第3話 旅立ちの朝

「リル。起きて」

「うーん。どうしたの、ロイ?」

「ちょっと、外に出て……話がある」


 リルは、ロイに促されるままテントの外へ出た。

 木々の間から木漏れ日が差し込む。


 ロイがおもむろに口を開いた。


「今日、この町を出よう」

「……急に何を言っているの?」

「いや、急なことではないんだ。ずっと考えていた。ここに居続けても、俺たちは変わらない。ずっと、父さんと母さんを殺した奴の呪縛から逃れられずに、鬱屈して生きていくだけだ」

「……」

「俺は、自分の人生を呪いたくはない。自分の命の可能性を伸ばしたい」

「……そんなことを考えていたんだね」

「リルの気持ちが聞きたい。リルはどう思うの?」

「わたしは……今傍にあるものの中で幸せを追求したい。何か、大きな刺激のようなものはあまり求めてはいないわ」

「お前は、ここにいて満足なのか?」

「うん。ここの町には思い出もあるし、懇意にしてくれるお客さまもいらっしゃるもの」

「……でも、俺は行くよ。お前ひとり置いてでも」

 

 リルは、ため息をつく。


「行かないとは言っていないわ。ロイ一人にはできないから」

 そう言って、リルは笑った。

 そのまま腰を落として、一輪の白い花をそっと摘んだ。シラヤマギクの花だ。


「ただ、一つお願いがあるの」

「何?」

「この町の、お世話になった方達皆に挨拶をきちんとさせてちょうだい」

「皆に挨拶……?……わかった。それじゃ、そのことをきちんと終えてから、今晩、船に乗ってこの町を出よう」


 そう言うと、ロイはテントの中に戻って何かごそごそしだした。


「どうしたの?」


 リルが尋ねると、ロイはこちらを見て優しい顔で笑った。


「最後に、今の僕たちにできる一番いいものを町の人たちに見せてから旅立とう」


 リルは、目を見開いてから笑顔でうなずき返した。


「……うん!」


 あの出来事から一年後の日のことだった。


 リルはロイと、この町を出た。


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