2 いつもの朝

 いつものように朝起きて、お母さんが作ってくれた朝ご飯を食べて、身支度を整え、家を出る。そうして歩くのは、いつもの通学路。


 空を昇ってる途中のお日様は眩しく、私は何度も目を細めながら、静かな住宅街から自動車が世話しなく走り抜ける大通りへたどり着く。マンションやビルのように背の高い建物が増えることで陽は遮られやすくなり、眩しさもいくらか和らぐ。


 大通りに出てすぐ、いつもの待ち合わせの場所へと着く。コンビニの前。ここで友達と合流し、一緒に学校へと向かうのが、いつも通りの朝。

 コンビニの前に立つ私の前をスーツ姿の男の人や、私と同じ制服を着た生徒、自転車に乗った高校生など、いろんな人が通り過ぎていく。


 昨日の悪魔との戦いなんてなかったかのような、いつも通りの日常。けど、悪魔との戦いは確かにあったのだ。その証拠に私の右手の人差し指と中指には絆創膏が巻かれている。

 右手を太陽に向かってかざし絆創膏を眺めていると、日差しが遮られる。目の前に、私と同じ制服を着た、すらっとして背の高い女子が立っていた。

 私の待ち合わせの相手。友達のはーちゃん。


「おはよー小乃葉このは。指どうしたの?」


 はーちゃんが私の手を取り、指の絆創膏を眺める。


「おはよ。この指はね、名誉の負傷なの」

「ゲームのしすぎ?」

「それだと汚点でしょ。何言ってんだお前って思うかもしれないけど、悪魔の攻撃でささくれになったの」

「何言ってんだお前」

「思うだけにしてくれない? 口に出されると傷つくから」


 まぁ、信じてもらえないよね。私がはーちゃんだったら、絶対何かの冗談だと思うもん。


「それぐらいで傷つくほどナイーブな生き物じゃないでしょ、小乃葉は」

「失礼な。はーちゃんが思ってる以上にナイーブだよ、私は。そして一度引っ込めることでナイーブフォルムからマイティフォルムへと変身するのだ」

「変身するのだ、じゃねーよ。それ、小乃葉がゲームで『この子可愛くてお勧めだよ』って私のこと騙して仲間に加えさせたムキムキイルカのことだろ」

「ばれた? 懐かしいねぇ。はーちゃんと二人で遊んだあのゲーム。あんな風に、またいつか、二人一緒に歩んでいける日が来るといいねぇ」

「まさに今がその時だろ。ほら、お望みどおり二人一緒に歩いて学校行くぞ」

「はーい」


 私とは―ちゃんは学校に行くため、二人並んで歩道を歩き始める。

 今日の授業の話や、宿題の話、話題になってる動画を見たかとか、そんなお喋りをしながら歩いていると、ふいに「ふわぁ」と欠伸をしてしまう。日差しが暖かくて心地よいせいかな。

 そんな私をはーちゃんが冷ややかな眼でみる。


「今度こそ、ゲームのしすぎでしょ。小乃葉のことだから、どうせ夜遅くまでやってたんでしょ。駄目じゃない」

「お母さんかな? ……違うんだよ、これには理由があるの」

「何? さっきみたいに悪魔が気になったとか、訳のわからないこと言うんじゃないでしょうね?」

「近いけど外れ。正解は神が気になったの」


 神という単語を聞いたはーちゃんは立ち止まり、心配そうに私を見る。


「……マジでどうしたの小乃葉、何か悩んでるの? 話聞こか?」

「優しくしないで惚れちゃうから。なんとく神様ってどんな姿してるのかなって気になって。それでね、何か神について知れるものないかなぁーって探してたら、お父さんのコレクションに大神ってレトロゲームがあってさー。ちょうどいいやって遊んでみたら、主人公の白いワンちゃんが可愛くて……それで夢中になってたら、気づいたら夜遅くになっちゃってた」

「結局ゲームのしすぎじゃねーか」

「あれ? そういえばそうだね」


 そんな回りくどい調べ方せずに神様本人に話しを聞けばよかったのかもしれないけど……あのマルバスとの戦いが終わりお互い自己紹介をした後、神様は何か忙しいみたいで、すぐに通話切っちゃったんだよね。

 そう、忙しそうにしてた。だからさぁ、こっちから通話しづらいんだよねぇ。

 そんなわけで神様とか悪魔とかいろいろ気になったけど、直接訊けない私はゲームで調べることにしたのだ。あと単純に、私がゲームで遊びたかったのだ。


「小乃葉ってさー、ちっちゃいじゃん?」

「おいはーちゃん、なぜ急に私を侮辱した。確かに私は背の高いはーちゃんと比べれば、ちょこっとだけちっちゃいけど」

「無駄な見栄を張るな。平均と比べても小乃葉は大分ちっちゃいでしょーが」


 違うよ? 普通よりちょっと小さいだけだよ? 私の姿を見たことない人が聞いたら、こいつちっちゃいんだなって誤解しちゃうよ?


「小乃葉がちっちゃいのはさぁ、ちゃんと夜寝ないから背伸びなかったんだよ。背を生贄にゲームをしてるんだよ」

「いやいや、これから伸びるから。生贄にした背でアドバンス召喚して背を呼び出すから。

私が高身長って話は置いておいてさ」


 「そんな話してないだろ」ってツッコむはーちゃんを無視して話を続ける。


「さっきの神様の話に戻るんだけど、はーちゃんは神様って言ったらどんな姿を想像する?」

「神様かぁ……」


 はーちゃんは歩きながら神の姿を想像しはじめる。もしかしたら一から創造してるかも。天地を創造した神を創造しようとしてる、はーちゃん。私の友達が凄い存在になろうとしてる。


「ありきたりだけど、坊主頭で白い髭を生やしたお爺ちゃんの姿かな?」

「それって……高橋さんちのお爺ちゃんじゃん」

「誰だよ」

「お婆ちゃんと黒柴ちゃん三匹と一緒に暮らしてる、お爺ちゃん」

「誰だよ」

「あれー?」


 的確なタイミングでした高橋さんちの説明だったのに、はーちゃんには理解してもらえなかった。


「そもそもさー、小乃葉のいう神様って、どこの神様なの? 日本? ギリシャ? インド? 神様にもいろいろあるじゃん? それによって容姿も変わるんじゃないの?」


 確かに。私を助けてくれたあのお姉さんはどこの神様なんだろ。日本語しゃべってたし、日本人の私を助けてくれたんだから、やっぱり日本の神様かな。


「それじゃーとりあえずは日本って設定で考えて。あと女神様ね。しかも現役です。その条件だと、はーちゃんはどんな神様を想像する?」

「現役って……そこまで条件絞るなら、私じゃなくてAIに画像生成してもらった方が、それっぽい姿を見せてくれるんじゃない?」

「はーちゃん、それナイスアイデア」


 さっそく試してみようと立ち止まり、歩道を利用する人の邪魔にならないよう端によってから、鞄からスマホを取り出す。AIを呼び出して画像生成してもらおうとスマホを操作していたら、私の横から見下ろすように覗き込んでいたはーちゃんが、スマホの画面を指差す。


「何この変なアプリ」


 はーちゃんが指さしたのは金色の文字で「神」と表示されているアイコン。私は、はーちゃんにこのアプリが何なのか教えてあげる。


「神アプリ」


 神様が私のスマホに入れたアプリ。神様はこのアプリを使って私と通話していた。


「へぇー。そんな凄いアプリなの? 何ができるの?」


 神アプリと聞いて興味をもったはーちゃんに、アプリのヘルプで学んだ知識を教えてあげる。


「音声通話と文章でのチャットが出来る」

「凡アプリじゃん。よくあるメッセージアプリの下位互換って感じがするんだけど……どのあたりが神アプリなの?」

「どこがって……名前が神アプリなの」

「何それ詐欺っぽ。大丈夫なの、そのアプリ? なんでそんなインストールしたのさ」

「勝手にインストールされてた」

「完全にウイルスじゃん……アンインストールした方がいいよ?」

「へーきへーき。製作者はちゃんとした人だから」


 ちゃんとした人ってか、ちゃんとした神だけど。

 マルバスを倒し家に帰った私は、自室で自分のスマホに見慣れないアプリ――この「神アプリ」が入っていることに気づいた。今思えば不用心だった気がするけど、その時の私は「神」というものに恩を感じていてとても信頼してたので、深く考えずにアプリを起動した。

 そうしてアプリに表示されたヘルプ、それとメッセージタブに残された「神様なのじゃ! 今後、ワシに連絡を取りたい時はこのアプリを使って欲しいのじゃ」というメッセージによって、このアプリは神様が私とスマホで交信するために勝手に私のスマホにインストールしたアプリだということを理解した。


 それにしても神様はどうやってこのアプリを私のスマホにインストールしたんだろ? 神様ってもしかして凄腕ハッカーなのかな。インドア派でパソコンに強そうな見た目の女の人が、神様の見た目なのかもしれない。

 なんて想像する私の神様像に反して、AIが作った画像は神秘的な女性の姿をしていて大分かけ離れていた。

 本当、神様ってどんな姿なんだろね。

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