異世界から来た聖女にいろいろ奪われたので旅に出ようと思います。

火稀こはる

第1話 精霊魔法師のたまご

 ここは、豊かな自然とその全てに宿る精霊を大切にし、共存する国『エルデリオン王国』。そして、その国境を守護し治めている『バルクラム辺境伯』という貴族がいる。精霊魔法に秀でたこの一族は、優れた精霊魔法師を輩出する名家として名を馳せている。

 そして、私…フロレンティーナ・バルクラムも例に漏れず精霊魔法師のたまごとして認可を賜るべく、まさに今、国の中央に位置するエルデリオン王城へと登城している。


 謁見の間の真紅の絨毯を進み、王の御前にてカーテシーをとる。緊張して手や足が震える。

(…大丈夫よ大丈夫、何度も練習したでしょフロレンティーナ!)

 はやる鼓動を抑えるように、深く息を吐きながら、膝を折り礼をする。

「…フロレンティーナ・バルクラム。」

「はい」

「貴殿を王国騎士団所属の治癒精霊魔法師に任命する。これから貴殿の力を存分に発揮し、我が国の為に尽力して欲しい」

静かに跪くと、私の肩にそっと剣が置かれる。それを合図に、私は声が裏返らないように緊張しながら答える。

「…拝命致します」

そう言うと数秒後に拍手が起こり、無事に儀礼が終わったと悟る。儀式用の剣を収めた王様は優しげな声で「顔を上げよ」と小さく囁いた。



「…ハァーーー」

 一通りの儀礼が終わり、この後は懇親会と銘打った顔合わせのパーティーが始まる。この度、王様に認可された新人精霊魔法師や騎士達は強制参加のパーティーで、王城の騎士団や魔法師団及びその関係者や有力貴族様方に顔を覚えて貰う為…とかなんとか。

 私は慣れないコルセットでギュウギュウに絞められ、ドレスがシワにならないように壁にしなだれかかる。ここは私に充てがわれた客室(兼控え室)だ。蕩けていても問題ない。

「…お嬢様」

実家のある辺境伯領から付いてきてくれた、侍女のニナが呆れた声で言う。

「だって〜緊張して疲れたのよぅ…コルセットも締めすぎだし…」

これでは楽しみにしていたお城の高級料理が幾らも食べられない。由々しき問題だ。

「お嬢様と同年代の貴族女性はとりあえずパーティーの料理を全制覇しよう等とは考えません!」

「ぐっ…」

「お嬢様はこれからここで精霊魔法師としての生活が始まるのですよ?この場で人脈を広げたり、他の貴族様方にお顔を覚えて頂かなくてはならないのですよ?」

「うぅ…」

わかっている。わかっているが、如何せん辺境伯領という大自然で生活していた身としては、やっぱりちょっと窮屈に感じてしまう。社交界デビューはしたものの、夜会やらお茶会はどうも苦手だ。片手で足りる位しか参加したことが無い。

 よっこいしょと壁から離れ、ペールブルーのドレスをパッパッと軽く払う。それから首元のネックレスの石に触れる。澄んだ青い石がキラリと光った。

 私は夢を叶える為にここに来たのだ。『騎士団の精霊魔法師になる』という絶対に叶えたい夢を…


 やがてパーティーの開始時刻になると、登城に同伴している父様がエスコートの為に顔を出した。現当主の父様は来賓として招待されている様で私をエスコートした後挨拶回りがあるとの事だった。

「フィーの側に付いていてあげられなくてすまない…」

と、心底悔しそうに眉を寄せていたっけ。そう言えば、父様が代わりの護衛を頼んであると言っていたけれど…

 私は優雅な音楽が流れる広いホールの端に寄って辺りを見回した。王城のパーティーホールはダンスを踊る為にやたらと広く造られている。きらめくシャンデリア、眩いほど白い壁や柱、豪奢な装飾、高価そうな絨毯…そして美味しそうな料理の数々!私の目はどこを見ても最終的に料理に吸い寄せられてしまう。

(顔見せ?人脈作り?ダンス?…いいえ、今夜の目的は料理よ!フロレンティーナ!!出来るだけ優雅に、おしとやかに!そして確実かつ速やかに狙いの獲物を刈り取るのよ!)

いざ、戦場へ往かんと一歩踏み出した私の耳に、聞き覚えのある声が聴こえてきた。

「…義姉ねえさん!」

声の方に顔だけぐるりと動かして見ると、こちらに向かって呆れた様な半笑いで歩いてくる人がいる。レモンイエローの髪をいつもより低い位置で結い、王城精霊魔法師団の礼装のローブを無造作に翻しながら。

「エリヤ、久しぶりね」

「あぁ、久しぶり。それとおめでとう」

彼は、エリヤ・バルクラム。最年少で王城精霊魔法師に認可され、今では筆頭と言ってもいい位の地位にいる。私の自慢の義弟おとうとだ。元は孤児だった彼に精霊魔法の才を見出し、我が家の養子に迎え入れて数年で大出世し、一人王城に住むようになってしまったが、家族仲はすこぶる良好だ。性格はやや大ざっぱだが、父様も彼も『魔法オタク』なのがきっといい作用をしているのだ。類は友を呼ぶというヤツ。

義親父おやじ義姉ねえさんに付いてろって頼まれた」

照れ隠しのように頭をかきながら、ぶっきらぼうに言う。こういう所がまだ年相応に見えてほほ笑ましく思える。彼は実力と肩書は凄いが、やっぱり私にとっては家族でたった一人のきょうだいなんだなぁと実感した。

「ふふ、ありがと」

私が笑うと、エリヤはニヤリと意味深に目を細めた。これは…何かを企んでいる時の顔だ。

「あと、『祝いの品』もとっておきのを持ってきてやったぞ?」

「とっておき?」

ホレと自分の肩越しに後ろを指さした。何事かと彼の後ろを覗き込んだ私は、柱の影から現れた人物を見て硬直してしまった。

「っ…、テオドール…様」

「おめでとう、フロレンティーナ嬢」

光を跳ね返すかのような美しいゆるくウェーブのかかった金糸の髪、澄んだアイスブルーの瞳は優しげにこちらを見つめている。甘さを孕んだ声が私の名前を呼ぶと、条件反射で勝手に体温が上がってしまう。誰もが振り返る美丈夫は王国騎士団の礼装をかっちりと着こなし、私に微笑みかけている。私は急に体の自由を失って硬直した。

「あ"…ありがとぅ…ございませ?」

錆びたからくり人形の様にギギギ…とぎこちないカーテシーに、エリヤが堪らず吹き出した。

「ブハッ!」

「フロレンティーナ嬢、大丈夫か?」

「お…お気遣いたいへん感謝つかまつりままして…」

「wwwwww」

私のキョドり具合に、声を出さずに大笑いしているエリヤを睨みつけるも、大した報復にもならず。テオドール様は?マークを浮かべながら私達のやり取りを見守っている。

「はぁ~、可笑しい…おいテオ、俺は適当に料理取ってくるから義姉さんの警護ヨロシク」

「あぁ、わかった」

「?!」

勝手に話を進めて勝手に行動に移すな!と遠ざかる義弟の背中に心のなかで叫んだ。

「フロレンティーナ嬢、何か飲み物でも?」

「アッ、あ、はい!」

いつの間に用意したのか、そっと差し出されたグラスを受け取り一口。果実の冷たくサッパリとした味がパニック状態の身体に染み込むようで、とても美味しかった。徐々に平静を取り戻しているのを感じつつ、私は隣に立つ彼をチラリと見た。

 彼はテオドール・フィンレイ様。王国騎士団の副団長をなさっていて、義弟エリヤの友人でもある。私の昔からの憧れの人…というか、思いを寄せている方。私の全てのはじまりの方。

 私は、テオドール様のいる騎士団付きの治癒精霊魔法師になる為にここまで来たのだ。




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異世界から来た聖女にいろいろ奪われたので旅に出ようと思います。 火稀こはる @foolmoonhomare

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