第二章 下書き

スマートフォンのメモアプリを開くと、

 使われなかった言葉たちが並んでいた。


 送信されることのなかった文章。

 途中で消された行。

 句点のないまま終わっている文。


 そこには、

 「元気?」とか

 「今日は寒いね」とか

 どうでもいいようで、

 本当は一番送りたかった言葉が残っていた。


 何度も書いては消した。

 短すぎる気がして消し、

 長すぎる気がして消し、

 結局どれも送らなかった。


 「今、話せる?」

 その一文すら、

 相手の時間を奪う気がして、

 指が止まった。


 好きだったから、

 迷った。


 迷ったから、

 何もできなかった。


 画面の中の文章は、

 誰にも届かないまま、

 保存された日付だけが増えていく。


 それを消せば、

 少しは楽になる気がした。

 でも、消せなかった。


 ここにあるのは、

 相手に伝えられなかった言葉であり、

 自分が確かに持っていた気持ちの証明だったから。


 メモを閉じる。

 また通知は鳴らない。


 それでも、

 言葉があったことだけは、

 なかったことにしたくなかった。

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君が黙った日、僕は世界と話し始めた 雪島健太 @yukiken21

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