7 白狼

 狼の神使……そっか。万が一悪魔が〈真化しんか〉したときは、神様が狼の援軍を送ってくれるって言ってたっけ。

 狼って言ったから獣の狼を想像してたけど、助けに来てくれたのは狼少年の白狼しろうくんだった。あっ、狼少年って言うとなんか白狼くんのことを嘘吐き少年って言ってるみたいになっちゃうな。


 それにしても……風通しの良くなった音楽室の壁を見る。白狼くんに蹴っ飛ばされたケルベロスがぶつかって壊れた壁。


「白狼くん、ケルベロスをまさかの一発KOじゃん。凄っ」


 神様が「悪魔と十分に渡り合える」なんて自信満々に言うのも納得だよ。私と同じぐらいの年齢の男の子にしか見えないのに、あの大きなケルベロスを簡単にやっつけちゃうなんて。

 なんて関心していた私に白狼くんは申し訳なさそうな顔をする。


「その……小乃葉様。褒めていただけるのは嬉しいのですが、あの程度の攻撃では〈真化〉した悪魔は倒せません」

「げっ、そうなの?」


 白狼くんが返事するよりも先に、外から「うおおおおおん!」という遠吠えが聞こえてくる。本当だ、まだまだ元気そう。

 窓の方を見ると、地面からここまでジャンプしてきたらしいケルベロスが壊れた壁の穴から音楽室へと入ってくる。巨体のケルベロスが着地した衝撃で音楽室の床が揺れた。

 ここ四階なんだけど。ケルベロスの奴すんなりと戻ってきたけど、どんなジャンプ力してんの。マリオかよ。


「小乃葉様、危ないので僕の後ろに下がっててください」

「わかった。応援はまかせて」


 あんな化け物相手に私に出来ることなんて応援ぐらいしかなさそうだし、白狼くんの指示通りに戦いに巻き込まれないよう音楽室のドア近くまで退避する。ここから狼の神使と三つ首犬悪魔の戦いを見守ろう。


 ケルベロスは私のことなんて目にくれず、三つの頭にある六つの眼全てを使って白狼くんを睨みつけていた。「うううう」と威嚇するように低く唸る。自分を吹き飛ばした相手に怒っているようだった。

 そんな怒りの感情を表にするケルベロスとは反対に、白狼くんは余裕綽々と言った感じ。


「せっかく〈真化〉したのに、偉大なる神様の右腕である僕が相手だなんてついてなかったな。悪いが、すぐに魔界に帰ってもらうぞ」


 ん? 魔界?


「ねぇ、白狼くん。ケルベロスって地獄の番犬らしいけど、送り先は魔界でいいのかな。地獄に返さずに魔界に返したら外来種となって問題にならないかな」


 白狼くんに聞こえるよう、音楽室入り口から大きな声を出して聞いてみる。私の質問に白狼くんはまるで先生のように答え始める。


「小乃葉様、魔界というのはですね、悪魔が住処にしている色々な世界のことを呼んでいるんです。一つだけじゃないんです。ですから地獄も魔界の一つなんで……ってあぶねぇなこの野郎!」


 私に向かって説明中の白狼くんに、ケルベロスは机や椅子を吹き飛ばしながら襲い掛かる。

ケルベロスの掻くような爪攻撃を白狼くんはさっと避ける。

 これ、応援どころか邪魔しちゃってるな、私。白狼くんの気が散らないよう黙っておこう。


「調子に乗るなよっ!」


 白狼くんに蹴られて、ケルベロスの頭の一つが顔を歪める。しかし残った二つの頭が、お返しとばかりに白狼くんを噛み砕こうとする。その噛みつき攻撃を掻い潜る白狼くん。そこをさらにケルベロスの太い前足が襲う。

 白狼くんは避けきれず、薙ぎ払うように振るわれた前足によって吹っ飛ばされてしまう。

ケルベロスがぶつかって壊れた壁とは反対側の方に吹っ飛び、窓のガラスを破って外へと落ちて行ってしまう。

 さっきは白狼くんがケルベロスを場外へ吹っ飛ばしたけど、今度は逆にやり返されてしまった。


「えぇー!? 白狼くーん!」


 大丈夫なのこれ!? 無事を確認しに窓へと駆け寄ろうとして……獣の吐息に気づく。

ちらりと吐息がする方を向くと、白狼くんを場外に吹っ飛ばし敵のいなくなったケルベロスが、音楽室に残った獲物へと視線を向けていた。獲物、つまり私。


「いや、待って待って。さっき白狼くんがいる時は、私なんて眼中にないって感じだったじゃん。その調子で今も見逃してくれたりなんて……?」

「うおおおおおおん!」

「駄目かぁ!」


 ケルベロスが吠えると同時に、私は音楽室のドアを開けて廊下へと飛び出る。

 音楽室は四階校舎の端、廊下の突き当りにあるため、私の目の前には一直線の廊下が広がっていた。そんな走りがいのある直線コースを全力で走り始める。

 後ろで物凄い音がしたので、走りながらちらりと振り返ると音楽室のドアが壊され、ケルベロスが廊下へと出てきていた。

 ケルベロスは体に纏わりついたドアの破片をぶるぶると体を振って落としてから、獣らしく四つの足を使って走り始める。追ってきたぁー!


 全力で走る私を、ドスドスドスドスと重そうな音の割に速いテンポで繰り返される足音が追いかけてくる。そんな重そうな足音してんなら、もうちょいゆっくり走ってこいよぉ!

 やばいやばい。私、体育の成績2なんだぞ。私の走る速度じゃ、アイテムボックスから速度アップキノコを拾わない限り、すぐに追いつかれちゃうぞ。よく考えたら純粋に速度勝負になる直線を逃げるんじゃなくて、姿を見失ったり小回りが必要になる階段を使って逃げた方がよかったのかも。


 なんて後悔しても、階段は廊下の端に設置されてあるため、廊下の半ばまで走ってきちゃった私にはどうすることも出来ない。

 後ろから聞こえる元々大きな足音が、さらに大きくなっていく。もう無理だぁ! このまま走ってても追いつかれちゃう! 一旦、近くの教室に逃げ込もう!

 扉に手を掛ける。夢中で走ってて確認する暇ないけど、たしかここは理科室。力をこめ、ドアを引こうとして……。


「あかねぇー! 嘘でしょ!? しっかり施錠してて偉いけどぉ、今は違うでしょお!」


 ドアを開けようと立ち止まっちゃったので、ケルベロスはすぐそこまで迫ってきていた。


「小乃葉様!」


 廊下を塞ぐほどの巨体のケルベロス。その巨体の後方、私の位置から僅かに見える音楽室近くの階段から白狼くんが現れる。

 彼の声に反応し、ケルベロスは私の目の前で止まった。あぶねえ、助かったぁ!


 ケルベロスは再び現れた敵である白狼くんへと向きを変え……変え……変えろよ。なんで向きを変えずに、私見てんの。……なんかやばそう。

 危険を察知した私はケルベロスから逃げるように走り出す。その私をすぐにケルベロスが追い始めたのが、後ろから聞こえてくる足音でわかった。


「馬鹿野郎! 私なんて雑魚は後回しにしろぉ! 何時でも倒せるだろうがぁ!」

「うおおおおおおん!」

「小乃葉様ー! 今助けに行きます!」

「お願いはやくきてー!」


 廊下を曲がって下り階段へ。一段抜かしで駆け降りる。手すりに掴まりながら、階段の踊り場をUターン。私を追いかけてきたケルベロスが、全段飛ばしで階段の踊り場に向かって跳躍するのが見えた。着地の時にズシンと大きな音が鳴る。その音を背中で浴びながら、階段を駆け下り三階へとたどり着く。


 その瞬間、嫌な予感がして飛び退く。三階の廊下をごろごろと転がる私。先ほどまで私が立っていた場所にケルベロスがズシンと着地する。あぶなっ。ドッスンに踏まれたみたいにぺちゃんこになるところだったよ!

 ぎろりと私を見る三つの頭。急いで立ち上がろうとするけど、私が立って逃げだすよりケルベロスが飛び掛かってくるのが速そうだった。


「おい卑怯者! 無抵抗な小乃葉様ばっかり狙うのをやめろ!」


 白狼くんの声。次の瞬間、階段から飛び降りてきた白狼くんがそのままの勢いでケルベロスに蹴りをお見舞いする。私より背が大きいとはいえ相手のケルベロスと比べたら重さ比べは勝負にならないはずなのに、白狼くんがケルベロスの横腹に放った飛び蹴りは、巨大な三つ首の犬を吹っ飛ばして廊下の壁に打ち付け、そのまま壁を破壊し外へと追い出してしまう。すげー、スマブラみたいに吹っ飛んでった!


 ……でも安心できないんだよね。さっき音楽室で白狼くんに吹っ飛ばされた時も、すぐジャンプして戻ってきたし。てか吹っ飛んだり復帰したり、マジでスマブラみたいな戦いだな。

 私は一人、死にゲーをやらされているというのに。


「小乃葉様、無事ですか!?」

「なんとか無事。助けてくれてありがとっ。……アイツすぐ戻ってくるんだよね?」


 ケルベロスが落ちていった壁の穴を指差すと、白狼くんが頷く。


「すぐに戻ってくると思います。悔しいですが先ほどの僕の蹴りでは、大したダメージにならないでしょうね。そこでですね、あいつに致命打を与えるための話を小乃葉様としたいのですが……」


 外から「うおおおおおん!」とケルベロスの遠吠えが聞こえてくる。また外に落とされたことが悔しいのか、負の感情がたっぷりと籠ってる恐ろしい遠吠えだった。

 その声を聞いて舌打ちする白狼くん。


「ちっ、煩い奴だな。小乃葉様、話す時間を作りたいので、あいつと距離をとりましょう」

「わかった。でも私、そんなに足が速くないから、たいした距離稼げないかも……」

「大丈夫ですよ。失礼します」


 白狼くんに抱きかかえられる。


「えっ、なに!?」


 これは……お姫様抱っこって奴では!? 今ここにプリンセス小乃葉が誕生してしまったのでは!? こんな状況だけど、ちょっといい気分!


「舌噛まないように口を閉じていてくださいね」

「ええ。よろしくてよ」


 プリンセス気分の私はプリンセス言葉でお返事をしますわよ。……ん? 舌噛まないようにってどういうこと?


 白狼くんが私を抱えたまま駆け出す。速っ! あっという間に三階廊下から渡り廊下へ。外に出た瞬間、私の髪が風で滅茶苦茶になる。そうして音楽室がある特別教室の校舎から、私たちの教室のある校舎へと移動する。


「うおうおうおう~」


 ケルベロスじゃなくて、私の声です。抱っこしてくれてる白狼くんには悪いんだけど、乗り心地最悪! 凄い速さで走るせいか、私の頭が滅茶苦茶揺れる。舌噛まないようにってこういうことかぁ! 赤ちゃんみたいに首に手を添えてもらいたい。

 落ちそうで怖かったので白狼くんにしがみつく。


 白狼くんは走る速度を全く落とさずに、二年生教室がある三階廊下から階段へ。私を抱えたまま、上階に向かって大きくジャンプ。怖い怖い! 降ろして欲しい!

 私を抱えてるにもかかわらず難なく階段を飛び越えた白狼くんは、重力を無視するように踊り場の床ではなく壁に着地し、そのまま壁を蹴って、残りの階段を全部無視して四階廊下へと着地する。


 三階から四階まで、一段も階段を踏まずに移動した白狼くんはそのままの勢いで四階廊下を駆けていく。そうしてある程度進んだところで急に止まり、すぐ近くのドアを開けて教室の中へと入る。ここは一年生の教室かな。


「ここまで来れば、少しは話す時間ありそうですね」


 白狼くんが抱えていた私をそっと降ろしてくれる。


「それでは何から話しましょうか……小乃葉様?」


 私の顔色を見て心配そうにする。


「大丈夫。ちょっと給食が胃袋から這い寄ってきただけ。混沌が這い寄るよりは可愛いもんだから」

 あともうちょっと抱っこ状態で移動してたら、這い寄る混沌(給食)が私の口から降臨してたけど。


「無理しないでくださいね。神使の僕にはわかりませんが、人間にとって悪魔と対峙するということは凄まじい恐怖でしょうから」


 恐怖したのは悪魔じゃなくて白狼くんの高速移動抱っこなんだけど、言うとややこしくなりそうだから黙っておこう。


「うん、わかった。それでアイツを倒すための話しがしたいってことだけど……ん?」

「どうかしましたか?」


 私と白狼くんが逃げ込んだ一年生の教室。私の教室と同じように整列された机の上には教科書やノートが開かれたまま放置されていた。黒板には授業内容が羅列してある。

 今まさに授業中といった光景だけど、その授業を受けている人間は一人もいない。まるで突然人間が消えてしまったみたい。

 この光景を見て、私は音楽室のことを思い出した。


「あのね白狼くん。ケルベロスが〈真化〉して音楽室に現れた後、少ししたらクラスの皆が消えちゃったの。ケルベロスに何かされちゃったのかな? 皆はどうなっちゃたったの?」

「あぁ、それは周りの人が消えたんじゃなくて、小乃葉様が移動したんですよ」

「私が移動した? でも私、ずっと音楽室にいたけど」

「いえ、音楽室にケルベロスが現れた後、小乃葉様は僕によって、僕が作ったこの世界に移動したんです」


 白狼くんは「この世界」と言って教室の床を指差す。ここは知らない一年生の教室だけど、その床は私の教室そっくりの床だ。


「えっとぉ……白狼くんが言うには、私が今いるのは白狼くんが作った世界ってことなんだよね?」

「そうです」

「でも私の通ってる学校にしか見えないけど……」

「えぇ。この世界は、小乃葉様のいた学校とその周辺をそっくり複製した世界ですので。神様なら一から世界を作るなんて造作もないことなんですが、その使いの僕には無理なので複製という手段をとりました。僕ら神使は〈複製世界〉って呼んでます」


 世界をコピー&ペーストしたってことなのかな。データみたいにそんな簡単に複製出来るのかわからないけど。そんなことを思いながら、白狼くんの話しの続きを聞く。


「あのまま人間界で僕とケルベロスが戦ってしまうと、周りの人や物を巻き込んで大きな被害が出てしまいますからね。ですから急造の世界を作って、小乃葉様とケルベロスをこちらに隔離したんです」


 たしかに白狼くんの言うとおり、さっきからドアとか壁とか壊れまくってるもんね。


「……ん? 今、私とケルベロスを連れてきたって言ってたけど、ケルベロスだけ連れてくればよかったんじゃないのかな? 無責任なこと言うようだけど、正直、私が居ても足手纏いだし邪魔じゃない?」


 こいつは役立たずだから置いてこうって追放されても文句言えないぐらい、今のところ私って役立ってないし。

 しかし、白狼くんは首を振る。


「それは出来ないんです。なぜなら小乃葉様をこちらの世界に連れて来ないと、ケルベロスも連れて来られないので。ケルベロスが小乃葉様の体を〈門〉にして顕現しようとしているせいで、小乃葉様とセットになっちゃっているんです」

「何そのアンハッピーセット」


 今度のおまけはケルベロスが憑いてくる! 私の頭を丸かじり! 即、返品したい。

 それにしても、ここが作られた世界だなんてまったく気づかなかったな。学校の中だけでなく、教室の窓から見える空や住宅街も、私がいつも見てる景色と同じように見える。


「……あれ? 学校の周りだけを複製した世界なんだよね? 空や遠くの住宅とかはどうなってるの? 外が明るいってことは太陽もあるんだよね? 太陽なんて凄く遠くにあるから、学校の周りには絶対に含まれないと思うんだけど……」

「太陽も住宅街も作ってはいませんね。見えているだけです。学校の周り以外は周辺を囲う大きなスクリーンに元の世界の映像を映していると思ってください」

「なるほど、わかったかも」

「小乃葉様、まだ何か気になることはありますか? ないようでしたら、そろそろケルベロスを倒すための話をしたいのですが……」

「もう平気。邪魔しちゃってごめんね」


 本当は呼吸が出来るから空気はあるのかなとか、重力はどうなってるのかなとか不思議なことはいっぱいあったけど、不自由なく動けてるんだから気にしなくていいやと思うことにした。それより大切なことは、ケルベロスを倒すことだ。


「では、これを受け取ってください」


 白狼くんの手に突然、長い棒が現れる。手品みたい。いや世界が作れるんだから、棒一つ作るぐらい簡単か。

 その長い棒は音楽室でのケルベロスとの戦いで殉職した私の愛刀箒と同じぐらいの長さだった。棒の先端には牙のような突起物がたくさん付いてる。これでぶたれるとちょー痛そう。

 そのトゲトゲ棒の柄を、白狼くんが私に差し出す。


「神器〈白咬はくごう。悪魔を倒すための武器です」

「神器!? 響きがかっこいい! 悪魔を倒すための武器ってことは、これがあれば私でもケルベロスと戦えるってことかな!?」 


 白狼くんが差し出している神器をまじまじと見る。改めて良く見るとゲームで出てくるこん棒みたい。こういう武器ってゲームだとオークとかトロルみたいな野蛮な敵が持ってるよね。これを持った自分を想像する。蛮族か、山賊かな?


「あの……白狼くん。贅沢言える立場じゃないのはわかってるんだけど……もうちょっとかっこいい武器ないかな? 剣とか弓とか」

「えっ!? も、もしかして〈白咬〉、格好悪いですか……?」


 白狼くんの耳がしゅーんと折れ曲がる。悲しそう。しまった。余計なこと言っちゃった。


「いや! そんなことないよ! よく見たら凄く格好いいと思う。特に、その、先っちょのトゲトゲの部分が尖っていて、えーっと、凄くトゲトゲしてていいと思う! やっぱり戦うからには、トゲトゲしたところがないと駄目だよね。いやーちょうど制服に似合うトゲトゲ棒が欲しかったんだぁ! ありがとうね!」


 これ以上白狼くんを悲しませないよう、慌てて〈白咬〉へ手を伸ばす。柄を握った瞬間、神器が突然強い光を放った。眩しくて何も見えなくなる。


「うわぁ! 閃光弾だぁ! 誰だぁ!? 私をリオレウスと勘違いして投げた奴はぁ!?」

「落ち着いてください小乃葉様っ! 害は無いんで大丈夫ですよっ!」


 本当だ。光ったのはほんの一瞬だけで、すぐに何事もなかったかのように元に戻った。白狼くんの害がないという言葉の通り、私の目も問題なく見える。

 生徒のいない一年生の教室、道士服を着た狼耳と尻尾の男の子、右手のトゲトゲ棒、窓の外の景色が光る前と同じように問題なく見える。

 そして私が身に着けている道士服も問題なく見える。


「うわぁ! 閃光で目がおかしくなったぁ! 私が着てる制服が白狼くんとおそろいの服に見えるぅ!」


 まったく同じじゃなくて、私の服は下がスカートになってたけど。


「落ち着いてください小乃葉様っ! 見えるんじゃなくて、本当に服が変わっているんです」

「……そうなの?」

「そうなんです。小乃葉様が先ほど手に取った神器〈白咬〉の力です。その服〈神衣〉は悪魔の攻撃から身を守ってくれるほかに、小乃葉様の身体能力を向上させてくれます」

「へー、バフつきなんて凄いね。身体能力向上ってどのぐらい増えるの?」

「えっ? 具体的にはっきりとは言えないんですけど……二倍とかですかね」

「二倍かぁ! つまり体育の成績2の私が4になってることじゃん! 凄いね、無敵に近いじゃん! ……あれ、無敵か? 体育の成績4って考えるとあんまり強くなってないような……元か? 元の私が弱いから倍化しても、あんまり強くならないのか? ……だったら元から強い白狼くんが神器を使った方が良くない?」

「いえ、神器と神衣は人間のために作られているんで、僕たち神使には扱えないんですよ。今、小乃葉様が持っている神器『白咬』は、神様が小乃葉様のために作って僕に持たせてくれたものなんです」

「そっか。ありがとう、神様!」


 このトゲトゲ棒、大切に使うね! ……トゲトゲ棒じゃなくて、ちゃんと『白咬』って名前で呼んだ方がいいかな。「せっかく立派な名前をつけてあるのじゃから、ちゃんと名前で呼んでほしいのじゃー」って怒られそうだし。


 そんな『白咬』によって誕生した自分の神衣姿を、手足を動かしながら眺めてみる。うーん。狼少年の白狼くんが着ると良く似合ってるんだけど、私が着るとなんかお遊戯会っぽいような。強くなさそう。元か? 元が弱く見えるからか? また元のせいなの?


「……私、似合ってる? 変じゃない?」


 恐る恐る白狼くんに尋ねる。


「変じゃありませんよ! 似合ってます!」


 力強く私を肯定してくれる。お世辞かもしれないけど、そんな真顔で似合ってるって褒めてくれると、ちょっと嬉しいなぁ。

 ……ん!? ちょっと待って、大変なことに気づいたぞ。


「つまり、さっきの武器がピカーって光ったのって、アニメでいうところの変身シーンだったってこと!? 私、棒立ちだったんだけど、なんか色んなポーズ取った方がよかったかなっ!?」

「えっ、小乃葉様、あの一瞬の間に色んなポーズ作れるんですか?」

「無理」


 そう思うと、敵の目の前で攻撃されるリスクを背負いながら、ポーズを取りつつ一瞬で変身完了する正義の味方って凄いな。敵に見つからないとこでいつの間にか服が変わってるぐらいが、私の身の丈にあった変身なのかも。

 でも、これで武器と防具が手に入った。散々私を追いかけまわしてくれたあの三つ首ワンコをぎゃふんと言わせてやることが出来るぞ。犬だから「キャウン」のがいいかな。


 どこからか、大きな物音が聞こえてくる。破壊音。壁が壊れた音かな。きっとケルベロスが、その大きな体のための通り道を作った音。

 私たちしかいない静かな学校に、大きな足音が響く。私たちを探してるんだ。


 ふふっ、馬鹿な奴め。私が神器を手に入れたとも知らずに。よぉーし、やってやるぞぉ!

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