12 次回予告
天界。
人間の住む世界とは別の世界。その天界に浮かぶ大陸のような大きな雲の上には、町のような巨大な宮殿が聳え立っていた。その宮殿の一室、西洋風の宮殿とは不似合いの畳の敷かれた和室で狼の少年――
テレビへと接続し終え、ネットワーク機器にも繋ぎ、最後にゲーム機本体の設定を調整する。
「これで遊べると思います」
その白狼の言葉を聞き、座布団の上に座っていた女性が待っていましたとばかりに立ち上がる。
「おぉ! これでついに小乃葉と一緒に遊べるのじゃな! 楽しみじゃなぁ! さっそく通話してみるかのう!」
「駄目ですよ神様。今、小乃葉様は学校のはずですから」
「そ、そうか。残念じゃのう」
白狼はしょんぼりとする女性の姿に苦笑いしながら「また何かあったら呼んでくださいね」と言って部屋を出ようとする。
「うむ、世話をかけたのう。……それと白狼よ」
「なんですか?」
足を止め振り返った白狼に向かって、女性が優しく微笑む。
「ケルベロスの件、ご苦労じゃった。悪魔との戦いなぞ数百年ぶりのことじゃったが、見事な活躍じゃったな」
これで何度目かわからないほど何度も白狼に送られた、ケルベロス退治に対する賛辞の言葉。それほどまでに女性は今回の件による白狼の活躍を評価していた。
何度目だろうとも仕える主人に褒められるのは嬉しいなと白狼は感じながらも、その感情を表に出さないよう「お役に立てて光栄です」と冷静に答える。
「では失礼します」
「うむ」
そう言葉を交わしてから白狼は和室を後にする。そのまま宮殿の廊下を歩いていると、進む先に背の高い青年が腕を組んで目を瞑り、壁にもたれかかっていることに気づく。
きっと自分が通るのを待っていたのだろうと判断した白狼は、江戸時代の侍のような恰好をした青年に向かって呼びかける。
「何か用か、
聖牛と呼ばれた青年が、壁から背を離しゆっくりと白狼に向かって歩き始めた。
「悪魔を倒したそうだな」
聖牛は頭に生やした二本の牛の角のように、鋭い視線を白狼に向けながら言葉を続ける。
「一人ではなく、人間の手を借りて」
その言葉に、白狼は自分を侮蔑するような感情が籠っていることに気づいたが、聖牛が喋り終えるまで待つことにした。
「代々神使を束ねてきた狼の神使。その座を継いだものが悪魔一匹倒すことすら、人の手を借りねば成せぬとは。栄枯必衰だな」
白狼の横までやってきた聖牛が、すれ違う瞬間、立ち止まる。お互い、相手の顔を見ず、真っすぐ前を向いていた。
「何が言いたい?」
白狼の問いに聖牛が返す。
「拙者なら、人間の力なぞ借りずとも一人で倒してみせた」
そう言って聖牛は再び歩き始める。去り行く牛の神使――聖牛の後ろ姿を見ながら、白狼はため息を吐く。果たして彼と上手くやれるのか……。
ただし白狼が上手くやれるかと心配しているのは、聖牛と自分のことではなかった。
聖牛と人間の少女――小乃葉のことを思って、白狼は心配していた。
魔界。
人間の住む世界とは別の、地獄と呼ばれる地域が存在する世界。その魔界にある国の一つ、グリフォンの翼を持ち牛の頭を持つ巨人の悪魔が統べる国。
玉座に座る牛頭の悪魔――ザガンは自身に向かって頭を垂れて整列している配下の魔物たちを眺める。
「で、話しとはなんだ?」
ザガンが配下のうちの一体に向かって言う。その声を聞き、何体かの魔物が恐怖で身震いをする。
「マルバスが〈悪魔顕現〉を完成させました」
頭を下げたまま告げる人型の魔物に、ザガンは「知っておるわ」と冷たく言い放ってから言葉を続ける。
「魔界一の天才などと嘯いておる奴らしい、大層な割にさして役に立たぬ技術だ。わざわざ醜く、脆弱な姿に変えてまで人間界に行ってどうする」
ザガンが言葉を紡ぐたびに怯える魔物たちだったが、会話をしている人型魔物だけは全く臆さずに話を続ける。
「ですが、〈悪魔顕現〉を使ったケルベロスは〈真化〉に成功しました」
「……なに?」
ザガンが僅かに驚く。
「もっとも、人間と神使に倒されて魔界へ戻ってきましたが」
その報告を聞き、先ほどとは違い声こそ出さなかったが、ザガンはさらに驚いたような表情を浮かべる。
そのザガンに向かって、人型魔物が立ち上がって言葉を続ける。その様を見て、ザガンは僅かに眉を顰めた。
「次はザガン様が人間界に行ってみてはどうでしょうか?」
そう提案する人型魔物の姿を見ながら、ザガンは玉座の横に立てかけられた斧を手に取る。
「……貴様」
ザガンが斧を人型魔物に向かって投げつける。斧は魔物を真っ二つに割き、玉座の間の床に突き刺さり、周囲に瓦礫を舞い散らした。
その惨状を見た周りの魔物たちが声を上げて怯える。
「何者だ?」
ザガンは真っ二つになった自身を前に怯えず意見を述べる魔物だったものに、問いかける。
「おいおい、久しぶりに会ったっていうのにひでぇーじゃねーか!」
飄々とした口調と共に真っ二つに裂けたはずの魔物がくっついて元に戻り、どろどろと体の表面が溶けるように崩れ、中から線の細い男が姿を現す。背中から虫の羽が生えていた。
その姿を見てザガンが正体を口にする。
「ベルゼブブか。何しに来た」
その名前を聞きザガンの配下たちは驚くと同時に一斉に武器を手に取り身構える。ザガンの配下に包囲されたベルゼブブだったが、全く気にせず話を続ける。
「さっき言ったろう? オマエに情報と提案をしに来たんだよ。どうだ、面白い話だったろ?」
ザガンは返事の代わりに手を伸ばす。すると床に刺さった斧は浮き上がり、ザガンの手元へと戻っていった。
「……ふん!」
そうして手元に戻ってきた斧を再びベルゼブブに向かって投げつける。しかし斧が当たる直前、ベルゼブブの姿が霧のように消える。
「そんな怒るなよ! わかったわかった、今日のところは帰るさ。今度来た時はお茶でも出してくれよな!」
姿は消えたにもかかわらず玉座の間に響き渡るベルゼブブの声。その声がやむと同時に、玉座の間が慌ただしくなる。
ある魔物は侵入者を追い、ある魔物は玉座の間の警備を固め、そしてある魔物はザガンに向かって頭を下げる。
「も、もうしわけありませんでした!」
侵入者に気づかなかったことを詫びる配下に向かって、ザガンは黙って手を振り「よい」と告げる。そのジェスチャーを確認してすぐに玉座の間を飛び出していく魔物を見ながら、ザガンは思った。
ベルゼブブの話に乗ってやるのも一興か、と。
天界と魔界、それぞれの思惑によって動く者たちにより新たな戦いが起きようとしている中、人間界――人間だけでなく動物、植物、微生物と様々な生き物が存在する世界にある、日本という国の埼玉県の一軒家、姫野家の台所でも一つの戦いが始まろうとしていた。
ドアの開いた冷蔵庫を見ながら少女――姫野小乃葉は叫んだ。
「私のデザートを勝手に食べたのは誰だぁ!」
あくまたたき @nagayama_terrier
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