第2章 部長決定戦
ACT.4 麻生北高校
四月二十日、月曜の朝。
白いセーラー襟が朝日を受ける。黒タイツの脚に、冷たい風がまとわりついた。
校門前の駐車スペースに GTOの黒い影 を滑り込ませた瞬間、周りの視線がビリッと刺さる。
車通学は“許可制”
親の名義、任意保険、駐車枠固定。破ったら即アウト。
――うちは、その紙にサインさせるまでが一番大変だった。
(初登校でこれ。目立つに決まっとる。……でも、ちょっと気持ちいい。)
エンジンを切ると、重低音の余韻がコンクリの壁に残る。
ボンネットの熱気が足元を温め、黒タイツ越しに赤牛色のアスファルトの温度が伝わる。
そこへ紅の塗装に白い炎のバイナル を纏ったアルシオーネSVX が流れ込んできた。
ドアが跳ね上がり、飯田ちゃんが姿を見せる。
スカートのプリーツが揺れ、タイツの黒が朝光を鈍く反射した。
「おはよう、虎美。“制服+タイツ+愛車”で登校、私たちも立派に“らしくなってきた”わね。」
「ふっ、当然たい。走り屋は学校ん中でも速く見られんと意味なかけん」
覚が小さく笑う。
タイツに包まれた脚が、GTOの影に並んで立つ姿――。
(くっ……負けとらんけど、映えでは勝てん気がして悔しか)
――その時だった。
校門横の曲がり角から、深い緑色のMAZDA3 が飛び出してきた。
エンジン音が 喉奥で咳き込んだみたいな低速の唸り。
ドッカンターボ特有の、気怠く爆ぜる音。
(うおっ!? 来る!!)
反射で 半歩、横へ跳ぶ。
タイツの足裏が、ギリギリでアスファルトに滑らず踏ん張った。
キィイイイイイッ!!!
ABSが細かく震え、タイヤが泣きながら止まった。
鼻先数十センチで止まったMAZDA3のボンネットが朝日に緑みを返す。
ドアが開く。
制服の 麻生北の赤帯セーラー に 白ニーソックス。
茶髪のポニーテールが震えながら飛び出してくる。
「とらちゃん!? ごめんなさい……!」
ひさちゃんの声が裏返る。
MAZDA3のボンネットがまだ小刻みに揺れていた。止まったはずなのに、心臓だけが追い越している。
「落ち着き。跳ねとらん」
うちは肩に手を置いた。黒タイツ越しに、指先が震えてるのが自分でも分かる。
飯田ちゃんが背中をさする。
「止まった。気づいた。避けた。――全部、あなたがしたことよ」
「ひさちゃん……“運が悪か”じゃあなか。止まった、避けた、気づいた――全部、あんたがしたこと。責めすぎたら、“前に進めなくなる”。」
「……で、でも……わし、また虎ちゃんに迷惑ば……」
「迷惑じゃなか。生きとってくれるのが、一番助かるとたい。それ以上、欲張らんばい」
ひさ子の目尻から涙が ぽたり とアスファルトに落ちた。
足元では白ニーソの影とうちの黒タイツの影が交わる。
その交差が、何より “仲間になれた証” に見えた。
そして朝は続く
飯田ちゃんが深い息をつく。
「……虎美。学校、遅刻しちゃうわよ」
「そらいかん! 先生に“GTOのせい”って言われたらイラッとくるけん 急ぐばい!」
ひさちゃんが袖を掴んで、小さく言う。
「……虎ちゃん……今日も、友達でおってくれる?」
うち、笑って言い返す。
「当たり前たい。跳ねられそうになった程度じゃ、絶交せん。むしろ……うちを避けた速度、速かった。ちゃんと、“走り屋の反応”やった」
「……っ、う、うぅ……ありがとう……!」
三人並んで校門をくぐる。
制服のスカートが揺れる。
タイツの足が地面を踏む。
朝の光が、MAZDA3・SVX・GTOのボディラインを照らす。
――春の風。
ここから、また走り出す。
そして思う。
(今日も前へ。転んでも、避けても、進んでも――“うちら”はここにおる。)
飯田ちゃんと一緒に昇降口で靴ば履き替えた瞬間、チャイムが腹の底に響いた。
(やばっ……遅刻ラインぎりっぎりたい!)
「虎美、走るわよ。“走り屋は足も速くなかと”って言ったの誰だったかしら?」
「言った覚えは……ある!! 行くばい飯田ちゃんッ!!」
二人して階段を駆け上がる。
スカートの裾が揺れ、黒タイツに張りつく汗がひやっとして気持ち悪い。
でも止まらない。止まれない。
踊り場でちらっと振り返ると、ひさちゃんがMAZDA3の鍵を握りしめたまま必死に追いかけてきていた。
「ま、待てぇ~~~っ! はぁっ、はぁっ……わ、わし……運動は……苦手で……!!」
息が切れすぎて語尾が消えている。
うちらは苦笑いしながらも、声だけは返した。
「ひさちゃん――落ちんように! 無理したら転ぶけん! 教室で待っとる!」
「無理に追わなくていいから! “生きて来い”!」
「そ、その言葉……なんか、重かぁ……っ!!」
――ほんと、置いてくみたいで胸が痛か。でも……ひさ子の足じゃ、今はどうしても無理やろ。
(いつか同じスピードで走れるようになったら……それは“あいつの成長の証”になるとたい)
実習 → ホームルーム前。
教室に滑り込み、ギリギリ席に沈む。
飯田ちゃんが机に突っ伏す。
うちは肩で息をしながら黒タイツの膝を押さえて笑った。
(走っただけで汗だく……山道の全開のほうがまだ楽ばい)
始業前の軽実習・プリント学習。
走り屋三人で同じ班になったの、なんか運命感じる。
ひさちゃんは
息を整えきれずに鼻声でプリント解いとる。
(この子、ほんとがんばり屋たい……遅れても、絶対やめん。そこが“強さ”たい)
飯田ちゃんはピンクのシャープペンを正確に走らせ、プリントをまるで宝物みたいに折りたたむ。
(この几帳面さ……走行中のライン取りにも出とる)
うち?
勢いで書いて、勢いで消して、勢いで覚えるタイプ。
まあ、人生は勢いだ。
ガララッ
教室のドアが開いた瞬間、空気が変わった。
湿気が押し返されるみたいな熱。
「……き、来た……ッ“サスケ先生”……!!」
浅黒い首筋。
ジャージの袖をまくりあげ、
足音が サッカー部仕込みのリズムで響く。
小日向佐助――うちらの担任。
「――おる。席つけ。今日も “走る準備”はできとるか?」
(走る準備……って言葉、走り屋の心に刺さるけんやめてほしい)
佐助先生の視線がGTOの鍵・SVXの鍵・MAZDA3の鍵に触れた瞬間、眉がピクリと動いた。
「……“車通学”は認めとる。ばってん――暴走行為や走り屋まがいの真似は一切許さん。事故は命を奪う。命は戻らん。ここは学校、おるたちの命の預かり所たい。――忘れるな」
飯田ちゃんの背筋が伸びる。
ひさ子は 椅子の上で小さくなる。
うちは、喉が締まった。
(言葉、痛か……でも、正しい。うちの原付事故のトラウマ、思い出させる声たい)
「走るなとは言わん。ただし――命ば軽う見るな。走りは“遊び”で済まんときがある。おるはそれを知っとる」
その一瞬、教室の温度が変わった。
(……この先生、ただの“走り屋嫌い”やなか。理由ば持っとる目たい)
飯田ちゃんの指が震え、ペンを握り直す音だけが残った。
ひさちゃんは こっそり涙を拭く。
うちは息を吸い込んだ。
(いい……いつか、“走り”で認めさせる。うちらは命を捧げん。命ば抱えて、前に進む。その違い、絶対見せるばい。)
「――さあ、始めるぞ。今日も全力で、走れ。勉強でも、人生でもな」
チャイムが鳴り、黒タイツ越しの足先が じりっ と動いた。
(よか……走り屋の朝は、ここからスイッチ入るとたい。)
昼前。
外の湿気がガラスに張りついとる。
でも教室の空気は 張りつめた弦みたいに静かやった。
歴史の授業。小日向佐助先生。
黒板にチョークが ガリッ と走る。
白い粉が弾けるたび、うちの胸の奥がなんかザワつく。
“戦”と“走り”って、どこか響くものがあるけん。
「――おるたち。今日は “加藤清正・福島正則・黒田長政ら武断派による石田三成襲撃事件” の話ばするばい。“七将襲撃事件” とも呼ばれるとよ。」
(来た……うちの名字と同じ “加藤” の武将……清正公たい。なんか勝手に血が騒ぐたい)
佐助先生は教壇の端に立ち、指で黒板の三つの名を示す。
加藤清正 福島正則 黒田長政
チョークにそれぞれ“武” “猛” “策”って丸を付ける。
「時は 慶長4年(1599年)。豊臣秀吉が死んで、“家をまとめる力”が無うなった頃たい。武断派――つまり“力で物事ば進めたい武将たち”と、文治派――“法や書状で統治したい石田三成”との“価値観の衝突”があった。」
飯田ちゃんがペンを走らせる。ひさ子は……漢字に目を回している。
(頑張れひさちゃん……“武断派”は“武士の断行”やけん覚えやすかとよ……多分)
佐助先生は 拳 を軽く握りしめて続ける。
「そして――三成が武断派の武将たちの不満ば背負いきれんで、“襲撃”ば受ける。場所は大坂。清正・正則・長政を含む七人が三成を捕らえようとして包囲した。いわば――“暴力による政治的圧力”たい。」
(……“包囲”とか“追い詰める”とかカーブ区間での抜き方みたいやん……頭の中で走りに変換されるの、うちだけ?)
「三成は――殺される寸前まで追い込まれた。けど、そこへ 前田利長 が駆けつけ、三成ば救い出す。つまり――“助っ人の乱入”たい。」
うちは息を飲む。
その 語りの熱に、心臓がブレーキ踏む暇を失う。
「ここで大事なのは、“暴力が正義か?”“理屈が正義か?”どっちが正しかったかじゃなか。“価値観の衝突は、時に命ば賭ける場になる”――そこたい。」
板書が止まり、佐助はチョークを置く。
その 乾いた音が、ほとんど銃声みたいに響いた。
「三成は命ば拾った。でも――結果は知っとるな?」
飯田ちゃんが答える。
声が震えとったけど、迷いはなかった。
「……関ヶ原で、三成は敗れて、処刑。生き延びた意味が、最後には勝敗に呑まれた……そう、習いました。」
「おる。“生き残る”ことが“最終的な勝ち”とは限らん。歴史はそう教えとる。」
(……走りもそうたい。完走しても、心が折れたら負けたい。抜いても、魂が迷ったら“勝ち”じゃなか。うちは――どう“走り”を選ぶ? どんな“生き方”を選ぶ?)
授業の終わりのチャイム。
でも誰も動かん。
佐助先生の声が最後に芯を撃ち抜いた。
「――“力”だけでも、“頭”だけでも、戦いは勝てん。走りも人生も、“どっちも持っとる奴”が道ば切り開く。覚えとけ。」
(……はい。うちは――そのどっちも欲しか。清正公の“力”、三成の“意志”。両方抱えて、走りたい。いつか佐助先生に、“わかった”って言わせる日が来るまで。)
――黒タイツ越しに膝が熱い。
心臓は、エンジンのアイドリングみたいに震えとった。
昼休み。
風が止んだ校庭に、湿気が **ぺたり** と貼り付く。
体育館裏のベンチに、うち・飯田ちゃん・ひさちゃんの三人。
いつもの昼メシ会場だ。
ひさちゃんが弁当のフタば開けながら
「今日は……失敗せんごと作ったつもり……」
って震え声で言った瞬間、卵焼きが容器の端で転んだ。
(ああもう……ひさちゃんの“運の悪さ”はどんなチューニングでも直らんたい……ばってん、そこが可愛か)
飯田ちゃんは正座みたいな姿勢で、真面目に箸を構えている。
うちとひさ子は適当にリラックスしているけど、飯田ちゃんだけは食事も戦いみたいだ。
うちは弁当のフタ開けて、一切れのしいたけをつまむ。
飯田ちゃんの目が、カメラみたいにカッと開いた。
「……虎美、それ……」
「ん? これ? しいたけ。飯田ちゃんの天敵。天然ボスキャラ。」
「言い方やめて……ほんと無理なの……!」
うちは笑いこらえきれんで、しいたけを箸でちょっとだけ近づける。
「ちょ、ちょっと待って虎美ッ……やめて……ッ!」
(この反応よ。あのSVXば振り回す怪物娘が、しいたけ一枚でこんな動揺すると? 反則級に可愛かたい!**)
ひさちゃんが困った顔で
「し、しいたけ……わしも苦手……」
って呟くけど、視線は完全に飯田ちゃんのパニック芸に向いとる。
うちはニヤりと笑いながら飯田ちゃんの弁当の方向へ、しいたけを **差し出す――**
「いやあああああっ!! わ、私ッ……ッしいたけ殺す……!? 違う!! 食べない!! 本能が拒否!!」
「ほら、SVXの吸気みたいに深呼吸して?」
「例えが意味不明なの!!?」
三人で笑ってると、突然――ひゅるるるるっ……風の音
頭上を一枚のチラシが舞った。
うちの弁当箱にぺたりと貼り付く。
「……ん?」
油の跳ねた紙。
擦れた文字の中に、真っ赤なタイトル。
『第6回 熊本スプリントレース』
“挑め、速き者たち”
飯田ちゃんとひさちゃんも覗き込む。
風が紙の端をばさりと揺らす。
(……この字体。この煽り。この“速度”の匂い。――呼ばれとる。うちら“走り屋”は、いつもこうして始まるとよ)
飯田ちゃんが真剣な目で紙を見つめる。
「……虎美。行く気なんでしょ?」
うちは笑う。
しいたけみたいな悪戯じゃなくて、魂の底から湧き上がる笑い。
「当たり前たい。うちらは――速くなるためにここにおる。挑まん理由、無かろ?」
ひさちゃんは震えながらも小さく拳ば握る。
「……わ、わし……が、頑張る……! 皆の足ば引っ張らんごと……!」
「違うわよ。森本さんがいるから“チーム”なの。走るのは私たち三人でしょ?」
(――ああ。この空気や。教習所で汗かいて、峠で泣いて、夜の空き地で怒鳴られて、笑って、怪我して……うちはこの二人と走りたか。心の底から。)
うちはチラシを指で弾く。
ピン、と爪が鳴った。
「食後のデザートにしいたけは勘弁たいばってん……勝利の味は、別腹とよ。――行くばい、二人とも。」
空を見上げると、雲が速く流れとった。
まるで未来がうちらの速度を待っとるみたいや。
(……勝つ。負けても進む。そして、名前ば刻む。“麻生北の三人娘”、ってな。)
――昼休み終了のチャイム。
けど、心の中のエンジンは始動音を鳴らし始めていた。
蛍食堂の駐車場に着いた瞬間、夜の空気が ぬるりと肌にまとわりつく。
遠くで虫の声、厨房の排気音、道路の低い唸り。
ここから “夜の部活動” が始まる。
うちらの車が停まった横――ライトブルーのAE101のボンネットにもたれて、水色のアロハが月に揺れとる。
庄林かなさん。
例の “ノロマ呼ばわりの毒舌家” は、缶コーヒーを片手に、こっちを見もせんで呟いた。
「……遅い。ノロマ、また迷ったのか?」
うちは顔つきで笑い返す。
「(ただいまの返事に、“来たばい、ぶっ飛ばしてやる” が混ざっとる)迷っとらん。渋滞や。それより今夜、見届けてもらうけん。“麻生北の走り”を。」
かなさんの唇の端が、くい、と吊り上がる。
「ほーん……べっぴんさん(=覚) はいい。速そう。ヒサコンは……運、爆発しないか? で――ノロマ あんた、どれだけ上手になったのか」
(この“言い回し”よ。腹立つけど、この人の言葉は走りに火ぃ点ける。うちは知っとる。)
蛍食堂の裏口で、制服から“走りの装い”へ。
――ジャケットを羽織る瞬間、汗と油の匂いがスイッチ入れる。
・虎美: 灰色ジャケット、緑T、黒ホットパンツ、黄色タイツ
・覚: 灰色の制服風コーデ、ピンクタイツ
・ひさ子: 緑パーカー、しまシャツ、黒ホットパンツ、白ニーソ
出てきた飯田ちゃんを見て、かなさんがパチンと指を鳴らす。
「べっぴんさん、似合うぜ! ノロマ、圧倒的敗北だ!」
「……はいはい、そらどうも(負けず嫌い、芯まで燃え上がる感触。挑発されるたび、アクセルを踏み込む心臓になる。)」
ひさ子は袖を握りしめて、声ば震わせる。
「わ、わしも……変じゃなか……?」
「似合ってるわよ、森本さん。私たち3人でしょ? 走りも――服装も」
(……飯田ちゃんは時々、癒しでもハンドブレーキでもない。“多分うちの目標”に近い言葉をくれる。その一言で、ひさちゃんの背中が少し伸びた。)
蛍食堂の店内――味噌ダレの香りが、胃袋を襲う。
うちは定番 赤牛丼
覚は 熊本ラーメン定食
ひさ子は 山かけそば+コロッケ
かなは迷わず ロコモコ(※これは譲らない)
「腹は満たさな勝てない。走りは精神力だからな、ノロマ。」
「“ノロマ”外したら同意したります」
「いただきます」
がつがつ食べる時間。それぞれが、この後の走りに向けて 口数が減る。
陶器の食器が触れ合う音、厨房のフライヤーの音、外を走る誰かの直管の咆哮。
全部、“夜走りの鼓動”に聞こえる。
食べ終わった瞬間、うちは息を吐き出す。
「――行くばい」
「準備できてる」
「は……はい……!」
かなが 缶コーヒーを握って立ち上がる。
赤いショートポニーが、夜風に 旗みたいに揺れた。
「箱石峠、中腹スタート。復路ゴール――勝ったやつが“部長”。ノロマ、遅れたら笑うぞ。」
「上等たい……ぜってー笑わせん。泣かす。“速さ”で。」
飯田ちゃんのSVX、ひさ子のMAZDA3、うちのGTO、そして――かなのAE101。
キーが捻られる瞬間、蛍食堂の灯りがクルマに反射した。
(……始まる。“遊び”じゃなく、こっから “走り屋” になる。)
「夜を裂くばい――麻生北、出発。」
ヘッドライトが闇を切り裂く。
排気音が 山の奥へ呼びかける。
月が光を落とす。
うちらの影が、四つ長く伸びていた。
蛍食堂を出て一時間。
箱石峠・中腹、夜8時前。
空は月が欠けて、アスファルトが鉄みたいに光っとる。
遠くの谷から、咆哮 がこだまし、
ここが“本番”って空気に変わる。
路肩に、うちのGTO・飯田ちゃんのSVX・ひさちゃんのMAZDA3、そして 見届け人 のAE101が一直線に並ぶ。
かなさんが腕組んで宣言した。
「今日の 部長決定戦はリーグ方式。ノロマ・べっぴんさん・ヒサコン、全員総当たり。勝ち→3点、同着→1点、負け→0点」
「積み上げ型……理論的」
「走れば分かるとや。計算はあとあと」
「わ、わし……胃が痛か……」
かなが 軽く笑う。
「まずは――トラミンvsヒサコン“ノロマ”と“運の悪い走り屋候補”。どっちが先に “走り始めた” か、見せてもらおうか」
(……来た。ひさちゃんと、真正面。速さの差より、覚悟の差が見えるカード。逃げ場なしや。)
グリッドへ。
エンジンをかける。
6G72ツインターボ の振動が骨盤にどん、と響く。
横に並ぶMAZDA3。
そのボンネット越しに、ひさちゃんが 小さく頷いた。
(びびっとる。でも、逃げとらん。……それで十分たい。)
かなさんが オレンジのタオル を片手に上げる。
スターター代わりだ。
飯田ちゃんは後方で腕を組んで見とる。
副部長候補の目や。
全部、見逃さんつもりやろ。
ひさちゃんのMAZDA3のアイドリング音――
回転が、安定しとらん。
ドッカンターボの癖、出とる。
(心配したら負け。相手が誰でも“勝ちに行く”。それが走り屋の礼儀や)
GTOに 若葉マーク が夜風で揺れる。
それが、逆に燃料。
「――静かにしろ、全員」
空気が張り詰める。
虫の声も遠くなる。
手が少し汗ばむ。
ハンドルの革は 冷たくて、安心する。
「3……2……1……――GOッ!!」
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