1595年 春
”よし、これでいいだろう。カード詐欺をするミンニティと女占い師に騙されるミンニティだ。ちょいとセクシーさはたりないがな。もってけコンスタンティーノ”
”はい、冬までってお願いしていましたよね?18スクードで買いますけど。”
”まあ、いいじゃないか冬終わったとこだし、ぎりぎり冬までだ。画材とかを考えると結構ギリギリなんだよ。すまねえけど、これ以上はまからないわな”
”兄さんなんで女書いてるのに私モデルじゃないの?顔は知らない人だし、ポーズはアンヌにやらせたわよね。”
”んー、この女占い師はおめーのほそっこさじゃだめだしなあ、アンヌの顔だと悪人にならねえだろ?まあ、ずぶとさは買うけど年季が足りねえな。”
”じゃ私は早速これ飾って売ることにしますね。”
兄さんが頼まれた絵は結局締め切りを大幅に過ぎて一年近い時間をかけて完成したんだけど、やっぱりこのミンニティにエロスで負けるのは納得がいかなかったのよね。私は母は死んだ者の叔母の締め付けはきつくて、アンヌも私も個人で使える金はまだまだ少なかったんだ。でも、兄さんのところでいろんな人を紹介してもらってオルタッチョで生きるということがわかり始めた時期でもあった。後はおばをどうやって引きずりおろすかってことだったんだけどね。
”ミケランジェロさん、絵両方売れましたよ。なんと、デルモンテ枢機卿ですよ。ここで一発グッとくる宗教画で畳みかけましょう大手のパトロンつくかもですよ。ほら、アイディアだしてアイディア”
”んなもん、すぐ出るかアホ。んじゃ女系で行くか、フィッリは細すぎ・影無し…駄目だな。アンヌで行くとすると、マグダラのマリアとかどうだ?”
”ちょっと流行りじゃないですけど、画題的にはありですね。構想できたら教えてくださいねー。今度は直接取引狙うんで、交渉任せてください。”
どうやら、遅れて納品した絵が太い筋に買われたみたいで、兄さんの出世の道が見え始めたってことみたい。ここで、アンヌじゃなくて私がモデルだったらその後は変わったのかもしれないのだけれども、これは我々家族の大きな転換点だった。
”アンヌ、悪いんだけど金はすぐに渡せなさそうだけど、ちょっと手伝ってくれんか”
”兄さん、ここを使わせてもらっているいじょうはなんでも手伝うっていったじゃないですか”
”そうだな、ちょうど窓から日が差してるから、窓に背を向けて地面に座ってくれ”
”こうですか?”
”そう、で、体だけ捻って窓の方に向いて、手を広げて光を見つめるポーズをしてくれ”
”ちょっときついです。足はくずしちゃだめなんですか?”
”無理なポーズでもまずやってみてくれ。そう、そんな感じだ。んーなんか違うな”
”今日はこの板を人の足に見立てて、平伏して香油を塗る仕草のポーズを…違うなあ”
”今日はこの豪華な服を着て、少しはだけさせた状態で仰向けにのけぞるように、あと香油の瓶は手でもって、今にも落ちそうな感じで”
”次は普段着と仕事着を持ってきてくれ。”
”普段着で、椅子に座って項垂れてみて、そう、もうちょい深く、いや、視線はそうだな、あそこの転がっているリンゴで”
”首は左に傾けて、右肩があらわになる感じで、顔もうちょい下向きで、節目がちで、目は軽く閉じて、そのポーズで涙流せるか?”
”宝石じゃなくて、装飾品で陳腐に見えるやつ持ってきてくれんか”
”手をだらんと横に下げて、背もたれにはあまり体重かけずに、いやちがうなまえで組んでみて、そうそう。”
”よし、そうだスケッチするからそのままで”
”コンスタンティーノこのスケッチと画題”悔悛のマリア”で話通してきて”
”注文きた?何?風俗画と聖書が合わさって新しいって?よしじゃあ制作初めていいな?”
私はこの絵が描きあがるまで、常に脇役だったのだ。そして約半年の制作期間で完成した絵を見た私はミケ兄の女性観を思い知らされたのだった。そこにいたアンヌは普通の娼婦のまま聖なるマグダラのマリアだったんだ。たぶん、ミケ兄の求める女性モデルは普通のあるがままの母性や聖性を持つ存在だったんだと。
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