第6話 沈黙
「……算術はここまでだ」
マンモスの巨躯が巻き上げた土煙の中、日向は通信機のスイッチを入れた。
「カラオケ、聞こえるか。学園の地下、第三ブロックの電源を落とせ。あそこにこのパニックの『心臓』がある」
「了解……やってやりますよ! どんな鉄火場でも、バックミュージックは俺が決めます!」
カラオケこと唐桶の指がキーボードを叩く。学園の地下深く、古代獣たちを制御していたバイオ・インフラが沈黙した。
同時に、日向はマンモスの脚の合間をすり抜け、本丸である大出理事長のオフィスへと踏み込んだ。そこには、古代生物蘇生という狂った計画の真の目的――**「アングラカジノ開発」**の証拠が並んでいた。
豪華なシャンデリアが揺れる部屋で、大出渉理事長と、逃げ込んできた木下貞子町長が、モニターにかじりついていた。モニターに映っているのは、古代獣たちが特殊部隊やマフィアをなぎ倒すライブ映像。
「見てなさい……これが最高の『ショー』だ。世界中の大富豪が、この絶滅獣たちのデス・ゲームに金を賭ける。この『ひまわりの里』は、世界唯一のバイオ・カジノ・リゾートに生まれ変わるんだ!」
大出が狂ったように笑う。その傍らには、カジノのシステム開発を担ったアングラ界のエンジニアたちが震えながら控えていた。
「残念だが、その賭場は閉廷だ」
ドアを蹴破って現れたのは、返り血を浴びた日向と、抜刀したままの黒武者だった。
「日向……! 貴様、なぜここが……」
「『謙信の軍配者』に書いてあったよ。敵が一番守りたい場所こそが、最大の弱点だと。あんたらが古代獣を放ったのは、証拠を隠滅するためじゃない。このシステムを起動させるための『最終プレゼン』だったわけだ」
日向は、手元にある堂場瞬一の『ルーキー』をデスクに叩きつけた。
「この本を読んで思い出したよ。刑事ってのは、あんたらみたいな『持てる者』のルールを壊すためにいるんだ」
背後から、宇都宮署の徳田署長が率いる一隊が突入してくる。
「大出渉、木下貞子。並びにアングラカジノ開発担当者一同。賭博開帳図利、並びに10年前の木下時生殺害容疑で逮捕する」
徳田の声が響く。片桐警備部長の顔色を伺っていた宇喜多課長も、もはや形勢不利と見て、静かに手錠を取り出した。
「黒武者、お前もだ」
日向が隣のヤクザに目を向ける。黒武者はふんと鼻で笑い、仕込み杖を収めた。
「俺は公認だと言ったはずだが……まあいい。このカジノの分け前を掠め取ろうとした連中のリストは、お前のポケットに入れておいた。……あばよ、軍配者」
黒武者は窓から闇の中へと消えていった。
夜が明け、ひまわり畑に朝日が差し込む。
暴れていたエラスモテリウムやマンモスたちは、制御を失い、霧が晴れるように静かにその場に倒れ伏していた。
伊藤和馬が、泥だらけの顔で日向のもとへ歩み寄る。
「日向さん……終わったんですね。僕、少しは『ルーキー』を卒業できましたか?」
「ああ。お前が最後まで現場を捨てなかったからだ」
日向は、老人ホームの車椅子に乗った島田澄江と、彼女を支える関谷葉月が遠くで無事を確認し、深く息を吐いた。
ポケットから取り出した『謙信の軍配者』と『ルーキー』。ボロボロになった二冊の本を、彼はそっとひまわりの根元に置いた。
「時生。長くなったが……ようやく読み終わったよ」
ひまわりの花びらが、風に揺れる。
それは10年前の血を吸って咲いた花ではなく、真実の光を浴びて輝く、新しい季節の訪れを告げていた。
ひまわりの里殺人事件 近藤タクゾウ @good1982
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