第5話 勇者なのに信じて貰えない

「うむ、苦しゅうない……

……そこだ、そこをもう少し強く……」


魔王ディアナの「凝り」をほぐすこと、数分


俺の『微振動毎秒百連打マッサージ』を受けた彼女は、骨抜きになった猫のようにテーブルに突っ伏していた


「ふにゃあ……

貴様、なかなか良い指を持っておるな……」


「それはどうも」


俺は手を止め、話を切り出す


「――さて、ご満足いただけたなら、俺の用件も聞いて貰いたい」


「用件? 生き残りでも探すのか?」


「ああ、実は俺がこの村に戻ったのは、

ある人に会うためなんだ」


「人? 生き残りがおったのか?」


「俺の剣の師匠だ!名を――『ハルト』という」


懐かしさを噛みしめるように、俺は語る


世界最強の剣士

俺に剣の握り方から、魔物の捌き方まで叩き込んでくれた恩人


「師匠はこの村の中心部、その地下にある

『地下百階層』の最深部に住んでいるはずだ」


「……は?

地下百階? この何もない田舎にか?」


「ああ、師匠が自分で掘ったんだ」


「……」


ディアナが引いているが、気にせず家を出る


目指すは、村の中心部


――数分後


俺たちは、

巨大なクレーターと化した中心広場に到着した


かつては噴水があった場所

今は、瓦礫の山だ


「ここに入口があったんだが……

瓦礫で埋まってるな」


俺が片付けようとした、その時


「む? 誰かおるぞ」


ディアナが声を上げた


見れば、瓦礫の頂上に、

薄汚れた道着を着た小柄な老人が一人、仁王立ちしている


白髪交じりのぼさぼさ頭

鋭い眼光


――間違いない


「お主がヒイロの師匠か?

なんだ、ただの汚いジジイではないか」


ディアナが興味本位で、

無防備に老人へ近づく


「おい、待て!」


背筋を走った悪寒に従い、

俺は瞬時にディアナの首根っこを掴んで引き戻した


ヒュンッ


次の瞬間


ディアナの鼻先、数センチの空間が

音もなく――ズレた


空間ごと断絶されたそこには、

黒い虚無の断面が覗いている


「な、なんだ……今のは……!?」


「……『虚空斬』」


喉が鳴った


次元ごと対象を断つ、防御不能の必殺剣

自分の使う『次元斬』の遥か格上の技…

――師匠の十八番おはこ


俺は冷や汗を拭い、努めて明るく声を張り上げる


「し、師匠! お久しぶりです!ヒイロです!

勇者として神託を受け、数多のダンジョンを攻略してきた弟子のヒイロです!」


老人は、ゆっくりとこちらを向いた


その目は、獲物を前にした猛獣のように血走っている


「……あァ? ヒイロじゃと?」


師匠は鼻を鳴らし、俺を一瞥した


「嘘をつくな、小童が!

ワシの知っとるヒイロはもっとおぼこかったし、

いつもルドとかいう泣き虫の小童と一緒じゃったワイ!」


「こんな強面の男で、

しかも魔族の少女なんぞ連れ歩く

不純な弟子など、ワシは知らん!」


「いや、俺も成長したんですよ!

ルドたちは……まあ、ちょっと別行動でして」


……流石に、耄碌もうろくしたのだろうか


こんな普通の少女を捕まえて

「魔族」とは、笑えない冗談だ


だが、ただでさえ

「魔王ごっこ」で情緒不安定な彼女だ

刺激すれば、またパニックを起こしかねない


「それから師匠、この子は魔族ではなく――」


「なに? 勇者!

貴様、まだ我のことを信じておらなんだか!」


俺のフォローを、ディアナが全力で粉砕した

その流れで腰に手を当て、抗議する


「我らは主従の契約を結んだのだぞ!

それなのにまだお前というやつは!」


「……ほう」


師匠のこめかみに、青筋が浮かんだ


殺気が、膨れ上がる


「なるほど

貴様は、我を殺しに来たその魔族に加担した

『異端者』というわけじゃな」


「ち、違います師匠!

これはただの子供の遊びで――!」


「黙れ!

……それに、村をこんな無残な姿にしたのも、

貴様らの仕業じゃな?」


どす黒い闘気が、師匠の体から立ち昇る


どうやら地下最深部で眠っていたところ、

昨日の『虚空崩壊』の衝撃で叩き起こされたらしい


「久方ぶりに上でドデカい音がしたと思うたら…

出てきてみれば、この有様じゃ」


師匠は、俺たちを睨み据えた


「答えろ!ワシの眠りを妨げ、

村を更地にした大馬鹿者は――

どっちじゃ?」


「いや、だからですね、それは誤解で――」


その横で


空気を読まない「魔王様」が、

胸を張って高らかに叫んだ


「いかにも!この村をやったのは、

この第25代魔王ディアナである!」


「おいバカやめろ!!」


俺の制止も虚しく、

ディアナは鼻を鳴らして続ける


「この村の惨状は、我が復活の狼煙よ!

恐れ入ったか、人間!」


……終わった


俺は、静かに天を仰いだ


視線を戻すと、

そこには修羅の形相で刀の柄に手をかける

「師匠」の姿


「……左様か」


師匠は、低く唸る


「魔王と、それに魂を売った元人間

よかろう」


刀身が、わずかに鳴った


「まとめて地下百階層の肥やしにしてくれるわ!!」


「ちょ、待っ――」


問答無用


師匠の姿が、掻き消えた


神速の抜刀術が、

俺とディアナの首を刈り取りに迫る


「わぁぁぁぁ!!

話を聞いてくれ師匠ォォォォ!!」


俺はディアナを抱え、

全力でバックステップを踏んだ


再会から、わずか数分


俺は――

世界最強の師匠と、命懸けの死闘デスマッチを繰り広げる羽目になったのだった

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