第2話 神人、満州の大地に立つ
2 神人、満州の大地に立つ
時は過ぎ、1906年の春を迎える
満州、大連の土地はひどく寒い
「何たることだ、私のような神人がこのような酷寒の地に来なければならないとは」
その男は関東州大連市の町中にいた
日露戦争により、露西亜の東清鉄道と満洲支線を手に入れた日本帝国がその鉄道を運営するために設立したのが南満州鉄道株式会社である
その本社が、この関東州大連市に置かれていたのである
日本にいたころは、スーツ姿であったが、今はそれに真っ赤なコートを羽織っていた
盗み取った金で購入したのだろうか
男の中では、金は借りたことになっているので、何の痛痒も感じることはない
儲けて返せばなんの問題もないのだ(あくまでも神人の感覚なので皆さんは真似しないようにお願いします)
このような人種に共通する感覚である
しかも儲け話が失敗したときは、その借金(盗んだ金)の存在すら記憶から消してしまうのだが・・・
南満州鉄道株式会社 本社受付
「君、この会社で一番偉い人間を呼んでくれ給え」
受付の娘にそう言い放ったのである
ふつうは、そのような
だが、金髪碧眼の美丈夫が真っ赤なマントも鮮やかに命じれば、帰れとも簡単に言えぬほどの風格がある
「どちら様でございましょうか」
「私は、
「左様でございますか、本日はどのような内容でこちらに参られたのでございましょうか」
受付嬢が舞い上がるほどの美しさと風格と威厳があった
「うむ、実は帝国陸軍大佐の明石君が、今度こちらで株式を発行すると教えてくれたのでやってきた」
そういうことで、その男と執事らしき人物は客間に通されることになる
執事をつれていることも簡単に対応できない人物であると思わせた原因の一つであろう
執事の名は、セルバンテスという
グレーの髪に深い青色の瞳、口ひげとあごひげを蓄えた優し気な老紳士然としている
「少々お待ちください」
受付嬢も株式上場の情報は知っていたので、どうしたものかと考えざるを得なかった
それに、この貴族然とした態度と気品は、一般人とは明らかに違うように思われた
(詐欺師という者は常にそのようにして人を騙す手口ではあった)
その時、たまたま、とおりかかったスーツを着込んだ男がいた
「明石だと!」これらの会話は日本語で行われていた
金髪外国人は、日本語を母国語のようにしゃべっていたのだ
受付嬢も日本人であった
「貴様、明石の知り合いか!」それは、帝国陸軍の参謀総長であり、この満鉄の創立委員長でもある児玉源太郎大将であった
「どうも、閣下、その通りです。明石君とは旧知の知り合いでしてね。
露西亜の貴族、コロシス・ギールといえばあちらではちょっとしたものなのです」
大げさに、両手を広げて礼をする男
児玉源太郎大将が参謀本部次長であったころ、明石大佐に資金を与えて工作を命じたのであった
当然、その明石の知り合いの露西亜人ということであれば、間違いなく帝国のスパイとして活動してくれた人物であろう
児玉はそう考えたのだ、そう考えても不思議ではない
因みに、コロシス・ギールは露西亜向けの偽名である(窓口ではヘルメスで名乗っていたのだが)
明石には、三倍偉大(みます いお)として名乗っているので間違っていることになるのだが、このような人種はそんなことを気にしたりしない
「そうか、私は明石の上司であったこともあるのだよ」笑顔で答える児玉、日本のために諜報活動を手助けしてくれたと思うからこそである
「そうなのですか、それでは私とも友人以上の仲といえるでしょう」笑顔を浮かべる金髪
本当の間柄は、金を盗んだ者と盗まれた者の関係、まさに
応接間に通された男と執事
「それで、今日はどうしたのだ」児玉が問いかける
「勿論、南満州鉄道の株式のことです。この鉄道事業はこの地を、そして満州を変革させる力を持っています、私はそのお手伝いをしたいと思い馳せ参じたという次第です」まさにその通りであり、近代的な大連市の基礎を作り出したのは、満鉄であり、このころはほとんどがただの空き地というあり様であったのだ
「そうか、それはありがとう。だが、株式は上場して売り出すことに決まっている」
「閣下、私はお国のために、是非とも参画したいと考えています。」
そもそも、お前のお国は露西亜ではなかったのかと誰かが言いそうなものだが・・・
「貴君の志と申し出はありがたいのだが、市場公募でと決まっているからな」
さすがの児玉も勝手に株を売るわけにいかなかったのだ
「そうですか、非常に残念です。せっかく25万円という大金を用意したのですが
、故郷の全財産を擲って、満州の改革に寄与したかったのです」
金髪は打ちひしがれたというような姿になる
その姿が絵になる男ではあった
「そこまでの決意であったか、ならば儂もその心意気にこたえねばなるまい」
児玉源太郎はそういう男であった
児玉が経理部長に、直談判をし25万円分の優先購入権を勝ち取ってくれたのである
この時代、縁故の話はよくあることで、創立委員長で陸軍大将、参謀総長の意見を止めることができる人間がいるはずもない(参謀総長といえば陸軍である、因みに海軍では軍令部長がそれにあたる役職名である)
「ありがとうございます、児玉大将」
「いや、貴君の志の高さに感銘を受けた故である、気にすることはない」
「まさに、日本にこの人ありと言われた児玉大将、本当にありがとうございます」
ヒシと両手を握り合う男たちである
「ところで、」
興奮も冷め、着座した二人、突然表情を変えたやさ男が語り始めるのであった
「閣下は私の恩人、これからはどのような時でも、火の中、水の中、恩返しをしたいと思っています」嘘つきが言いそうな言ではある
「そんなにきにするな、儂も貴君を立派な男だと感じいったのだ、むしろ友人だ」
「ありがとうございます、では私も友人として、聞こう。近頃、体に変調はないのかい」
錬金術師というものは、かつて存在していた(今も存在しているかは不明)が
当時から、様々な知識と見識を持っていたため、医者の代わりをするものもいたという
そんな、錬金術師の始祖というべきヘルメスがそのような知識、技術を持っていたとしてもなにもおかしいことはない
それは、児玉源太郎の所作や表情から何かを読みとったのかもしれない
彼ほどの才覚を有していればできるのかもしれない
さにあらず、ヘルメスに交じりこんだ何者かの記憶である
その記憶によれば、この後、児玉源太郎は脳溢血で死亡するのである
それを記憶が知っていたのである
脳溢血の場合、自覚症状が出る。
そのこと病気自体は知っていたので鎌をかけてみたのだ
「!そういえば近頃、頭痛がひどくてな、それに吐き気を催すことがある」
「そうでしょう、少し表情などが気になっていたのです。それは脳出血の予兆です、気をつけねばなりません」働きすぎの児玉が起こしそうな病である
児玉は蒼白になった
「閣下は、いくつもの職を兼職し、大変忙しい日々をおくっている。無理をしすぎているのでしょう、大変危険なことですぞ」
冷汗が顔を伝う
「しかし、我が国の危機故、致し方ないのだ」苦悩する児玉
「危機は去りましたぞ、露西亜は当分せめてはきませんからな」金髪の男は知っていたのだ
この時期、日本が恐れていたのは、露西亜の報復戦争であった
児玉の前任の田村怡与造参謀本部次長も疲労により急死していたのだ
対露西亜戦線が非常に忙しくさせていたのは確実な事実であった
「本当か?」
記憶ではそうなっているので問題ない
「ええ、私は露西亜に協力者を持っていますから、確実ともうしてもよろしいでしょう」
「そうか!」児玉の顔が晴れやかな笑顔になった
「ですから、閣下はこれを飲まれるがよろしいでしょう」
そういって差し出したのは茶色の薬瓶であった
「それは?」
「ニトログリセリンです、血管拡張作用がありますので、一日一錠お飲みなさるのが
よろしいでしょう」
「君は儂の命の恩人だ、いつでも儂を訪ねてくれ」
こうして二人は固い握手を結ぶ(2回目)のだった
◇ ◇ ◇
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