第3話 大炎上

「敵の居場所に心当たりはあるのか?」

「いえ、それを探るのはこれからの予定でした」


 黒い怪物は、執拗に俺たちを狙い続けている。

 路地裏や電柱の影――あらゆる場所から湧き出し、襲い掛かってくるそれらを蹴散らしながら、俺たちは夜の街を駆けていた。


 近くにあった自販機を【空間収納アイテムボックス】に格納し、即座に再展開。

 背後から迫っていた怪物を、金属の塊で叩き潰した。


 自販機に潰された怪物は動かなくなるが、その横から次々と怪物が迫り来る。

 倒しても倒しても際限なく、怪物の群れは数を減らす気配がない。


「キリがないな……」

「私に案があります、みなとさん」


 美羽みうさんが回転ノコギリを振り回し、前方の怪物を一掃しながら言葉を続けた。


「――街そのものを、焼き払いましょう」


 とんでもないことを言い出した。

 しかしその表情は至って真剣で、冗談を言っている風ではない。


「街そのものをって……住民は?」

「この街は既に死んでいます。隅々まで確認しましたが、一人残らず怪物に食われていました」

「――――」


 絶句した。

 なるほど……深夜とはいえ街中で大立ち回りしたり、廃ビルを燃やしても騒ぎにならないわけだ。


「そんなことしたら警察も黙ってないんじゃ?」

「七星学園は特権を有しています。人的被害さえなければ、どうとでもなります」


 美羽さんの表情はいたって真剣で、嘘を言っているようには見えない。

 俺が思っていたよりもずっと、七星学園は影響力の大きい組織みたいだ。


「一応確認するけど、本当に生き残りはいないんだよな?」

「ええ、確実に」

「仕方ない。じゃあ、やるか」


 その声色には一点の迷いもない。

 俺は覚悟を決めた。


 * * * * *


「は――はは、はははっ! 全部燃えなさいっ!」


 ハイになっているのか、テンションが上がっている様子の美羽さんが夜の街に哄笑を響かせた。


 回転ノコギリが振り回され、炎が無差別にばら撒かれる。

 燃え盛る炎は瞬く間に周囲の家屋に燃え移り、どんどんとその規模を拡大していく。


 怪物たちが美羽さんに殺到した。

 大通りで目立つように暴れている彼女に、四方八方から襲い掛かる。

 だが、炎の光に当てられてみるみると小さくなっていき、中心部の美羽さんの下に辿り着くまでに消滅していく。


 ――そんな様子を、俺は少し離れた位置で、建物の上から眺めていた。


「さて、こっちもやるか」


 俺は美羽さんのように炎を生み出す能力は持ち合わせていない。

 だから、他所から持ってくる。


「展開」


 【空間収納アイテムボックス】を開いた。

 炎に包まれた建物を次々と周囲に落下させていく。


 降り注ぐ建造物の雨。轟音が連続で鳴り響く。

 落下地点の建造物が延焼し、その被害を広げていく。


 弾ならいくらでも補充できる。

 激しく燃え盛っている建物を、炎ごとまとめて収納。

 次々と上空から降り注がせる。


 壊滅的な騒音。燃え盛る街並みはまるで大災害のよう。

 あまりにも酷い絵面に、自分でやっておいてちょっと引いてしまった。


 だが――効果的なのは確かだ。


 黒い怪物。

 あれを操っている敵がどこかに潜んでいるとして、索敵能力を持たない俺たちがそいつを探すためには、一軒一軒虱潰しに建物を探るしかない。


 が、そんな悠長にしている余裕はない。


 怪物は既にこの街の人間を喰らい尽くした。

 他の街に被害が拡大する前に――今日中にでも元凶を見つけて叩く必要がある。


(隠れているなら、出てくるまで破壊を続けるまでだ)


 火の手は瞬く間に街中に広がっていく。

 燃え盛る炎が夜の街を明るく彩った。


 そうして、俺たちが二人がかりで街中を破壊し尽くしていると――。


「見つけた」


 小さく呟く。

 前方正面にある高層ビル。

 そこに炎が伸びた瞬間、黒い闇が吹き荒れ、炎を掻き消す光景を確かに目撃した。


 俺は預かっていたスマートフォンを取り出す。

 教えられたパスワードを入力、メモアプリを開くと、「北の高層ビル」とだけ記して閉じた。

 そのままアイテムボックスを経由して美羽さんの手元に飛ばす。


 無事にスマートフォンが届いたことを確認した後、建物から飛び降り、ビルに向かって走る。

 爆炎と家屋の倒壊する音で声が届かないため、敵が隠れている場所を見つけた場合にはこうして伝える手筈だった。


 幸い、美羽さんが派手に引き付けているおかげで、こちらを狙う怪物の数は少ない。

 怪物を一々倒してもキリがないため、裏路地を迂回し、まだ燃えてない建物の屋根を伝い、適当にやり過ごしながらビルへと近付いていく。

 

 敵側も警戒しているのか、ビルに近付くにつれて怪物の数が増えていく。

 どうしても避けきれない怪物だけを処理しながら進み、ようやくビルのすぐ近くにまで辿り着いた。


 路地裏に身を潜め、目的のビルを観察する。

 二十階はあるだろうか。侵入して一階ずつ探している暇などない。

 ビルを視界に捉え、能力を発動した。


「【空間収納アイテムボックス】」


 ――異世界に召喚されて能力を得た俺は、初めに能力の研究をした。

 この能力でどこまでできるのか、魔王との戦いにあたって知る必要があったからだ。


 効果範囲は俺の視界の範囲内。

 物体の重さや大きさに制限はない、ただし生き物は基本的に収納できない。

 既に物体がある場所に何かを出現させることはできない。

 認識が影響しているのか、俺が一つの物体と認識したものはまとめて一つの物体として収納できる。


 これらの能力を生かせば――こういうこともできる。


 俺は前方のビル全体を対象として能力を発動。

 高層ビルが、一瞬で掻き消えた。


 そして、ビルの最上階があった空間に――人影を見つけた。


 俺の能力は基本的にとして弾かれる。

 ビルのみがアイテムボックスに収納され、内部に居たあの人影だけが収納から弾かれ、その場に取り残された形だ。


 慌てた様子の人影が黒い闇を操り、翼を生み出し飛翔する。

 そのまま落下死でもしてくれればと思ったが、流石にそうはいかないらしい。


 俺はアイテムボックスを開く。

 人影目掛けて、先程収納した高層ビルを上空から叩きつけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る