【第四話】入学手続きはバトル!

 勇者を目指す人々が住む勇者学校区。周りを高い壁に囲まれたこの街の中心に、白く天を突くように巨大な城があった。なんでもそれこそが学校の本館なのだそうだ。


 その中の1階、扉に『職員室』と書かれた部屋に今吾輩は居る。


 敷き詰められたような机の上には沢山の書類がある。撒き散らかされたかの如く紙束がクチャクチャの机もちらほら。


 まるで300年前の我がレイメルナングス城家計担当室のようだ。


 ヒュドラは9つの首を持つ水竜で、つまりは9つの脳を持っている。だから頭を使う仕事に向いていると思い4代目室長を任せたのだが、首同士の喧嘩が絶えずよく書類が部屋を舞っていた。


 まぁ現在は歳をとって落ち着いたのか色々折り合いをつけて上手くやっているのでよいのだが。


 従者の話はいいとして……


 この職員室には今、我々3人の他には誰も居なかった。恐らく今日は休日なのだろう。


 窓の向こうの広い土地、校庭と言うのだったか。何人かの若者が集まって何やら運動してる。元気で良い事だ。


 「それで、ショウ先生。私たち入学できるんでしょうか?」


 フィリィが不安そうに言う。ショウ先生は彼女へ視線を向けることなく、


 「名前と出身を」


 「え?」


 「名前と出身地方を言え」


 「……フィリィ・サリアー。フットゥ地方出身です」


 「フン。貴様は?ミニマムホワイトヘアー」


 「吾輩はメイト・アクザード。見ての通り普通の人間である」


 「出身は?」


 「…………え〜〜〜っと」


 不味いな。正直に答えると吾輩が奴らの言う魔王であるとバレてしまう。そうしたら即討伐対象だ。


 「……ハッ!」


 そうだ!アリアードが用意してくれた入学届があるじゃないか!


 ポケットの中、クシャクシャに折れた紙を取り出す。


 メイト・アクザードとしての吾輩の設定が載っているはず。


 「ヴァイヤー地方?出身である」


 危ない危ない。ダークエルフの青年よ。貴様は優秀な奴だ全く。にくいねほんと。


 「ヴァイヤー……地方……!?」


 「驚いてどうしたフィリィ?あるだろう?ヴァイヤーという地方。ある……よね?」


 「あるけど……」


 「ならよかった!」


 フゥ……。そっと胸を撫で下ろしたぞ。もしや実在しないのではないかと……。


 「ミニマムホワイトヘアー。貴様……」


 ショウ先生が吾輩に鋭い視線を向ける。まさかバレたか!?


 吾輩の手を指さす。


 「入学届を出していないな」


 「えっ?ああ……まぁ、そうであるな。いけないことであったか?」


 「入学届は普通1ヶ月は前に出すものだよ!遠くに住んでるなら尚更……」


 ショウ先生が「いや」と遮る。


 「我が勇者学校は入学式前日までは入学届を受け付けている。通常、試験もなく全てのガルイア王国民を受け入れる。しかし3月末日に間に合わなかった者には試験がある」


 「試験?」


 「ヘックス・パーシアスと勝負し、勝ってもらう」


 フィリィが息を飲む音が聞こえた。


 「そっそんな!無茶ですよ!」


 「嫌と言うなら来年ちゃんと入学届を出すんだな」


 「勝負で勝たなければならないなんて聞いたことないですよ!」


 「勇者学校の入学手続きは他とは違う。いくつもある教科のうち1つでも勝てば入学を許すんだ、簡単だろう?」


 「ヘックス・パーシアスって……この学校最強の生徒の方ですよね……!?」


 「おお、そうなのか。勇者の卵のお手並み拝見ではないか」


 「えっ!?」とフィリィがこちらへ向けた顔は信じられないとでも言いたげだ。


 「ちょっちょちょちょっと、メイトと2人で話してもいいですか」


 フィリィが腕を掴んでくる。


 「なんでだ?」


 お喋りは是非ともしたいところだが、今することだろうか。


 「お腹っ、お腹空いたでしょう??ほら、もう夕方になるし……」


 「言われてみると確かに……」


 「ショウ先生。近くに静かに食事できる所はありますか?」


 先生が考え込むように腕を組む。少し経って、


 「静かかは別だが、いい場所がある」


 ーーーーーーーーーーーーーーー


 「おや、ショウ先生。休日出勤ですか」


 夕日の差し込む職員室。オレンジに染まるショウの顔を見、白衣を着た女性が声をかけた。


 「ホロウ先生。不審な人物が街に訪れましてね、入学希望者らしい」


 眼鏡をかけた薬学教師が柔らかに笑う。


 「それはよいことです。勇者の卵は何人いてもいい。ただでさえ今年の入学予定者が数十名、この街に来ていないのですから」


 「いえ、奴はどうも信用なりません。あの場には魔力の痕跡があった。そんなことにも気づかない野次馬生徒どもは何を学んでいるのか」


 ショウはため息をつく。


 「奴の監視と身辺調査は既に専門家に任せていますが、全く面倒な……」


 「まぁまぁ、そう仰らず。その不審人物もきっとなんとかなる。大丈夫ですよ」


 怪訝に顔を顰めるショウをなだめ、ホロウは誰にも聞こえない小さな声で付け加えた。


 「我が王ですから……ね」

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