第四話 あまりにも立派

 代り映えしない光景を、座って呆然と眺めていた。毎日毎日よく飽きずに同じ花を眺めていられるなと、自分でも思った。かつての私は、嬉々としてこの写真を飾った。面白いと思ったから。ただそれだけの理由で、わざわざ高画質で印刷した。初めのうちは確かに笑えた。だが特別は次第に日常へと溶け込み、今ではすっかり背景になった。今日でこの写真とはお別れをしよう。次は何の写真を飾ろうか。無難にキジだろうか。

 などと考えていたとき、下半身から脳裏にかけて、一筋の電流がほとばしった。これはデカい、かつてないほどに。そう確信した。私は腰を浮かせて、股の間から先の景色をのぞいた。

 それはまるで、厚い皮がむかれて尖端が見えたバナナのようであった。

 私は姿勢を正し、丁寧に丁寧に、実が途中で折れないように、ゆっくりと皮をむいた。中ほどまでむき終えた後、再度腰を浮かせて股の間から先の景色をのぞいた。

 それはまるで、適度に熟成された食べごろのバナナのようであった。ちなみに9cmだ。無論勘である。

 私はむくのを止めた。これ以上は不要であると、そう判断した。あとは我らが地球の意思に身を委ねていれば、自重によって自然と落ちてくるだろう。だが油断は禁物だ。折れなくても、ちぎれる可能性は残っている。だから最後は指で優しく押しだして、完璧に実を摘出した。

 ボチャンと個室に反響した。大きな水柱が立った。おもわず立ち上がり、振り向いて、水に沈んだむきたてホカホカのバナナを見た。

 あまりにも立派。それ以外に形容する言葉が見つからないほど、あまりにも立派でだった。

 長さは18cm、そう確信した、直径は3cm、そう確信した、長さ18cmで直径4cmのやや反り気味の実。それはまるで、実が奥までしっかり詰まっていて、かみ応えをしっかり確保しながらも、固すぎず柔らかすぎず、適度に熟成された食べごろの、確実に甘味が強いと納得させる茶色のバナナであった。なんどでも言おう、それはあまりにも立派であったと。

 私の努力が実を結んだ。偉業を成せたと思った。ここまで真摯に丁寧にバナナの皮むきと向き合い、バナナ本来の姿を現世に顕現させた人間はいただろうか。いる訳がない、いてたまるものか。

 そうだ、ここに飾る絵はバナナにしよう。そうすれば今日の興奮が、明日も明後日も、継続して味わうことができる。

 そうか、大切なのは、日常を特別にするという気概なのだ。ただの生活習慣として日々淡々とこなすのではなく、そこに価値を実出すことが大切なのだ。

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