第3話 仕手戦
3 仕手戦
見事に南満州鉄道の株式購入の枠を得た男だったが、満洲への熱い思いを吐いた舌の根も乾かぬうちに、日本国内でその権利を売り始めるのだった
シナリオはこうである
もうすぐ満州鉄道の株が上場されるが、これは国策企業であり、絶対に儲かる株である、大変な人気になることは火を見るよりも明らかである
購入希望者が殺到して、購入することはできないだろう
しかし、あなたは本当に運がいい
私は、満州鉄道に顔が利く、すでに25万円の購入枠を持っている
なぜなら、私は露西亜貴族で、かつて東清鉄道(満州鉄道の現物出資分)を運営していた企業の人間である、満州鉄道も自分達の関与なしに列車を走らせることはできなかっただろう
ゆえにこのような優遇を受けているのであると
私は十分に枠を持っているので、あなたにその一部を格安で譲りたい
先にも言ったが、この株は必ず値上がりする
絶対に儲かる株なのだ
この男は、とにかく口がうまい、しかも美男である(詐欺師、結婚詐欺師でもいけるだろう男前、さらに貴族然とした立ち居振る舞いをしている)
日本の有閑マダムたちの間には、この話に飛びつく女性が多数いたという
しかも、枠を売り渡す金額は、上場額の三倍である(格安のはずだが・・・)
三倍というところが、この男のこだわりなのかもしれない
現実的には、三倍という価格はそれほど割高というわけでもなかった
満鉄が存在していた間は、約7%の配当を無理をしてでも支払っていたという
つまり、30年間持ち続けていれば、配当だけで金額を回収可能な金額でもあった
(72の法則、何%の金利であれば、倍のなる年数を簡易に計算できる優れもの。
例えば利息2%の場合、預けた金額が倍になるには、72÷2=36。つまり36年間で倍になるという計算方法である)
三倍偉大な男は、枠を3倍の価格で売り切った
つまり、75万円を手にしたのである
だが、ここで止まるような男でもなかった
その75万円を担保に銀行から225万円(三倍)の資金を借り受ける
その融資での話し合いの中で出てきた人物は、帝国の誰もがしる人物の名前であった。『私は、参謀総長児玉源太郎大将の無二の親友である』と銀行側も内々に情報を確認してみると、コロシス何某は児玉大将の命の恩人である言われていると報告があった
こうして、男の手元には300万円の現金と25万円が残った
当時の100万円が現代の400億円つまり現代の1200億円相当の金を手にした男であった
実際の株式上場では、満鉄株にはやはり購入希望が殺到する(歴史的事実)
男は優先権で25万円分購入し、枠の持ち主に順調に株式を譲渡していた
しかし、水面下では同時に、300万円で購入希望を出しており、50万円分を購入することができていた
更に、残った250万円で買い攻勢をかける
株式価格はすぐに三倍を突破した(買い板につぎつぎと大型の注文を入れ、値段が上がると、注文を取り消して、さらに上の価格で買いを入れるという戦法で値を釣り上げた)
満鉄株は完全にバブル状態に陥っていた
そもそも、上場したばかりの会社、利益が出るかどうかもわからないものである
兜町では仕手筋から大量の買いが入ったとのもっぱらの噂であったが、株価が急落し通常の価格へと帰って、仕手筋は姿を消したのである(いわゆる行ってこいの状態)
結果、300万円は1500万円へと化ける
当然、その仕手筋とは三倍が設立した投資ダミー会社である
売買の担当したのは、三倍の部下の執事である
彼は直感的に何かを感じる力を持っており、適時に買いと売りをうまく捌いた
銀行からの借金を225万と利子25万円を支払い手元に1250万が残った
仕手戦で値段を上げ、ピークで売りをかけるという戦法で執事は圧倒的な才覚を示して見せた
それは、人間の仕業には思えないような戦果であった
正に兜町の風雲児と異名をとるほどの切れ味であったという
「よくやってくれた、セルバンテス、貴様のおかげだ」
「は、閣下のお役に立てて光栄に存じます」
価格が三倍以上に上がった後、信用売りでも儲けたために、莫大な資産を作り上げたのである
◇ ◇ ◇
三宅坂の陸軍参謀本部の庁舎に、執事を連れた男が現れた
受付で、
「私は、こう見えても、日本人の三倍偉大という」
明らかに、日本人の血は一滴も入っていなさそうな、容貌であり、さらにいえば執事も外国人であった
しかし、日本語はまさに日本人のものであった
「それで、三倍様は、ここにいかなご用事がおありでしょうか」
「明石元二郎大佐に、旧友の三倍が会いにまいったと告げてほしい
きっと飛びあって、迎えに来てくれるであろう」
自信に満ちた発言である
そんなことがあるのだろうか?受付の兵も考えたに違いない
まず、そんなことは起こりえないからである、様々な人間がやってくるが、飛び上がって本人がやってくることなど見たこともない
だが事態は一変する
カツカツと大勢の人間が猛スピードで走って駆けつけてくる
大喝一声「貴様!そこへ直れ!」軍刀を引き抜いた明石が激高していたのである
しかし、怒鳴られた方は、何もなかったように立っている
「いや、明石閣下、少し落ち着いたらどうですか、さすがにうれしいのは、わかるのだが」
その反応を見て明石の顔色が赤を通り越して黒になる
「その首切り落としてくれるわ!」
「お待ちください大佐!」数名の尉官が明石を後ろから羽交い絞めにしている
参謀本部で刃傷沙汰などあってはならない
「まあ、そう興奮することもない。少し落ち着き給え」
「黙れ!」明石が軍刀を向ける
その時、執事セルバンテスが動いた
一刹那で間合いを詰めて、刀の腹を叩く
パキンという乾いた音が鳴り、剣先が宙にくるくると舞っている
「我が主人への無礼は、このセルバンテスが許しませんぞ」
殺気のような何かを放射しながら執事が言う
明石は、まるで何かの圧力を感じたかのように後ろに押されるような気になるのであった。
◇ ◇ ◇
三倍偉大な野望への資金
25万円分の南満州鉄道株式会社の株式購入優先権を確保
児玉源太郎大将の友人に成り済ますことに成功!
ペーパーカンパニー 「トリプル投資顧問」設立
↓
優先購入権を、有閑マダムに3倍の価格で売るつける現金75万円
75万円を見せ金に、偽の事業計画で銀行から融資225万円を借り受ける
現金225万円を確保
↓
合計300万円(元の25万円は株を買い、マダムたちに分配)で株式を購入し
仕手戦を仕掛ける、結果大勝。
差し引き1250万円(現在価値5000億円相当)を手に入れる ←今ここ
幻影の将軍 ~満州の陽炎~ 三倍偉大なる彼の人は斯く戦えり 九十九 @tsukumotakano
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。幻影の将軍 ~満州の陽炎~ 三倍偉大なる彼の人は斯く戦えりの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます