午の宴/2026

 年初にて。

 宴会場のパントリーは今日も大忙しだ。徳利が運ばれてきては酒燗器に並べられて、レバーを下げてはお酒を入れ、レバーを下げてはお酒を入れ。「みんなお酒飲み過ぎじゃない!? どこの部屋!?」しぶきちゃんが叫ぶけど、そんなの柳の間にいる逸のお客さんたちに決まってる。私も沫ちゃんもみぎわちゃんも、さっきからあの部屋の人に捕まってばっかりだった。

 ここは樂逸烙座らくいちらくざ。宴会や挙式、その他諸々経営している複合施設だ。宴会場は私たち小間使いのメインのお仕事と言っていいんだけど、だけど、ちょっと助けがほしいかも……。

 例の逸のお客さんたちはみんなして大画面で競馬を見ている。レースのたびに大盛り上がりで、パントリーにまで歓声が聞こえてくるくらい。うちにもカジノはあるのにそっちはいいんですか?って聞いたら「カジノで馬が走るか!? 走らんだろ! 俺たちは馬が見てぇんだ!」と熱弁されてしまった。とにかく情熱がすごい。あとお酒の進みもすごい。


「私もう、駄目かも……」

「そんな、どうしたの汀!」


 どんな過酷な状況でも冷静に仕事を捌いてきた汀ちゃんが弱音を吐くなんて! 沫ちゃんの声と一緒に私も思わず彼女を振り返るけど、意外にも彼女は変わらぬスピードで徳利を酒燗器に並べている。ただ、レバーを引く前にこう言った。


「出馬のゲートに見えてきた……」


 がしゃん。猛然とした勢いで注がれる熱燗たち。素晴らしいタイミングでレバーを上げた汀ちゃんがさらにその徳利たちを銚子運びに入れ、片手に握り、もう一方の手で角盆を掴んだ。


「行けっ……汀! 差せーッ!」

「汀ちゃん!」


 私たちの声援に押され「行ってくる!」と駆け抜けていく彼女はまさに競走馬のような凛々しさ。だけど見惚れている暇はない。「次、ほのかッ!」「はい!」私も次のレースの準備を始める。一番、二番、三番と徳利を置き、レバーを下ろして上げて、四番、五番、六番と銚子運びへ。「次は沫ちゃんだよ!」「任せて……! 行けーっ!」競馬ってこんなかな? ちょっと違うような気がしてきたけど不思議と満ち溢れるやる気のままに、私もパントリーを飛び出した。

 そんなこんなで今年の年始は「そのままー!」とか「残せー!」とか「ご飯を残すなー!」とか言いながら乗り越えていくことになる。板さんや蔵人さん、その場に居なかったおきちゃんまでそれに加わって私たちのお仕事もずいぶん賑やかな雰囲気になるんだけど、あまりにも賑やかすぎたせいでオーナーストップが入るのはまた別の話。

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