後編
結局その後本当にトラックが二台やってきて、実に千箱以上の発泡スチロールが積まれた。
狭い道路を塞いでしまい、苦情の電話が殺到。
警察や報道ヘリまでやってくる始末。
あたりはすっかりカニの匂いが立ち込める。
ところでこのカニを送りつけてきた企画会社はダンマリを決め込んでおり、苦情にも取材にも応じなかった。
事の責任は全て、S賞を引き当ててしまった隣の家の奥さんに集まってしまった。
しかしお隣さんでは事態の収拾など図れず、このままだとカラス、ネズミ、そして近隣の山からの熊などのいわゆる害獣、
そして害虫の被害が懸念されるとして、緊急で町内会が開かれる。
僕ももちろん参加した。この悪夢みたいな匂いをさっさとなんとかして欲しかった。
* * * * *
結論から言うと、会議は迷走している。
千戸の家がカニを引き取ったとして、その日のうちにいただいても殻が残ってしまう。
そうなると結局、害獣と害虫の被害が発生するのだ。
前代未聞の事態に頭を悩ませた町長が出した結論は……
「こうなったら仕方がない。……野に放とう」
正気と思えない決断に、参加者全員がざわつく。
「野に放つって……町長! それこそ冬眠してる熊を起こしちまうじゃねえか!」
「だから!! ……熊に処理してもらおうってんじゃねえかと。俺はそう言ってるんだ」
「とてもマトモな判断とは思えねえ!」
「じゃああんた正解出せるのか!? 千百匹のタラバガニの、上手い処理方法思いつくのか!?
……聞けばまだタラバガニは生きているそうじゃないか。山に放って……
野生に……いや、山神様に差し上げるのだ」
「そんなことしたらカラスが増えるぞ!?」
「町にカラスが集まるより、山に集まった方が幾分かマシじゃないのかね!? あとは野となれ山となれだ!!」
町長のこの、無責任と哀愁が漂う一声で、実に千百匹のタラバガニが生きたまま山に放たれた、いや不法投棄されたのである。
しかし、町に害獣やカラスが溢れるよりかは山に……という住民たちの切実な思いは、なんと町長と同意見だったのである。
* * * * *
翌朝……
山はカニの死骸やら何やらで悪臭が立ち込めている……と思われたのだがそうではなかった。
いや……正確に言うと、カニの匂いではなく、違う匂いで満たされていたのだ。
想像を凌駕する山からの異臭に、早速山の様子を確認しに行った町民……。
頭上からなぜか時期的に成っていないはずの栗の木からイガグリが落ちてきた。
そして、時期的に活動期ではないはずのスズメバチに襲われた。
匂いの元は、この山にはいないはずの牛の糞だった!
そして町長が、巨大な木のうすに踏み潰され……逃げ回る町民達が目にしたのは……
なんと巨大なタラバガニだった。
警察が動員されても山に近づくことすら許されず、住民は避難して山から離れた。
常軌を逸した事象は、『令和の猿蟹合戦』と称された。
もちろん、身勝手な猿は人間達である。
これは……本来祝い事に欠かせないはずの……
お祝い料理の主役とも言っていいタラバガニが、まさか大量に山に捨てられたことからタラバガニとしてのプライドを傷つけられたことから妖怪化したなどと、本気で言い伝えられることになった。
自衛隊が出動、事態を重くみた海外からの軍事的干渉……の一歩手前まで行ったが、三日間を過ぎたら山は何事もなかったように元に戻った。
胸を悪くするような牛の糞の匂いも消え去った。
* * * * *
それからどうなったか?
僕は詳しくはよく知らない。なぜなら引っ越したからである。
しかし聞いた話によると、毎年正月に現れるかもしれない『蟹神様』を恐れて、あの町には正月にタラバガニを食べるという風習ができたのだという。
結局、正月の期間は町民全家族がタラバガニを食べるために、結局千百以上のタラバガニがあの町で消費されることになるのだから皮肉な話だ。
* * * * *
元旦に、
「あけましておめでとう」などとは口が裂けても言わなくなった町があるという。
そこでは、この飽食の時代に食べ物を粗末にする自らを反省するという習慣が根付いているのだという。
今でも僕はたまに、その町に残った知り合いに聞くことがある。
彼はこういう……。
「とても祝うなんて気分にはなれないよ。
何せ私たちは……『カーニ(蟹)バル』なんて言葉に懲り懲りなんだから」
お祝いの品騒動。了
お祝いの品騒動 SB亭moya @SBTmoya
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