辰の祝言/2024

 年初にて。

 手の中で、艶のある布地とふわふわの布地が今にも抜け出そうとしている。それをしっかり掴み直すと、真ん中で波打つ少し硬めの生地が揺れた。

 目線を進行方向に向ける。この上等な生地の重なりが、何人もの手によって支えられ……ずっと先まで続いていた。

 ここは樂逸烙座らくいちらくざ。宴会や挙式、その他諸々経営している複合施設だ。しかし今日はこのブライダルに全従業員が投入されている。主にこの介添えのために。


「さっきから思ってたんだけど」

「な、なあにしぶきちゃん」

「花嫁さん、見えなくない?」

 見えない。なにしろドレスのスカートの裾がとんでもなく長いのだ。がくのブライダルのお客さんは豪勢なお式のことが多いし、ドレスも色んなデザインを見るけどこんなのは初めてだ。らくいちとしても、正月に宴会場を閉めてまで執り行ったブライダルなんて前代未聞らしく、今回本当に裾持ちくらいしか役目のない板場さんたちは実質休みだねえとちょっと嬉しそうだった。ブライダルビュッフェ担当の賄い方さんは今頃大変だと思うんだけどな。

 龍みたい、とみぎわちゃんが呟く。「チュールが雲で、シルクサテンが風で、タフタが鱗」生地の名前はわからなかったけど指を指して教えてくれたので、この下の方のふわふわがチュール、つやつやするするがシルクサテン、真ん中のパリッとしたやつがタフタかな、と分かった。言い得て妙とはこのことで、確かにとても龍みたい。沫ちゃんも納得したように何度も頷き、少し離れたところにいたおきちゃんが「実在がするのかどうかわからないところまで含めて、ね」と呟いた。やっぱ誰も花嫁さん見えてないんだ。


「それにしても豪華! あたしもこんなドレス着てみたいなあ」

「着てみたいかな………」


 沫ちゃんと沖ちゃんの会話に「お金持ちと結婚しなきゃ」と微笑む汀ちゃん。なんだかみんな浮き足立ってて楽しい気持ちになってくるし、こんな感じで介添えをしている従業員たちも参列するお客さんたちもぽつぽつお話ししているのでなんだかお祭りみたいなお式だ。ドレスはここまで凄くなくていいけど、こんな和気藹々としたお式なら私もしてみたいかも。


「ていうかどこまで歩くの? ブライダルの会場ってこんな大きかったっけ」

「今日はらくいちの庭を全部ブライダル仕様にしてるから、たぶん今歩いてるの会場じゃないよ」

「待ってらくいち一周するの? 参勤交代じゃん………」

「まあまあ、せっかくの晴れの日なんだから楽しく歩こう」

「ニューイヤーパレードって言えば少しはやる気でる?」

「おお。出るかも。龍の花嫁さまのニューイヤーパレード!」


 沫ちゃんがステップを踏むと龍の鱗も愉快げに踊る。私たち含む近くの介添えがあわててチュールとサテンの裾を掴み直して、顔を見合わせて笑った。

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