1594年春ーオルタッチョー
”ああ、ついに捕まっちゃったわね。罰金痛いわ。”
”でも、母さんたち保護者として抗議には来たけど、金が減るから早くだせ。だけ言って帰っちゃった。”
”ほんとに糞だわ、なんとかしないと、路地裏でボロくずになって死ぬだけよね”
”あったかくなったから、油断したよね。ミケ兄とこに避難してればよかったのかなあ”
私たちは初めて警察に捕まった帰り道にとぼとぼと歩いていた。一晩止まらされた牢屋は寒いし汚いし、本当に私たちは無価値なんだと思い知った夜だったよ。
”おーい、ミケ兄いるかー、可愛いフィッリとアンヌッチェラが来てやったぞー”
”あいかわらず騒々しいな。どうしたお前ら”
”兄さん、実はついに警察に捕まっちゃって、あと家族が信頼できないなって。どうしよう、これから”
”あーん?ん-、お前らちょっとおれの仕事手伝え。その間勝手にそこらに寝てていいからよ”
”え?モデル?モデル?分け前たくさん?10スクード?”
”馬鹿、フィッリ、そんな値段で売れるわけねーだろ。モデルじゃねーよ。ちょっと知り合った美術屋が欲しい絵があるってんで、書いているんだけどな。そいつの相手と手伝いついでに親以外の知り合い作れって話だよ”
”師匠妹とあそばずに、真面目に仕事しましょうよ。そいつらいても役にたちませんて”
”ミンニティめえ、ちょっと年上だからって私をバカにするなあ。自分のがエロチックとか思ってんのか?やるか?なぐるぞ?”
”フィリデちゃん、もうちょいおしとやかにね。なんかできたっけ?紹介するのにも僕から見るとお菓子食べてだべっているとこしか見てないけど”
”ミンニティなんか考えろや、こいつらガキ過ぎて騙されるばっかなんだわ。ほれ、交渉役にするとかなんかあんだろ。”
”まあ、いつも通りに避難所でいいんじゃないですかね。あとは僕も先生も暇じゃないから、その間の取次とか?”
”私で良ければ、空いた時に話するぐらいはがんばります。”
”アンヌちゃんは素直だよねえ、フィリデちゃんはどうすんの?”
”金持ち紹介してよ。パトロン欲しいし。”
“話聞いてた?僕らもパトロンは欲しいけど、頑張り中なの。フィリデちゃんに紹介できるのはそこらのごろつきで、師匠にボコられてなついている奴らぐらいだよ。”
結局はこの転換期にミケ兄の手伝いで、商売の交渉やら、護衛を雇うことの大事さ、純粋な暴力の必要性やらを学ばせてもらったんだけどね。暴力の中にいたのが カピターンこと警察組織を牛耳る家系のボンボンだったわけだ。こいつも当時はミンニテイと同じ位で青びょうたんだったのよ。
”で、コンスタンティーノは俺の何を見て、話しを持ってきたんだ?”
”ほらグラマティカで担当した絵で、カード遊びとか聖ペテロってミケランジェロさんでしょ?あの感じで何点かほしいんですよねえ。できれば若いエロチックな男性つかって。ほら教皇庁の中の芸術派ってギリシア趣味であれでしょ?うれると思うんですよ”
”いくらだ?”
”3スクード位で行けません?”
”ちょっと、あんた足元みすぎよ。ミケ兄の絵なら10スクードは固いでしょ?”
”え、この子誰です?”
”あー、妹みたいなもんだ。フィリデって娼婦だな。”
”モデルじゃなくですか?”
”欲しいのは男モデルだろ。ミンニティでいいだろ?でもうちょいだせんか?”
”じゃあですね、冬までに2点だしてくれたらあわせて18スクードでどうです?”
”まあ、いいだろう。じゃあ取り掛かるとするわ、フィリデ、コンスタンティーノは金持ち知り合い多いから話して勉強しとけ。”
”ええ、僕も仕事がありますんで、暇じゃないというか。しかもこれ娼婦の会話練習ただでさせようって…”
”まあ、いいじゃないコンスタンティーノさん。で、なんで風俗画でかわいい男なの?女の方が売れるし、宗教画の方がよくない?”
”そうですね、ギリシャ神話モチーフは結構バチカンの縛りが緩いので有名なんですけどね、かわいい男の子という視点だとモチーフが限られちゃうんですよ。で、女性使うとこれも制約が多くて、ギリシャ神話で自由にってのが難しいのですよ。で、グラマティカのカード遊びって良い絵でしてね。”
”他がやってないから、そこに投資するってこと?好きものの宛てはあるのかしら?
”そうですね、グラマティカのルートを見るとそこそこ教会が庶民に寄り添うって文脈で売れてるぽいですねえ。ほらドイツの宗教戦争あるじゃないですか。”
”なるほどね、色々考えているのねえ。金持ちって単なる美では飽きてるのかしら?それは娼婦でパトロン捕まえるときも、ひねった方が良いってこと?”
”ああ、そこは難しい。美しいは最低基準ですね。娼婦だと。そのうえで何か面白いことができるか?で変わるのでは?”
ミケ兄の家で学んだのはいろんな人との会話の仕方。特に立場によってその見方が変わるってことは当時のあたしには衝撃だったんだ。幸いなことにミケ兄まわりの大人たちは子供の質問や気まぐれにやさしかったんだよね。この時の娼婦は綺麗だけじゃダメって気づきは後を考えるととても重要な話だったんだ。結局、この後1年位で母たちは死んで、でも叔母に搾取される状況は続いていたんだ。搾取はもちろん不満だったけど、このころには子供扱いにも辟易してたのよ。振り返るとその子供扱いこそ学ぶための方法だったのにね。
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