第五話 大自然

 出すことと、漏らすこと。両者には大きすぎて見えない差がある。前者は極めて自然な生理現象である。出すべきタイミングで、出すべき場所へ行き、出すべきものを出す、それだけである。しかし一方で、後者は極めて恥辱に塗れた生理現象である。漏らすべきでないタイミングで催し、漏らすべきでない場所で、出すべきものを漏らしてしまう、やっちまっている。

 過去私は恥辱に塗れたことがある。ただ、漏らしてしまっただけ。たったそれだけで、これからの人生にこびりつき、一生拭えない汚点ができてしまうのだ。一度ならず、二度までも。汚点を塗り重ね、さらに臭いも増すことは、思わず鼻を塞ぎたくなるほど忌避すべき事案であった。

 今日も冬真っただ中。こたつでぬくぬく温まりながらアイスを食うことが至高だと確信した私は、わざわざアイスを買うためだけに遠くのスーパーにまで足を運んだ。すぐ近くのコンビニで済ませても良かったのだが、いかんせん金がない。少しでもお金を節約したかった。スーパーまでの道のりは約1km、最近は食っちゃ寝しかしていなかったため、丁度いい運動だと割り切って家を出た。幸いなことに、雪は薄く積もっており、歩行には一切支障がなかった。しかし、寒い。ひとたび風が吹くと、刺すような痛みが顔を襲う。近くのコンビニに行こう、と悪魔が暖かい息を吹きかけてくる。私は横目でコンビニをガン見しつつ、自分は健康を維持しお金を節約しているのだと言い聞かせ、重たい足を引きずりながらコンビニを通過した。というか長時間寒いところにいるほうが体に悪いと思う。

 体の芯まで凍えながらではあるが、スーパーまでたどり着いた。ガンガンに効いた暖房が冷え固まった体を融かしてくれた。長居したかったが、さっさとこたつに入りたかったので、愛すアイスを購入し、後ろ髪を引かれる思いでスーパーを後にした。

 中間地点に到着したときだ、問題が発生したのは。何を隠そう、唐突に催したのである。私は経験者だ。結末の悲惨さは実に染みて良く分かっている。何度でも言おう、これは人の尊厳が塗れてしまう重大事件なのだ。なんとかせねばならない。当時の私の頭は、常日頃の私のものとは思えないほど、演算能力が上がっていたに違いない。

 天啓を得た。逆転の発想だ。出してしまえばよいのだ。着衣での排出が漏らすと呼ばれるのであれば、脱衣して排出すれば、それは極めて自然な生理現象なのだ。

 幸いなことに、私が歩いている場所は土手の道だ。道を逸れれば、尊厳は守られるはずだ。移動した私は、袋からアイスを取り出し、ポケットに入れた。寒々とした青空の下で、おもむろに下半身を露出させ、絞り穴の下に袋を配置した。そしてブリッっと出した。確認すると、そこには奇麗に巻かれたまずそうなチョコレート味のアイスクリームができていた。

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