第6話:後方腕組みモブ、狂人の美学を説く

 夜の静寂が寄宿舎を包み込む中、私は自分の部屋のベッドで、天井の木目を見つめていた。


 左右には、もはや恒例となった「推し」たちの温もり。


 右側で私の腕を抱きしめ、時折安らかな寝息を漏らすクラウディア様。


 左側で私の腰に手を回し、微睡みの中でさえ私を離すまいとする真白様。


 昨日の私なら、この状況に胃を痛め、ただ「解釈違い」と嘆くだけだっただろう。だが、今の私の脳内は、図書室で出会った闖入者、カトリーヌ・ド・ヴァロワの言葉で占拠されていた。


『百合ハーレムエンド』。


 その言葉が、私の愛する百合の聖域を、泥靴で踏みにじるような暴力性を持って反響する。


 彼女はこの世界を、自分を全肯定する美少女たちをコレクションするための、低俗なゲームとして消費しようとしている。


 私のように、彼女たちの孤独に寄り添い、その関係性の美しさに涙する「観測者」とは、存在の根源から相容れない。


(……許せない。それだけは、絶対に。……クラウディア様と真白様の間に、あんな不純物が混ざるなんて。私が不純物になるのだって死ぬほど嫌なのに、あんな私利私欲の塊に二人が汚されるなんて……!!)


 私の胸の奥で、かつてないほどの激しい拒絶反応が渦巻いていた。


 それはもはや、モブとしての自己防衛本能ではない。一人の「過激派百合オタク」としての、宗教的な義憤に近かった。


「……ん、……結衣? 何か、嫌な夢でも見ているの……?」


 クラウディア様が、私の胸元の動揺を察したのか、眠そうな瞳を細めて顔を上げた。


 彼女の指が、私の眉間の皺を優しくなぞる。


「……貴女は、私が守ると言ったでしょう。……そんなに、あの編入生が怖いの?」


「……いえ。怖いわけではございません、クラウディア様。ただ……」


「……ただ?」


「お二人のことが、あまりにも尊い大切だから。……それを壊そうとするものを、私は見過ごせないだけなのです」


 私が本心を、少しだけ言葉を変えて伝えると、クラウディア様はハッとしたように目を見開いた。


 そして、今度は彼女自身が、泣き出しそうなほど愛おしげな表情で私を見つめ、私の頬を両手で包み込んだ。


「……ああ。結衣。貴女という人は。……自分を顧みず、常に私たちのことを……。……いい。もう何も言わなくていいわ。……私は、貴女のその献身に応えてみせる。……あの女が何を企んでいようと、私は貴女の『聖域』であり続けるわ」


 クラウディア様は、私の額に誓いの接吻を落とした。


 その瞳には、私の「解釈」によって再点火された、高潔な情熱が宿っていた。


 だが、その背後――暗闇の中から、真白様の目が静かに開くのを、私は見た。


 彼女は何も言わなかったが、その細い指先が、私のパジャマの生地を強く、爪が食い込むほどに握りしめていた。


(……三人。私を含めた三人の、この歪な均衡。……でも、これが今の私の守るべき『物語』なんだわ)


 私は、二人の温もりを受け入れながら、明日から始まるであろう「戦争」に備えて、意識を闇へと沈めていった。



 ◇◆◇



 翌朝、学院の空気は一変していた。


 カトリーヌ・ド・ヴァロワ。彼女の影響力は、文字通り「異常」な速度で拡大していた。


 中庭を通れば、昨日までクラウディア様を崇拝していた取り巻きの令嬢たちが、カトリーヌを囲んで黄色い声を上げている。


 食堂へ行けば、厳格だった教師たちが、彼女の些細なジョークに相好を崩している。


 それは単なる「魅力」ではない。彼女が口にした『人心掌握のスキル』――転生特典という名の、世界のルールを書き換える不当な力。


「……不愉快だわ。あんな、品位の欠片もない振る舞いに、皆が毒されているなんて」


 食堂の特等席で、クラウディア様が不快そうに紅茶を啜った。


 彼女の視線の先には、テーブルの上に堂々と座り、生徒たちに「未来の流行」と称して怪しげな化粧品や占いを説いているカトリーヌの姿があった。


 カトリーヌは、こちらに気づくと、ヒラヒラと手を振ってみせた。その挑発的な態度に、クラウディア様の握るティーカップが微かに震える。


「……クラウディア様、落ち着いてください。彼女は、普通の方法では太刀打ちできない『何か』を持っています」


 私が忠告すると、隣で静かにサラダを口に運んでいた真白様が、冷徹な声で付け加えた。


「……ええ。私も感じます。あの子の周りだけ、空気の密度がおかしいわ。……まるで、皆が自分の意志で動いているのではなく、見えない糸で操られているような。……瀬良さん。貴女、あの子が何者か、本当は知っているんでしょう?」


 真白様の、すべてを見透かすような緑の瞳。 私は一瞬、息が詰まった。


 だが、ここで「彼女も私と同じ転生者で、この世界をゲームだと思っている」と伝えても、彼女たちには理解できないだろう。むしろ、私自身の正体まで暴かれ、この奇跡的な信頼関係が壊れてしまうかもしれない。


「……彼女は、お二人の『関係』を破壊し、この学院を支配することを目論んでいます。……それだけは、間違いありません。……お二人とも、どうか、彼女の言葉を額面通りに受け取らないでください」


「……当たり前よ。私は、貴女以外の言葉を信じるつもりはないわ」


 クラウディア様が、力強く私の手を握った。 だが、その直後だった。


「――あら。そんなに警戒しなくてもいいのに。……私はただ、皆に『幸せ』を配っているだけよ?」


 いつの間にか、カトリーヌが私たちのテーブルの真横に立っていた。


 彼女の背後には、虚ろな、けれど恍惚とした表情を浮かべた数人の生徒たちが、護衛のように付き従っている。


「……席を外しなさい。ここは貴女のような下品な女が近づいていい場所ではないわ」


 クラウディア様が冷たく言い放つ。


 カトリーヌは、くすくすと笑いながら、クラウディア様の瞳を真っ直ぐに覗き込んだ。


「ねえ、クラウディア様。……貴女、そんなに強がって、疲れない? ……本当は、もっと自由に、誰の目も気にせずに愛されたいと思っているでしょう? ……ローゼンブルクの看板も、生徒会長の責務も、全部放り出して……私の足元で、可愛がられたいと思わない?」


 カトリーヌの瞳が、一瞬、虹色に輝いた。


 これが、彼女の言っていた『掌握の魔眼』か。


 私は、咄嗟にクラウディア様の視界を遮ろうとした。だが、一歩遅かった。


 クラウディア様の身体が、ビクリと震える。 彼女の瞳から、先ほどまでの意志の光が、急速に失われていく。 「……自由……。……私は……」


「そうよ。貴女の隣にいる、その地味なモブ女子……。彼女が、貴女を縛り付けているの。……彼女がいるから、貴女は『清廉な理解者』であらねばならず、自分の欲望を抑え込んでいる。……彼女を捨てて、私のところへ来なさい。……私が、貴女の本当の主マスターになってあげる」


 カトリーヌの甘い、呪いのような声が食堂に響く。


 周囲の生徒たちが、息を呑んで見守る中、クラウディア様がゆっくりと手を伸ばした。


 だが、その手が向かったのは、カトリーヌではなく――私の喉元だった。


「……結衣。……貴女がいなければ……。……私は……」


 クラウディア様の指が、私の首筋に触れる。


 そこには、昨夜のような熱はなく、ただ冷徹な、操り人形のような無機質さだけがあった。


(……魔眼の効果が、私の想像を超えてる!? 彼女は、二人の愛を『逆転』させようとしているんだわ!)


「……クラウディア様!!」 真白様が叫び、クラウディア様の腕を掴んだ。


 だが、真白様の瞳もまた、カトリーヌの視線に捉えられようとしていた。


「真白。……貴女も、いい子ね。……貴女のその暗い執着、私ならもっと上手く飼い慣らしてあげられるわよ?」


「……っ、……く……」


 真白様の膝が、ガクリと折れる。


 二人のヒロインが、一人の「プレイヤー」の手によって、一瞬にして崩壊していく。


 これが、システムの力。これが、転生者が持つ「不公平な暴力」なのだ。


 カトリーヌは、勝ち誇ったように笑い、私を指差した。


「さあ、瀬良結衣。……貴女の『推し』たちが、私の傀儡になる姿を、特等席で拝ませてあげる。……これが、貴女が守りたかった『百合の聖域』の最期よ」


 食堂の中は、異常な静寂に包まれた。


 誰もがカトリーヌを崇拝し、クラウディア様と真白様さえもが、その意志を失おうとしている。


 私は、自分の腕の中で震えるクラウディア様と、床に伏せる真白様を見つめた。


(……やらせない。……こんな、薄っぺらなスキル一つで、彼女たちの物語を終わらせてたまるもんですか……!!)


 私の胸の奥で、何かが弾けた。 それは、怒りを超えた、純粋な「信仰」の爆発。


 私は、立ち上がった。


「……カトリーヌ。貴女、根本的に勘違いしているわ」


 私の声が、静まり返った食堂に、低く、けれど驚くほど明晰に響いた。


 カトリーヌが、怪訝そうに眉を寄せた。


「……何? 負け惜しみ? 貴女に何ができるっていうの。……魔法もスキルもない、ただの無能な転生者のくせに」


「……無能? ええ、そうね。私は、この世界のシステムを弄る力なんて持っていない。……でも、私は『知っている』。……この二人が、どれだけの絶望を乗り越え、どれだけの孤独の中で、お互いを――そして、私を見つけ出したのかを。……貴女が、たかだか課金アイテムみたいなスキルで、それを上書きできると思っているなら、それは『聖アングレカム学院の調べ』という物語に対する、最大の冒涜よ!!」


 私は、手元にあった水を、思い切りカトリーヌの顔へぶちまけた。


「……っ!? 何するのよ、このモブが!!」


「目を覚ましなさい、カトリーヌ! 貴女が見ているのは、自分が支配したいという幼稚な欲望だけ。……この世界は、貴女の自慰のためにあるんじゃない! 彼女たちが、彼女たちらしく輝くために、私はここにいるのよ!!」


 いつだってそうだ。


 推しの隣にいるのは、いつだって『自分ではない』。


 どんなゲームや漫画だって、「後方腕組みオタク」というのは一定数存在する。


 自分も誰かに、圧倒的な外見や能力を持つスパダリや美少女に愛されたい。


 そう意識的であれ無意識的であれ、願ってしまうのが人間。それが『普通の人間』。


 でも私たちは違う。


 物語の主人公やヒロインが一番幸せになる結末を、自分という不純物で汚したくない、誰よりも純粋で、作品を、何よりキャラクターを、推しを愛する心を持っている。


 たとえ自分のちっぽけな自尊心は満たせなくても、たとえ自分の推したちが微笑みかける相手が自分ではなかったとしても、


「推しが一番幸せになれるのなら、それでオッケーです☆」と後方で腕組みしながら最高の笑顔を推しへ向けるのが、私たち『狂人』。


 これこそが私たち『狂人の美学後方腕組み』。


「現実で満たされない自尊心を、作品を壊すハーレムルートなんかで満たしてんじゃねぇ!」


「オタク舐めんなッ!!」


後方腕組み勢狂人を、舐めんなよッ!!!」


 私は、カトリーヌの襟元を掴み、至近距離で怒鳴りつけた。


 私の瞳には、魔眼など寄せ付けない、狂気的なまでの『オタクの執念』が宿っていた。


「……クラウディア様!! 真白様!! 見てください、私を!!」


 私は、自分の意識を極限まで集中させた。


 私がこれまで、何百時間と彼女たちを観測し続けてきた記憶。 彼女たちの、微かな指先の震え。声のトーンの揺らぎ。瞳の奥に隠された、剥き出しの魂。


 そのすべてを、私は今、言葉ではなく「解釈」という名の魔力に変えて、二人に叩きつける。


「……クラウディア様! 貴女は、誰かに支配されるような弱い人ではありません! 貴女は、その高潔さゆえに孤独を選び、そしてその孤独を誇りに変えてきた、孤高の薔薇です!」


「 ……真白様! 貴女の愛は、そんな安っぽいスキルで操れるほど、浅いものではないはずです! 貴女の愛は、泥沼の中に咲く蓮の花のように、美しく、そして救いようもなく、残酷で、唯一無二のものなのよ!!」


 私は、二人を力一杯抱き寄せた。


 私の体温。私の、二人の幸せだけを願う、不器用で真っ直ぐな鼓動。


 それが、カトリーヌの冷たい魔力を、内側から溶かしていく。


(……届け。……私の、『オタクとしての魂』。……彼女たちの物語を、誰にも汚させないという、私の、私の、この祈り!!)


「……っ、……は……」


 クラウディア様の瞳に、光が戻った。


 彼女は、自分の手が私の首筋にあることに気づくと、雷に打たれたような衝撃と共に、その手を引っ込めた。


「……結衣? ……私、……私は何を……」


「……瀬良、さん……」


 真白様もまた、震えながら立ち上がった。彼女の瞳からは、大粒の涙が溢れ出していた。


「……ごめんなさい。私、あんな……あんな下劣な術に……。貴女を、失うところだった」


 二人が、私を奪い合うように抱きしめた。


 その温もりは、カトリーヌのスキルがもたらした偽りの恍惚とは違う、痛みと喜びが混ざり合った、確かな「生」の感触だった。


 食堂を支配していたカトリーヌの魔力が、ガラスが砕けるような音を立てて崩壊した。


 周囲の生徒たちも、魔法が解けたように困惑の表情を浮かべ、ざわめき始める。


「……そ、そんな……。ありえないわ。……私のスキルが、ただのモブの喚き声で無効化されるなんて……! 貴女、一体何をしたの!? どんな裏技を使ったっていうのよ!!」


 カトリーヌが、狂ったように叫んだ。


 私は、二人を背中に庇いながら、カトリーヌを冷たく見下ろした。


「……裏技なんてないわ。……私はただ、彼女たちを『解釈』しただけ。……貴女が彼女たちを自慰のための『駒』としてしか見ていないのに対し、私は彼女たち推しを『神』として崇拝している。……その解像度の差が、貴女の負けよ」


 私は、後方で腕を組む――。


 いや、今は違う。


 私の背後に私の推しカプがいる。


 守りたい人たちに、少しだけカッコつけるように、背筋を伸ばして前を向く。


「カトリーヌ。貴女の『ハーレムエンド』なんて、この世界には存在しない。……この物語のエンディングを決めるのは、貴女じゃない。……彼女たちの意志であり、そして、それを最後まで見届ける、私という観測者よ」


 私はカトリーヌの「人心掌握」スキルとやらに言ってやる。


「せっかくママクレカ意思で課金したのに、存外役に立たなかったわね?」



 ◇◆◇



 カトリーヌ・ド・ヴァロワが、クラウディア様の冷徹な一言によって、護衛兵たちに引きずられていった後。


 残されたのは、私と、そして二人のヒロインだけだった。


 開け放たれた扉から吹き込む夜風が、テーブルの上のティーカップに残った紅茶を、微かに、けれど残酷に波立たせている。


「……さて。これでようやく、不純物は排除されたわ」


 クラウディア様が、椅子の背もたれにゆったりと身体を預け、勝利を確信したような優雅な仕草で足を組んだ。


 彼女の視線は、もはや去っていったカトリーヌには微塵も向いていない。ただ、私の指先を、獲物を狙う鷹のように見つめている。


「結衣。貴女の温情には感謝するわ。あの子の命まで奪えとは、貴女は言わないものね。……だから、あの子には『系列の他校』へ転校してもらうことにしたわ。ここから数百キロ離れた、山奥の全寮制校。そこなら、貴女の視界に二度と入ることはないし、私の目が届く範囲で、一生を慎ましく終えることができるでしょう」


「……他校へ、……強制転校、ですか」


「ええ。あの子には、自分の『身の程』を知るための時間が必要よ。……結衣、貴女もあんな鼠のことは、もう忘れなさい。……明日からは、また以前のように、……いいえ、以前よりももっと深く、私たち三人だけの時間を積み重ねていきましょう?」


 真白様が、私の背後から音もなく忍び寄り、私の肩にその冷たい顎を乗せた。 彼女の指が、私の首筋に刻まれた「愛のキスマーク」を愛おしそうになぞる。


「……嬉しいわ、瀬良さん。……邪魔者は、もういない。……貴女を惑わす声も、……貴女を私たちから引き剥がそうとする『外の世界』も、……私が魔法で、すべて塗りつぶしてあげる」


 二人の愛は、今や完璧な形で結実しようとしていた。


 この学院において、生徒会長であるクラウディア様の権力は絶対だ。彼女が「黒」と言えば、一人の生徒の人生など、一晩で書き換えられてしまう。


 私は、二人の圧倒的な熱量に包まれながら、……けれど、心の中には、かつてないほどの、鋭く、研ぎ澄まされた「拒絶」が芽生えていた。


(……間違っていたのは、私だ)


 私は、二人の顔を見ることができなかった。


 カトリーヌに、偉そうに「後方腕組み」の美学を説き、観測者であれと説教した自分。


 なのに、今の私はどうだ。


 二人の間に挟まれ、その熱に溺れ、独占されることに微かな悦びを感じ、あまつさえ「特別な存在」であることに酔いしれていたのではないか。


 二輪の至高の花が寄り添う「聖域」に、泥だらけの靴で踏み込んでいるのは、カトリーヌだけではない。……私もだ。


(……あれだけカッコつけたんだもの。けじめを、つけなきゃいけない)


 私は、膝の上で握りしめた拳に、爪を立てた。


 もし私が、本物の観測者であるならば。


 物語を、本来の「美しき二人の世界」へ戻すべきなのだ。


 私がここに居続ける限り、クラウディア様と真白様は、私を奪い合うだけの「狂気の人形」になってしまう。


「……結衣? どうしたの、そんなに震えて」


 クラウディア様が、不審げに私の顔を覗き込もうとする。


「……いえ。……少し、気を張っていたので、疲れただけです」


 私は、精一杯の嘘を吐き、微笑んでみせた。


 これが、二人への最後のご奉仕になるだろう。


「……明日の朝には、きっと……もっと晴れやかな気分で、お二人にお会いできると思います」


「……そう。……楽しみだわ、結衣。明日の朝は、私の部屋で、最高に甘い朝食を用意させましょう」


 二人は、私の「覚悟」が、自分たちに完全に屈服した証だと誤解したまま、満足げにサロンを後にした。


 私は、一人残された静寂の中で、懐から一枚の真っ白な転学届を取り出した。


 学籍管理システムにアクセスする権限は、かつて二人が「利便性のため」と私に与えてくれたものだ。


 私は、ペンを走らせる。 行き先は、カトリーヌが飛ばされたのと同じ、系列の他校。


 そこは、クラウディア様でさえも、容易には手を出せない「他家」の勢力圏にある学校だ。


 この学院ではトップだった彼女も、その学校の権力者たちとは、まだ対等な、あるいは微妙な力関係にあるはず。


(……私は、お二人の間から消える。……それが、私の選んだ、最高の『解釈』だから)


 月光が、私の決意を静かに照らしていた。


 私は、二人に宛てた手紙すら残さないことに決めた。


 言葉を残せば、それは執着の糸になる。


 音もなく、存在そのものを、物語の余白へと消し去る。


 それが、……後方腕組みモブ女が、最後に示すべき「美学けじめ」だった。

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