第3話 トリトーまでの道中

馬車に揺られながらゲズルは窓の外を眺めている。街道の脇は森林で覆われ、午前の陽の光が森の奥を照らしている。首都とトリトーを繋ぐ街道は石畳が敷かれ、車輪が跳ね上がったのか時々馬車が揺れる。

 今のゲズルは軍服ではなく、地味だが丈夫な生地で作られた行商人や作業員がよく着ているような服を着ている。

 ガイナスから指示を受けてから3日後、手続きを終えたゲズルは朝一番の馬車に乗り込んでトリトーへと向かっている。

 「あんたひょっとして軍人さんか?」

 窓の外に意識を向いていると、向かい側に座っていた商人らしき男に声をかけられた。こんなすぐにバレてしまったのかと思わず身体を強張らせてしまう。

 「いや、随分いい体つきだったから気になってしまいまして」

「ご覧の通り怪我が原因でやめる羽目になりましたが元はそうです」

 どうやらただの興味のようであり、一安心した後、用意された答えで答える。

 「すいませんね。仕事柄、人に興味を持ってしまうのですよ。ではトリトーに向かうのも再就職の為ですか?」

「えぇ、トリトーは交易都市で就職先が多いですから。こんな目の自分でも出来る仕事を見つけられるかなと思いまして」

「確かに、トリトーは運送組合や漁師組合が多いですからね。身体さえ動ければ職を見つけられますから気を落とさないで捜してください」

 何故か励まされ苦笑を浮かべてしまう。しかし突然顔を顰め、拳を固めた。森の中から妙なメイの高まりを感じたのだ。

 ゲズルの様子に商人が不審な目を浮かべていると、怒声と破裂音が響き渡り、馬が嘶き声をあげて御者が立ち上がるのを制した。

 震え上がる商人を制して、身を屈めて窓を覗くと8人ほどの男が武器を手に馬車の前に立っていた。どうやら盗賊のようだ。よく見ると銃を持っている男もおり、ゲズルの目は鋭くなった。

「命が惜しけりゃ金を出しな」

 下卑た笑いを浮かべながら銃を突き出す男に、御者は震え上がっていた。ゲズルは窓から抜け出すと、馬車の影に隠れて腰に差してあるナイフを手にし、両脚にメイを込めて脚力を上げる。武器を構えながら馬車に近づいてくる盗賊に気付かれないようにナイフを構えると、銃を構えている男目掛けてナイフを投擲した。ナイフは右腕に直撃し男ぎゃっとうめき声をあげ、周りにいる盗賊たちはどよめいた。その隙にゲズルは地面を蹴って、一気に盗賊たちの前に駆け出すと回し蹴りを食らわせて2人吹き飛ばした。

「なんだお前は」

 剣を持った男が斬りかかるが、ゲズルは屈んで避けると胴に拳を叩き込み昏倒させると、男を持ち上げて近くにいた3人の男にぶつける。男は大柄だったので2人に直撃して両者とも気を失い、避けた1人が槍で突いてくるが、横に避けて首元に当て身をして倒す。

 最後に残った1人が人質に取ろうと御者に近づくが、ゲズルは近くに転がっていた大きめの石を蹴って、男の頭に当てて気を失わせる。

 ゲズルが周囲を見回すと銃を持っていた盗賊が左手で銃を持って、ゲズルの方に銃口を向けていた。ゲズルは盗賊に近づくと左手を蹴り上げて銃を落とすと、ナイフを盗賊の右手の甲に突き刺した。悲鳴をあげる盗賊を前にゲズルは口を開く。

「その銃は何処で手に入れた」

 冷たい口調に盗賊は震え上がったが、ゲズルは刺さったままのナイフを押し込み催促する。

 「武器商人から買っただけだ。持っているだけで皆震え上がって金を出すから1丁買った」

 呻き声をあげながら答える盗賊に、ゲズルは目を細める。

「その武器商人は何処の誰だ」

「知らねぇ。酒場で偶然話しかけられただけで、知らない顔だった」

 更にナイフを押し込むが男は「知らない」と言うだけで本当に知らないようだ。後で武器商人の人相を聞いておこうと考えながら、縛り上げる為のロープを取りにいかねばと馬車の方へ目を向けた。すると、馬車の中にいる御者と商人が怯えた目でゲズルを見ていた。

 もしや先程の尋問で怯えさせてしまったか。そう思い当たりゲズルは自分の立場を思い出した。今の立場は『元軍人の一般人』で盗賊を撃退するならともかく、尋問するのはやり過ぎてしまっていた。

 自分の目を奪った銃を前にして頭に血が上ってしまったか。そう自省してゲズルはこれから先、トリトーで調査をする上で身の振り方を気をつけなければならないと考えながら、ロープを取りに馬車へと向かった。

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