ココアの空

光雨

ココアの空


 1年ぶりココア。自販機で買った。程よく熱い。急に飲むと喉が焼けるが、構わずに焼く。濃厚。飽和したココア粒子の密度を感じる。冬の手に暖かい。指先も飲むように、その温もりを帯びていく。

 傾けた缶と同じ方向を見る。雲が浅い波のように広がる空に、地上を監視する為に光る見下し半月が浮かんでいる。

 この空が何色なのか気になる。缶を片手に色を調べてみる。兄弟のような空色がたくさん出てくる。


『チョークブルー?』

『ダスティーブルー?』

『グレイッシュブルー?』


 空を見る目がどれも違うと言う。それなら写真に撮って、画像検索。似たり寄ったり、まだこの色には程遠い。

 空はどんどん色を変えていく。もうこれでいいか、いやまだだ。そんなことを繰り返して、結局手詰まり。


『何色なのこれ』


 空が無い日は無いのに、私はこの空が何色なのかも知らない。もう面倒臭くなって、意識をココアに戻す。しかし、舌がココアの甘さに慣れてしまったので、もう飲みたくない。3/4ほど飲んだココアをゴミ箱に捨てる。


 家まで歩く。人とすれ違う。独りの人も、2人の人も、普段より、安らぐ自分を許せているみたいだ。それもそのはず。今日は大晦日だから。いつもは何かに焦って忙しない父も、今日明日明後日だけは、こたつから動かない。そんな日だから。

 角を曲がる。急降下する隼(はやぶさ)のような雲が沈んだ太陽を追っている。大雑把に見ることにした空の青さも後を追うが途切れ、山の頭ではまたよく分からない色をしている。レモンの皮に塗られた様な白。しかしどこかセンチメンタルで、シトラスっぽい白。


『だから何色やねん』


 釈然としない視界をもう一度ココアの空に戻す。僅かに変化した色調。この色なら知っている!カタカナブルーが彩る鮮やかさは何処にもない、これは、


『濃縹』 (こきはなだ)


 そうだ。この色で間違いない。空がやっと色付いた。


 川沿いの歩道を歩く。天球をなぞるように、飛行機雲。海の方へ伸びていた。

 

 しかしどうにも、氷を舐めた後の様に、口の中が冷たい。捨てたココアの温もりを惜しむ。額の左上が痛み始める。頭痛だ。冷風のせい。とにかく歩き続け、やっと部屋に着く。暖房をつけ、パジャマに着替えて布団に逃げる。横になる。頭がヒュンヒュン渦き出す。冷えた耳が氷枕のよう、自分の体ではないみたい。指先は赤いのに、暖かくない。ココアを捨てた罰か。冬にやられた。目を瞑ってじっとしてみる。暗闇の中で、頭の落ちていく方向が明確にわかる。そんな後頭部の重さと浮遊感を感じる。足を毛布に擦らせ、熱を生む。こんな時に、隣に誰かがいてくれれば。いや、どうしようもないか。胸の氷は他人で解けない。解かすには自分でなんとかするしかない。そのためのココアだったのに、それを捨ててしまった。私のせいだ。独り私が冷えるのは、全部私のせいなのだ。そう分かった今も、あえて冬のせいにする。惨めかな、いや大丈夫、みんなそうやって過ごしてる。だって、冬のせいにしておけば、何をせずとも春が来る。ココアがなくとも、温もりが自ずとやってくる。

 倒る独りの大晦日。春よさっさと私に来い。

 

 

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ココアの空 光雨 @HikaRi_aMe

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