第5話 不毛の地のルーキーと古代の王
「日向、冗談だろう……? 幻覚でも見ているのか!」
カラオケの絶叫が無線機を震わせた。学園の正門、片桐警備部長の車が到着したその瞬間、地響きと共に夜の闇を裂いて「それ」が現れた。
ミステリーの舞台は、一瞬にして太古の戦場へと変貌を遂げる。
突如として学園のコンクリート壁を粉砕したのは、重戦車のような巨体だった。エラスモテリウム。額から突き出した二メートル近い一本角が、片桐の乗った黒塗りのセダンを紙細工のように跳ね飛ばす。
「な、なんだこれは……! 怪物か!?」
車から這い出した片桐謙二郎が、エリートの仮面を剥ぎ取られ、無様に地を這う。その背後に、巨大な牙を持つホラアナライオンの群れと、骨を砕く顎を持つホラアナハイエナが影のように滑り込んできた。
さらに、地鳴りの主が姿を現す。
樹木をなぎ倒し、ひまわり畑を蹂躙しながら進む、全長四メートルを超えるコロンビアマンモス。その圧倒的な質量を前に、特殊部隊の竜と勝村さえも、銃を構えたまま凍りついた。
「黒武者! これは貴様の仕業か!」
片桐が叫ぶが、黒武者明慶は落ち着き払ってマンモスの巨躯を見上げていた。
「俺にそんな趣味はない。だが……どうやら木下貞子の『闇』は、死んだ獣の霊まで呼び寄せたらしいな」
日向は、足元を駆けていくホラアナハイエナを、古本屋で手に入れたばかりの『ルーキー』の角で叩き伏せた。
「カラオケ、落ち着け。これは現実だ。木下貞子のバックにいる『大出学園』の地下。そこで行われていたのは、遺伝子操作による古代生物の蘇生だ。時生が殺された本当の理由は、この禁忌に触れたからだ」
日向は、混乱の極みにある学園の庭を、軍師のような冷徹な目で見渡した。
特殊部隊の武田隊長は、部下を守るためにマンモスへ向けて一斉射撃を命じる。一方で、マフィアのアレックとカンフーの余も、予定外の獲物を前に獲物を古代獣へと切り替えた。
「ひゃっはあ! まさに戦国、まさに地獄! これだよ、これが見たかったんだ!」
学園の時計塔の上で、加納聡が笑っていた。その顔は、いつの間にか警官のそれではない。彼は片桐の飼い犬でも、町長の味方でもなかった。この混乱そのものを愉しむ狂人。
「日向! 証拠の裏帳簿はマンモスの背中に括り付けたぜ! 欲しけりゃ、あのデカブツを仕留めてみな!」
日向は、マンモスの足元へ走り出した。
「伊藤! 水野! 老人ホームの守りは任せたぞ。俺は、あの
日向の背後から、一陣の風が吹いた。
「加勢するぜ、日向。警察公認ヤクザを名乗るのも飽きたところだ」
黒武者が、仕込み杖の刀身を抜く。
伝説の刑事『KSP』の背中を追い続けた男と、裏社会の頂点に立つ男。そして、警察のプライドを捨てきれない伊藤和馬。
三人は、絶滅したはずの獣たちが跋扈する「ひまわりの里」で、10年前の因縁を断ち切るための最終決戦に挑む。
「『謙信の軍配者』……最後の一振りを、ここで見せてやる」
日向の構える拳銃の銃口が、月光を反射して青白く光った。
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