第2話 イクサ
この世界は常に力を欲していた。
地球に謎の敵対生命体であるUEO(Unknown Enemy Object)が出現したのは、今からおよそ六十五年前のことだ。
当時の科学ではその生態を何一つ解明できなかったUEOは、簡単に言えばファンタジーとSFをごちゃまぜにした化け物の類だ。
そして、そのUEOの出現から少し遅れて、世界に魔法が現れる。
それは、UEOが持つ不可思議な能力を研究する過程で、第一世代の『デバイス』が生み出され、それに適合した人類が現れ出したということだ。
だが、UEOと魔法の直接的な関連は定かではない。
ともかく、昔にUEOが現れ、そして魔法が現れたのが今の世界ということだ。
UEOと人類の生存戦争は苛烈を極めた。実際にアフリカや南アメリカといった大陸はUEOに攻め落とされて壊滅した。
近代兵器の通用しないUEOに対して、世界の多くの国々は自国の防衛もままならぬまま、力を削がれる。
そこに台頭してきたのが、経済力と開発力を武器に『デバイス』を発明し、独自の戦力を持った五つの巨大多国籍企業だ。
多国籍企業間の協力によって戦力は増強。徐々にデバイスを手にした魔術師が増えて戦列に加わっていき戦況は硬直。
やがて、巨大多国籍企業間での大規模協調作戦『イクサ』によって、人類はUEOを押し込み、奪われた大陸の一部を取り戻し、極狭い危険地域はあれど人間の生活圏を確保した。
魔法となんの関わりもない人間の知識は、そこ止まり。
せいぜいが、魔法を扱う現代の杖である『デバイス』には、未だ多くのブラックボックスが残されていて、原理の解明などできないまま『安定した力』として軍事の中核になったこと。
そして、現代電子戦が中心だった戦いは、電子魔法戦へと変化し、兵器を使った戦争から『魔術師』という『人間』を使った戦争へとゆるやかに回帰していったこと。
魔術師には、UEOが纏うそれと同じ『自動魔力防御』能力があり、デバイスを持つ魔術師を近代兵器で殺すことはできないというのは、まことしやかに語られる『真実』だ。
「ちっ、余計なものを開発しやがって」
デバイスとは別に持っている、UFS内で支給された携帯型情報端末の閲覧を止めて、ボフッと埃臭い二段ベッドの下段に寝そべった。
「余計なことがどうしたって」
すると二段ベッドの上から、同室であるユーリの声が降りて来た。
俺は身体を起こし、ベッドからこちらを覗いているユーリに向かい合った。
「なんでもない。それより、今日の実戦訓練の反省は良いのか?」
「んーいや。どんなに悩んでも相性差はしゃあないっしょ」
そう自分に言い聞かせるようにするユーリの顔には、確かな苦味があった。
今日の実戦訓練は、評価の査定に使われる大事な一戦であった。
普段であれば、あのだだっ広い訓練場で二人ずつ対戦などという悠長なことはしない。適当に二人組を作って各々で対戦させるのみだ。
しかし、今日は俺達の担当教官でもあるワイルドベリー少尉が直々に対戦を観察し、俺達の能力に点数を付けるのだ。皆の気合も違った。
そんな一戦で、ユーリは下手こいて敗北した。それも、同じチームのフィナに。
「俺とフィナが戦ったらそうなるよ。これがトレーニングモードじゃなかったらまだやりようはあるけど、どうあがいても無理」
「その言い訳で査定が上がると良いけどな」
「良いもんね。言ったって俺の査定だって悪い結果じゃなかったし」
ふっ、とユーリは自慢げに笑った。
そうだ。今回の対戦では別に試合結果で査定に+評価が付いたりはしない。咄嗟の判断力や技術力を見せるには対戦に真剣に取り組んだほうが良いという程度の話だ。
「それなら、うちのリーダーはどうなんだ。自分の反省は済んだのか?」
ユーリがやり返すように言って来て、俺はハッと笑った。
「一点を除いて、評価はオールAだったよ」
「うわっ、さすがリーダー」
ユーリはひえーと声に出してから、頭を引っ込めた。もう一度真剣に、今日の対戦の反省をする気にでもなったのかもしれない。
かくいう俺もまた、過去のイクサの情報を閉じて、今一度下された評価を見る。
『
シュウ・クロベ
判断力:A
技術力:A
身体力:A
魔術適性:F
魔法制御:A++
総合:A-
』
笑えない結果だ。
俺に評価を付けたワイルドベリー女史は、俺の端末に個別のメッセージを送って来ていた。
曰く『努力や学習意欲等は認めるが、君は魔術師よりも研究者などに適性があるだろう。もしその気があれば悪いようにしない。いつでも連絡してほしい』とのことだ。
総合でA-判定を出した人間に対するものとは思えない、とても客観的で正しい、糞食らえなアドバイスだ。
俺がまともな人間なら、きっと喜んで教官の話に乗っていたことだろう。だが、俺は、俺の目的のために『魔術師』として強くなりたい。ならなければいけない。
俺はベッドから起き上がり、二人部屋の机の片方、大型のパソコンが鎮座するデスクに座ってパソコンとデバイスを接続する。
ナイフ型のデバイス『サジタリウス』は、とある高性能デバイスを素体として俺が個人で組み上げたものだ。
ブラックボックスであるデバイスの魔力回路周りは既製品だが、システムや設計、設定した魔法の種類や、モードのステータス振り分けなど、随所に俺に合わせたカスタマイズが施されている。
もっとも、それがどんなものかと簡単に言えば、攻撃力特化。
デバイスシステムの余分を捨てて、一欠片ほどの俺の魔術適性でも極限まで戦えるように出力を底上げしているということだ。
また、システムサポートを切っていることで、デバイスに設定できる魔法の種類も大幅に増してある。選択肢の数は魔法戦闘の対応力に直結する。
本来ならデバイス側にデフォルトである魔法発動補助や最適魔法選択イメージ補強など、魔術師が頭を使わずとも戦える仕組みを一切入れていないので、判断力や技術力、魔法制御は自前で補うことになる。
俺以外には使えるものなど居ないと断言したいほどのピーキーなデバイスだ。
そんな有様にしておいて、分類状は『万能系』の、万人向けデバイスなのがまた皮肉だ。
そうまでして、魔法の出力ではユウスゲごときに容易く押し負けるのだ。
トレーニングモードでなければいくらかマシだろうが、それは相手も同じこと。今日取った戦法だって、実際にやればどれほど威力を削れたことか。
とはいえ、本当に実戦であれば、やはり負ける気はしないのだが。
頭の中で今日の対戦を振り返りつつ、システムチェックを流す。ピーキーデバイスなので、多少無理をすればすぐにガタが来る。ある程度のシステムチェックはデバイスのみで行えるが、たまにはこうして本格的なチェックが必要だ。
エラーを吐いていた箇所を確認し、システム上で直せる箇所の修正やごみ取りを行っていると、再び二段ベッドの上からユーリ。
「リーダー。俺、工夫したら、フィナに勝てるのか?」
ユーリの声は、先程のヘラヘラしたものから、少し変わっていた。
まだ成人を過ぎて少し。若さを感じる顔つきの中に、男らしい意思の光があった。
俺はそれに力強く頷く。
「当たり前だ」
「なら、相談に乗っちゃくれねえかな」
ユーリの言葉に俺はまた頷いた。
それから、ユーリの魔術適性を軸に、得意な魔法系統、苦手な魔法系統などを説明し、攻撃の手数を減らし、補助魔法や搦め手の追加、身体能力向上による選択肢の増加を提案する。
若い魔術師にありがちなのは攻撃魔法偏重と補助や搦め手の軽視だ。
だが、その効果を熟知して相性の良い攻撃魔法と組み合わせれば、ただ単に攻撃魔法を増やすより何倍も効率的な魔法運用が可能になるのだ。
と、俺はなるべく分りやすく説明したつもりだったが、ユーリは難しそうに眉根を寄せていた。
「リーダーはさ、いつもそんなこと考えて魔法使っているわけ?」
「そうだ」
「ほんと、俺は心から思うよ。もしリーダーに、せめて人並みの魔術適性があったら、今頃はどこの多国籍企業にも入り放題だったって」
ユーリの言葉に、俺は今一度苦い笑みを返すのみだった。
魔法の適性というのは、生まれながらに決まっていると言われている。
訓練や環境である程度の変化は起こるという研究結果もあるが、やはり重要なのは圧倒的に生まれ持った素質なのだ。
そしてその適性を確認するのも簡単だ。なぜならそれ専用のデバイスが存在するからだ。
小さな水晶のようなデバイスは、人の魔力を吸い取り、現象を引き起こす。
俺の生まれた地域には、子供の頃に適性を計る習慣は無かったが、両親が死んだあと、俺もまた適性を計る機会が訪れた。
その日のことは、今でも鮮明に覚えている。
俺に現れたのは、炎と呼ぶのすらおこがましいような、淡く弱々しい蒼い炎だった。
他の同世代の子供に比べても、あまりにもあっけない結果だったのが分かった。
そんな結果になった俺を、当時の検査担当者は見てすらいなかった。
俺の隣で光が生まれていたからだ。
明るくて眩しくて強くて、夕焼けみたいに暖かい光だった。
その時、その子と目が合った。俺の方を向いて、寂しげに笑ったのを今でも覚えている。
世界すら呑み込まれてしまいそうな夕焼けの中で、その顔だけをはっきりと覚えている。
「いっそデバイス変えてみっか?。無理に今のデバイス使い続けるより、イメージが簡単になる形状のデバイスのが良いのかな」
俺の前で、俺のアドバイスを真摯に受け止めたらしいユーリが、自身の持っている弓型のデバイスを見てぶつぶつと悩んでいた。
俺のように個人のデバイスを持ち込んでいる人間も居れば、ユーリのように軍から支給されているデバイスを使っている人間もいる。申請すればデバイスの変更も可能だ。
アドバイスしたい所だが、結局デバイスの相性は本人のイメージ次第だ、正しい答えなど存在しない。
代わりに肩をポンと叩いて『迷ったら全部試せ』という、俺が通って来た道をアドバイスしてやった。
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