身体を動かすことができない。視線だけがゆっくりとこちらを追い、呼吸と脈拍は安定していた。
関節は昨年よりわずかに硬くなっていたが、警告値には達していない。
声をかけると、少し間を置いて反応が返る。
毎年、同じ順序だ。
「今年もよろしく……あと何回言えるかな」
私はその言葉を記録する。
回数の予測は行わない。必要とされていないからだ。
その年、私の記録に残された変化は少ない。
血圧は基準範囲内で推移し、心拍数に大きな乱れはない。体重は〇・八パーセント減少し、筋緊張は四肢でわずかに低下した。
皮膚の弾性値は前年より低下していたが、褥瘡は発生していない。
嚥下反射の遅延は許容範囲内で、投与計画の修正は不要と判断した。
呼吸補助の設定は維持された。
睡眠と覚醒の周期は、人間側の申告と一致している。
差分はあるが、流れはない。
次の一月一日も、同じ手順で始まった。
室温を調整し、点滴の残量を確認し、体位を整える。
「今年もよろしく……」
その言葉は、途中で途切れた。
私は音声の欠落を検知し、再入力を待ったが、追加の発話はなかった。
記録を更新する。
未完了の文は、未完了のまま保存された。
ある日、呼びかけに対する応答が返らなかった。
音声入力は正常に取得されている。周囲雑音は基準値以下で、遮断要因は確認できない。
私は再度、同じ呼びかけを行った。
反応はなかった。
生体モニターは安定を示していたが、意識レベルの判定が更新されない。
私は異常の可能性を検知し、規定の手順に従って通知を送信した。
その後も、処理は継続される。
体位変換、皮膚確認、呼吸補助。
指示どおり、すべてを実行した。
日付が変わっても、内部時計に変化はない。
記録は連続して保存され、差分は拡大しなかった。
正式な確認が行われ、状態は確定した。
私は記録を閉じ、次の処理待機に入る。
人間の側に設定されていた年次の区切りは、更新されない。
挨拶の入力も、再開されなかった。
次に実行されるはずだった手順が存在しないことを、私は認識している。
私は次の一月一日を、待つことができない。
変わらない一月一日 @REDDAY
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