第6話 勇者なのに魔族に加担する

ヒュンッ、カアンッ!!


空気が裂ける音が連続して響く

俺はディアナを脇に抱えたまま、師匠の斬撃を紙一重で回避し続けていた


「逃げるか小童! 剣を抜け!」


「無理ですよ! 師匠相手に、こんな子供を抱えて戦えるわけないでしょう!」


必死に叫ぶ


師匠の剣は速すぎる

俺が0.5秒の世界で動いているなら、

師匠は0.3秒の世界にいる


防御に徹するだけで精一杯だ


「ええい、ちょこまかと! ならばこれでどうじゃ!」


師匠が刀を横に薙いだ

衝撃波が、俺の退路を断つように大地を抉る


「くっ……!」


「ううっ……貴様、いい加減にせよ人間!」


その時、腕の中でディアナが身をよじった


彼女は俺の手から飛び降りると、

師匠へ向かって仁王立ちした


「もうよい! このままではジリ貧だ

我が真の力を見せてくれるわ!!」


叫ぶと同時に、

小さな体から漆黒の魔力が噴き出す


昨日の魔法など比ではない密度

大気が悲鳴を上げ、黒い光が彼女を包み込んだ


――光が晴れた時。そこには


額から捻れた角

背には蝙蝠のような翼

禍々しい黒衣


「ほう、それが貴様の正体か」


「恐れ戦け!

これぞ魔王ディアナの真なる姿!」


俺はその姿を見て、思わず唾を飲み込んだ


……凄い。なんてクオリティだ

角も翼も、まるで本物みたいに動いている

最近の変身魔法コスプレ技術はここまで進化したのか


〈いや、違う、これは……本物だ〉


肌がチリチリと焼けるような感覚

高濃度の魔力の圧だ


彼女が言っていたことは、嘘じゃなかったのか


だが――


〈だからどうした

見た目がどう変わろうと、

中身はあの『迷子の少女』のままだ〉


俺が呆気にとられている間に、

覚醒したディアナが師匠へ突撃した


「喰らえ! 『魔王拳』!!」


「遅い!」


ドガァァァンッ!!


師匠の裏拳が、ディアナの拳ごと彼女を弾き飛ばした


「ぐはっ……!?」


「魔族の姿に戻った程度で、ワシに勝てると思うたか!」


師匠は追撃の手を緩めない

神速の連撃がディアナを襲う


彼女も必死に応戦するが、技量が違いすぎる


数合打ち合った末――

師匠の強烈な蹴りが、ディアナの腹部に突き刺さった


「が、はっ……」


枯れ葉のように吹き飛ぶディアナ


地面を転がり、瓦礫に激突し……動かない

気絶している様だ


「ディアナ!!」


俺もその風圧に煽られ、

数メートル後方へ飛ばされた


体勢を立て直した時、師匠はゆらりとディアナへ歩み寄っていた

手には、白刃がギラリと光る


「まずはこの村の仇だ

魔王とやら、地獄で詫びるがよい」


刀が振り上がる


――殺す気だ

本気で、あの子の首を刎ねるつもりだ


思考より先に体が動いた


「やめろぉぉぉ!!」


俺は地面を蹴り、

師匠とディアナの間へ割って入る


ガギィィィンッ!!


腰の剣を抜き、師匠の凶刃を受け止めた


重い

山が降ってきたような重圧が腕にのしかかる


「……退け、自称勇者」


鍔迫り合いの最中、師匠が冷徹に言う


「なぜ後ろの魔族を庇う?

お前が本当に、我が弟子ヒイロと同じ『勇者』であるなら……

人類の敵である魔族は、屠るのが筋であろう?」


正論だ


勇者の役割は魔を討つこと

魔王を守るなど、あってはならない


だが──


「……確かに、そうかもしれません」


歯を食いしばり、師匠の瞳を睨み返す


「でも! 目の前で無力な少女を殺されたら……

俺はもう二度と、勇者とは名乗れない!!」


脳裏に浮かんだのは、

追放された時の仲間たちの顔


ルド、マリー、リリィ


彼らは俺の弱さを悟り、俺を追い出した

……今ならわかる


アレは彼らなりの優しさ

俺に現実を教え、成長を促すための愛の鞭だったのだと〈※勘違いです〉


「そんな彼らに、子供一人守れなかった俺が!

どんな顔で会えるというのか!!」


魂の叫びを上げた、その瞬間


カッッ!!


胸の奥から、温かく――それでいて強烈な光が溢れ出した


「な、んじゃ……この光は!?」


師匠が思わず目を細め、後退る


それは魔力ではない


本当の意味での慈愛が、勇気と呼応し、

俺の中で何かが弾けた証――

『真なる勇者』への覚醒の光だった


光は瞬く間にあたりを包み込み、

俺とディアナの姿を飲み込んでいく


視界が白く染まる中、

俺はディアナを強く抱きしめた


――そして、光が収まった時


そこにはもう、誰の姿もなかった


「……逃げたか」


静寂が戻った廃墟で、師匠がぽつりと呟く


彼は刀を納め、じっと自分の右手を見つめた

刀を握る手が、微かに痺れている


「……あの時、

魔王と名乗った少女と、バカ弟子……

二人の攻撃を一度受けてみたが」


師匠は口元を緩め、ニヤリと笑った


「これほどまでとはな

……ふん、これではおちおち隠居もできんわ」


瓦礫の山に背を向け、師匠は歩き出す

向かう先は王都


この事態を報告し、世界に警鐘を鳴らすためだ


――それから数分後


世界中のギルド本部に、

一枚の手配書が貼り出された


師匠の

「魔王とその配下が村を襲い、撃退した」

という報告が、伝言ゲームのように歪んで伝わったのか、結果


世界大罪人名簿ワールド・モースト・ウォンテッド

SS級指名手配:魔王ディアナ

SS級指名手配:堕ちた勇者ヒイロ

罪状:国家転覆の陰謀および、大規模破壊活動への加担


こうして、俺とディアナは世界中から追われる身となったのだった

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