第4話 ギルという町で
「リル、飛べ!」
ロイがスケート靴を履き、滑る勢いで高く小柄なリルを青い空へと放り投げると、リルもスケート靴を履いたまま、銀色の丈の短い、身体の線があらわになるワンピースを着て、宙で膝を抱えて回転をした。スカートの裾が、太陽の光を反射する。……地面に降りて、着地する。
「おおー」
そうした声援が起こる中、一方で、「大したことがない」という声や、「もっと命をはれ」と揶揄するような声、両手を開いて、首をかしげるような客もいた。
ロイは、思わずため息をついた。
デリを出たあの日から、リルと二人、旅芸人として、船であらゆる国を旅していた。
そうして、各国の文化に触れながら、芸を日々磨いていた。
さまざまな国の人々と出会い、その地方の踊りを教わり一緒に踊ったりもした。その国々の国歌や、民謡なども覚えた。
国によって、求められる芸の形は変わった。
ロイは、リルと二人試行錯誤しながら、さまざまな芸の特訓をし、身につけていった。
ここギルという町は今まで回った国と地域の中で一番栄えていた。
人の身なりも、きちんとした服装の人たちが多い。建物が密集していて、食べ物や、装飾品、洋服などの店が連なっていた。
ただ、ギルは、貧富の差が大きい町だった。……つまり、どこか犯罪の匂いの立ち込めている町でもあった。
ロイ達は半年前から、町の片隅に小さなコンクリートの部屋を一部屋借りている。小窓とキッチンが一つあるだけで、あとは二人が並んで眠れるくらいの広さの部屋だ。
夜になると草で編んだ敷物をしいてそこで二人で休んでいた。
この町ギルは、行きかう人もプライドが高い人が多く、子供の頃にいたデリの町のように、手のひらで独楽を回したり、生前、父から教わった手のひらから鳥を出す手品をして見せるくらいでは実のところ見向きもされなかった。
より難易度が高い、サーカスのような命がけの芸や、不本意だが、少し色っぽい服装をして各地で覚えてきた踊りを踊るなどしなければ、最初は観てもらうことも、お金をいただくこともできなかった。
町の広場で二人は芸を行っていた。
しかし、ひと月の間、サーカスの団員に交じって修行をさせてもらい身につけた技も、目の肥えた客にとってはほぼ付け焼刃のようなもので、やはり厳しく評価をしてきた。
芸に、スケート靴を取り入れたのは、町で最近作られたもので、周囲で流行り始めていたからだ。
それで、そこまで稼ぐことはできなかったが、リルは一番好きそうだった。
初めて、この町で真新しいもの(つまりスケート靴)を見たときに、リルの瞳がきらきらと輝いていた。
「ロイ……これ、なあに?すごく面白そう!」
「無理。無理だよ、リル。それ、いくらすると思っているの?」
「でも、駄目だわ。手にひっついて離れないの。この子、わたしの元に来たいのよ」
「ううん。その子、もっと別のお金持ちの人と縁があるみたいだよ」
リルは、だんだんとその瞳を潤ませてきた。
「わたし、わかるもん。この子はきっと、わたしの命を守ってくれるって」
「……」
その日から、お金がなくなったロイ達は、しばらく食事がまともにとれなかった。
……ただ一つ、真面目な表情で見てもらえるものがあることに気づいた。それは、歌だった。
二人で作ったメロディーに、歌詞をのせ心を込めて二人で向き合いながら歌うと、アカペラでも客から高く評価をしてもらえた。それは、家族への愛を綴った歌だった。
ただ、それも幾度も同じ歌と言うわけにもいかず、ちょっとエッジの効いたものや大人の歌詞が好まれることも多かった。
お互いに、決めていることが三つあった。
一つ目は、いくら貧乏でも、汚い事には手を染めずに、ひたすら芸でお金を稼ぐこと。
二つ目は、なにかに巻きこまれそうになったら、二人とも自慢の脚力でとにかくどんなにかっこ悪かろうとも全力で逃げること。
三つめは、一日に一回は必ず今は亡き父と母に手を合わせて、二人に今日の無事の報告をすることと、一緒に感謝を込めて祈ること。
これらを徹底して日々生き抜くことで、リルと二人、いろいろあった中、無事に年を重ねてきた。
しかし、ある時大きな事件が起きた。リルが悪い輩たちにさらわれたのだ。
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