第3話:旅立ちと逃亡
「それで、これから俺達はどうすればいいんだ?」
朝になりメイドが迎えに来た。夢ならあまりに長い夢だ。改めて食堂に集まり、まずは朝食。硬いパンとハム、スープの簡単なものだった。
食 事の終わり頃、海原が言った。お姫様の目に力が入る。緊張だろうか。
「はい、皆様には魔王討伐の旅に向かっていただきます」
魔王討伐の旅、か。
現実離れした言葉だった。まず旅。日本にいてもすることはあるが、どこかに出掛けて観光をするのとは訳が違う。それは敵を殺す為の旅路。暗殺旅程だ。
暗殺。
昨日の夜中に改めてストーリーを聞いたのだが、つまりこういうことだった。
この世界には人類と敵対している魔族という種族がいて、その中に魔王と呼ばれる強力な個体がいる。魔王は凶悪な攻撃手段を持つため、有象無象の軍勢を差し向けるのに向かない。故に少数精鋭部隊での暗殺をすることになるのだという。
なるほど、RPGにおける勇者が少数で戦うのはそうした理由だったのか。軍隊で攻めろやとか思っていたが、雑魚兵はイオ○ズンで死ぬので連れていけないのだ。
強力な力とカリスマで軍をまとめる魔王さえ倒してしまえば、残るのは烏合の衆らしい。いくら魔族の個々人が人間よりも強いとはいえ、組織的な動きは人間の得意分野。軍勢対軍勢ならば負けはしない。そういう皮算用らしい。
らしいとしか言えない。聞かされたことが情報源だ。情報の精度? 知らないよ。
頼る人も帰る場所もない僕らは、唯々諾々と従うしか道はない。少なくとも今は。
「とどのつまり、魔王を倒す旅に出ろと。しかし、俺達はこの世界のことを何も知らない。まともに旅などできないぞ」
「ご安心ください。伴の者を付けます」
「おっ、美少女っすか!」
「美少女? 伴の者というのは騎士です。騎士は男性しかおりません」
「ええー、姫騎士とかいないんすか? あるいはアサシンメイドとか」
「敵国に乗り込む危険な旅ですから、女の身では足手まといになります。ご心配されなくとも、騎士とその従者なら料理や洗濯はできますのでご安心ください」
「いやそういうのじゃなくてっすね……」
なんてアホな会話だ。5人のうち2人がその足手まといの女だというのに。
でも道理だ。騎士とは軍人。戦車の時代とは違うのだから、余程の才能がある人を除けば、基本的に腕力のある男のほうが強いわけだ。直属の騎士なんて国の最高峰クラスだろうし。
ソシャゲなら女の子が基本だけどね。新キャラがオッサンじゃガチャは回らない。体感だしゲームにもよるが、女7、男2、それ以外1くらいの割合だ。ほぼ女しかいないゲームが多数派といってもいいくらいなので必然的にそうなる。それ以外とは怪物や動物やメカや両性だ。
「わたしは女なのだけど、足手まといにならないの? それにこの四人で旅するの? 男と旅なんて嫌なのだけど」
とバケモンマスターが言う。
まあそうか、仮にも女だ。僕は彼女に異性としての魅力を感じていないが、警戒せねばならない立場というのは理解できる。
「いえ、組むのも分かれるのも、思うように行動してください」
「あら、そうなの?」
「強力な力を持つ方々ならば、自由に動いていただいたほうが真価を発揮できるものですわ」
どうしてそれを笑顔で言えるのか。
馬鹿馬鹿しいし白々しくて忌々しい。自由? 無理矢理拐われて暗殺なんてものを強要される旅のどこに自由があるというんだ。
「旅の資金で奴隷を買っても良いですし、必要なら奥向けの警備を担当する衛兵がおりますわ。魔王との戦闘に出せる程は強くありませんが、町中のちょっとした護衛や案内としてなら使えると思います」
「それって女の子?」
「いえ、宦官ですわ」
「宦官って?」
「ええ、宦官とは……」
奴隷制度があるのか。それは王族だから? それとも一般的なのだろうか。
それに宦官って、要するに股間のものを切り落とした男だろ。男性ホルモンが薄くなるから闘争心や筋力が落ちて戦いには向かないはず。戦力となるべき男を無駄にしている。
そういうのはもっとこう、平和で太平の世でもないとやる余裕のないものだ。宦官はエリートだが、当たり前だが子供が作れない。子を成してから宦官になることもあるが、護衛というからには若者だろう。戦力だけでなく、きちんとした教育を受けた人の出生率が下がるわけだ。周りには敵国、今は戦乱で国の一大事だというのに、そんな悠長な制度がある。
やはりこの国はおかしい。
「ふぅん……まあ、それならいいわね」
「ええ、ご用意いたしますわ。他の方々はどうなさいます?」
なんで満更でもない感じなんだよ。
引き受けた訳でもないのに魔王討伐の旅が既定路線かのように言うじゃないか。やはりろくなものではない。フィラルムの言うとおりだ。
「俺は飛べるっすから、足手まといはいらないっすね。女の子なら話は別っすけど」
「俺は必要だな。戦闘要員よりは世話係のほうが」
そうか、飛べるのか。
移動能力はシューティングとバケモンマスターが抜きん出ている。いや、路上格闘であれば、海原もインド僧侶でテレポート使えるんじゃないか? あれは短距離だけなのだろうか。それともクラッシャーとかで飛んでいけないのだろうか。
「そちらは……」
「あ、いらないです」
「いらない」
僕と幼女は断った。
僕は隠し事が多いので、ついてこられては困るのだ。しかし幼女、きみもか。保護者とかいなくて大丈夫なのだろうか。バケモンの主人公ですら12歳じゃなかったか? あと2、3年あるのでは。
「いっしょ、行くから」
ん?
幼女が僕の手を引く。
んー、小動物的に可愛い。僕には妹とかいないが、こんな感じなのだろうか。で、一緒とは?
「ついてく。駄目?」
僕にか。ちらりとフィラルムを窺う。頷いた。え、いいの?
「あー、わかった」
「ん」
「ズルいっすよ! 巨乳が二人もいるのに幼女まで!」
シューティングが喚く。いや僕に言われても。どうせお前は単独行動だろう。
「こうなったら袋田ちゃん! 俺とっ!」
「死ね」
「そんなっ!?」
ああ、空を飛べるならついていけるのか。しかしバケモンマスターはにべもない。
「まあ、そうしたいならそのほうがいい。一人でないなら安心できるしな」
海原が鷹揚に頷いた。とりあえず日本人が保護していれば良いのだろう。
「さて、真面目な話だ。袋田さん、きみは一人で大丈夫なんだな? この場合は、他の日本人と一緒でなくてもという意味だ」
「ええ」
バケモンマスターは両手に何かを持っていた。それはいきなり現れたように見えた。あれはアイテムだろうか。木の実?
「戦闘はもちろん、バフも回復もできるし、食べ物や飲み物も出せるわ。わたしに追加戦力は不要よ。必要なのは下働きと道案内」
「そうか、ならいい。首藤くんと組めるのはきみくらいだから残念ではあるが」
あー、バケモンには木の実が生ったり玉子産むやつとかいたな。尻尾が食えるやつとかも。火も起こせるし水も出せるし、なんなら電気だってある。それなら旅に困ることもあるまい。本当に汎用性が高い。
「あなたこそ、一人でいいの?」
「俺はタイマン専門だからなあ。誰かと組んで戦うのはよくわからん。道案内と身の回りの世話だけあればいいさ」
まぁ格ゲーならそうなるか。チームを組むゲームもあるが基本は一対一だ。複数人に囲まれたらどうするのだろう。都合よくベルトスクロールになるのだろうか。
まあ、どうでもいいか。どうせ別れればもう会うこともないのだから。
さて、話し合いは終わった。あとは数日間の勉強時間と、連携などの訓練が終わり次第出発となる。
結局、日本人で組むのは僕とこのちびっ子だけ。うん、まあ、誰かがお世話しなければならないだろう、日本人の倫理的に。こんな子供を放っていくわけにいかないし。
マスコットキャラ枠だろうか。ソシャゲの初期パーティーに子供がいることはまあ、無くはない。護る対象だったり、秘められた力を持っているタイプだったり、天才設定で武器やキーアイテムの作成や改造をしたり、立場は作品によって違う。
この場合は戦力かな。
この子にも何かゲームの能力があるはずで、となると、やはり戦力になるのだろう。なら、育てない訳にいくまい。よくある定番ではネトゲのキャラの能力だが、この子はネトゲをやるよには見えない。ではどんなゲームだろう。さっぱりわからん。
もちろん能力だけを期待してのことじゃない。彼女は子供だ。普通に育てる必要がある。
人間の子供を育てるとしたら、虫やソシャゲキャラのようにはいかない。ザリガニやカエルなら水槽に入れて餌を与えておけばいいし、ソシャゲキャラならアイテムと金を入れればいいが、人間はそうじゃない。成長期の子供に必要なのは栄養と運動、それに睡眠。これが最低限。あとは勉強か。
移動こそ馬車だがどうせ旅先で歩くのだから運動不足にはならないし、夜には暗くて寝るしかない生活なら睡眠もバッチリ。勉強も僕やフィラルムが教えられる。問題は食糧か。
「ところで、主殿」
「ん」
「そちらの方を紹介願うであります」
フェイが幼女を指して言う。そう言えば伝えてなかった。
「ああ、こいつは……名前は?」
「……四計田ミミ」
「そうそう、四計田。で、こっちはフィラルムとフェイ」
「はいー、よろしくであります、ミミちゃん」
「はい」
楽観的に過ぎると思うが、まあ大丈夫でしょ。案ずるより産むが易し。所詮は子供だ。どうせ馬車とか乗り物は買うのだからたいした荷物にもならない。好意的に解釈すれば、召喚されたもの同士、少なくともポテンシャルは同じはずだ。日本人を味方にしておくことに損はないだろう。
「主殿はそういう趣味でしたか。成程、フェイや私に手を出さぬ訳です」
「いやちげえよ?」
マスコット枠ならともかく、こんな子供に興奮できるか。いや、どうかな。何事もやってみなければわからないが、少なくとも好んではいないし惹かれてもいない。二次元ならなんでもいけるのだが。
というか手を出してよかったの? そういえば少なくとも2人は僕の物とか言っていた。1つの部屋で一緒に過ごしたのに手を出さない男、それはヘタレ認定される。いや同時に2人相手なんかできるかよ。言い訳をしなくては。
「人んちでそんなんしねえよ」
うん、いい理論武装だ。
ソシャゲの中には原作がエロいのもある。たぶん五本の指に入るくらい有名なのにもある。エロいのは嫌いじゃないしむしろ好きだ。でもこいつらおっぱいがデカすぎるんだよな……服の上からでもパッツンパッツンだけど服のサイズ合ってる? イラストならよくいるけど現実だと怖い。片方で顔くらいあるんだ。絵師の癖よ。
「人んち……まあ、ここは他人の家と言えなくもないですが」
「出していいなら出すよ。今晩覚悟しとけよ」
「ええ、はい」
「え、い、いいの?」
「はい、この身とフェイは既にご主人様の物です。避妊さえしていただければ」
避妊! 避妊ってどうするんだ? コンドームなんか無いだろう。昔の人はどうやって避妊していたんだ? なんかノリ的な物を塗り込むとか聞いたような気がする。子供の頃はそんなこと気にしたことが無かった。
「ねえ、否認って何を?」
「子供ですよ」
「わたし、否認されるの?」
「あなたはまだ避妊する必要は無いでしょう」
「よかった」
四計田とフィラルムが妙な会話をしているのだが、何か噛み合っていない気がする。話している言語は日本語でいいのか? まあ一応ローカライズされたゲームだからな。あの国から来たゲームは翻訳の怪しさに定評があったのだけど。
この世界の人は何語を話しているんだ? なんで言葉が通じている?
「わたし、たぶん役に立つから」
「子供はんなこと気にするな」
ポンと頭を叩く。子供は元気に成長するのが仕事だ。ちゃんと育てなくては。
「おお勇者達よ」
偉そうな髭のおじさんが何か言っている。校長のスピーチのごとく延々ピーチクパーチクと。こいつが元凶……いや、姫のほうが中心人物っぽいが、僕たちを異世界に呼び込んだ相手だろう。つまり敵だ。いつかイワす。
軽装鎧が意外と重いので、立っているだけでも割と疲れる。どうでもいいスピーチから気をそらしつつ、これまでのあらすじというか、経緯か。そんな日々を思い出す。
喚び出されてから数日、この世界における基礎的な常識を学ぶ勉強の時間があり、魔王国とやらや周辺諸国の地理だとか文化立ち居振る舞いを詰め込み、それから旅立ちの日になった。
勉強といっても、地理はともかく神々の名前だとか延々と設定を列挙するゲームの冒頭みたいでまるで学ぶ気にならなかった。言葉は通じるのに文字は読めないのだが、フィラルムが頑張っていたのでなんとかなるだろう。ちなみにフェイはミミと寝ていた。寝る子は育つ。いいことだ。すくすく育て。
さて肝心の魔王についてだが、色々と調査した結果、この国の胡散臭さが露呈するばかりだった。
魔王国の魔族とは残虐で殺戮を好み、言葉は嘘ばかりで、常に領土への野心を抱いているというのが最初の説明だった。
だというのに、魔族の首都は人口が十万を超える交易都市で、道具生産の技術では他の追随を許さないのだという。
明らかな矛盾だ。治安が悪い場所が栄えるものか。嘘ばかりで交易が成り立つものか。
事程左様に、簡単に見破れそうな嘘八百で塗り固められていた。
最終的に出た結論は、魔王退治など御免こうむる、だ。とっとと逃げて行方を晦ますと決めた。具体的な計画はフィラルムが立ててくれた。これは僕ら以外の三人には伝えていない。特に、バケモンとシューティングの二人は何故か積極的で、魔王退治に前向きだ。誘えるはずもない。海原は誘ってもいいのだが、従者が問題だった。日本人同士助け合いたい気持ちはあるが、そのためにリスクを抱える気にはなれない。非情なようだが諦める。
結局、海原とバケモンマスターには補佐の騎士だか兵士だか宦官だかが付き、僕とシューティングにはつかないことが決まった。シューティングは空を飛ぶし、僕は大所帯になる予定だからお供に向かない。バケモンマスターも空を飛ぶはずだけど。
僕はといえば、早くガチャりたくてガチャりたくてソワソワしていた。ガチャも逃亡計画の一部だ。ここまで無料のデイリーガチャしか引いていない。金やアイテムだけでキャラは出ない仕様のようで、早く石ガチャを回したい欲が増した。
事前登録キャンペーンと初期石を合わせて81連。できるならスタダもしたいが、課金はできるのだろうか。スタダとはスタートダッシュのことで、だいたい最高レア確定の課金ガチャになる。引けるなら最高だが、課金の方法がわからなかった。まあいいや。石ガチャだけでも問題ない。ガチャというのは引くまでは自信があるものだ。
王様による有り難い訓示の後、なにやら袋を渡される。中身は金だ。
「さあ旅立つのだ、勇者達よ!」
はあ、やっと校長、じゃなくて王様の話が終わった。こういうのってもっと大々的に、それこそパレードでもして周知するものじゃないのか。玉座の間で、王様とお姫様、それに数人の兵士がいるだけ。なんかショボい。期待されていないのか、隠したい事なのか。
とにかく旅立ちの儀は終わった。それぞれに用意された人員やら道具を受け取り出発することになる。
シューティングは一人旅、荷物もカバン一つと身軽だ。海原は屈強そうな従者が一人と馬車。バケマスには宦官が二人と馬車がつく。僕たちには馬車だけだ。人数がいるので他より大きいものを選んだ。
「じゃあ、お互いに頑張ろうじゃないか」
「ハーレム探しにいざゆかん! っすよ!」
「あんたは旅先で会っても声かけないでね」
「ええ!?」
意気揚々と飛んでいくシューティング、小さな馬車で行く海原、やたらと美形な宦官の前に乗って馬でエスコートされていくバケマス。
さようなら、もう会うこともないだろう。僕たちは他の勇者()が旅立つのを見送ると、馬車に乗り込んだ。
「さあ参りましょう」
「はい、であります!」
御者のフェイがフィラルムに促されて馬を走らせ、トコトコと城門から出る。まずは馬車内部と物資を確認。座席と棚が設置された馬車だ。広さはさほどでもないが、座席の面積で言えば十人くらい座ってもまだまだ余裕がある。そこそこの量の食料と、着替えやなんかの生活雑貨。これらは事前に用意したものだ。ここで掛かった費用は渡された金から引かれる。これでもミミと二人分を折半なので余裕のあるほう。
渡された袋には金が入っている。必要物資や人員を揃えた代金を抜いて、今後の資金として渡されたものだ。この金がどれくらいの価値なのかもよくわからないが、しばらく生きていけるくらいはあるのろうか。
「中々、吝嗇のようで」
袋を確かめたフィラルムが言った。少なそうだ。思うに、ここは小国なのだ。そうそう贅沢も言えないのだろう。見捨てることが確定しているから今更腹も立たない。
一頭立ての馬車と、雑貨や食料と、それからこの金。これがこの国にもらった全てだ。命懸けの旅に出る報酬とはとても思えない。
「好意的に考えれば、馬車は高いのです。そちらに張り込んだのだと思いましょう。さて、この額ですと、平均的な武具を揃えて終わりですね。宿代にすれぱひとり分で3ヶ月程。安い奴隷なら買えますが、戦闘に耐えるものではありません」
馬車の値段か。考えたことも無かった。とはいえ中古だ。城にあった兵隊輸送用の馬車らしいから実質タダみたいなもんだろう。馬は、そうだな、流石に高そうだ。
きちんと調べて物価などを把握しているフィラルムが言うのだから間違いないだろう。1泊5000円として、月に15万円。三ヶ月で50万円弱くらいか。それで武具や奴隷は買えるのか。1人あたり50万円と思えばそんなに悪くはない……訳がない。命の報酬だぞ。闇バイトじゃないんだから。
「そりゃあケチだな……」
「ミミの袋も同額ですね」
「ん」
王様が旅立ちの日に碌なものをくれないのはゲームの伝統だな。それでもローレシアやアレフガルドよりはマシだ。装備か仲間一人は買える。
「ほらミミ、お金は預かっておくわ」
「ん」
「はい、いざという時用に、ここに一枚入れておくからね。忘れちゃ駄目よ」
「ん」
ミミのポシェットにコインを入れている。フィラルムとミミの会話は最早親子だな。ん、しか言ってないけど。
「ご主人様もお忘れなく。どうせガチャで増やせますが」
「ああ、そうだな」
胸ポケットに一枚の金貨をしまう。いずれ銃弾を防ぐかもしれない。銃が無くても弓矢とか魔法とか。
僕はデイリーガチャでお金が出せる。フィラルムの見立てでは紛れもなく金貨らしい。この世界の通貨ではないから両替の手間がかかるが。
ゲーム世界の金ってどうなってるんだろうな。だいたい金貨しかないけど、最小単位がデカすぎないか?
「さて、まずは無事に旅立ちましたね」
「おう」
「ではまず人気のない場所へ。それから、お待ちかねのお時間です」
そう、待ちに待った時間がやってくるのだ。夜のお楽しみじゃない。そっちはもう楽しんだ。
「うー、誰が来るのでありましょう。我が国か、周辺諸国の誰かでありますよね?」
「そうね、ご主人様の話では、元のゲーム内設定は諸国を巡って仲間を集めるとのことだから、有名な人物か、逆にまだ世に出ていない新鋭の人物だと思うわ。キービジュアル? というのに載っていたのが大きな剣を持った赤い髪と、杖を持った青い髪というから、これは紅蓮のドロレスと氷雪のダリアじゃないかと思うのだけど」
「おおー、それは心強いでありますな!」
何やら盛り上がっているが、キービジュアルのキャラは全員入手できるキャラか、そうでないなら初期ガチャ産の最高レアがほとんどだ。全員入手のフェイがキービジュアルじゃないので、あの二人は最高レアだろう。引けるとは限らない。
いや、ストーリーを進めれば手に入るキャラの可能性もあるのか。それならどう進めれば手に入るのだろう。システムこそソシャゲだが、メインストーリーとかあるのだろうか。
「他には誰がいるのでありましょう!」
「そうね、例えば、血桜紅葉や円弧坊、千変……」
楽しそうで何よりです。間に挟まれたミミもなんとなく楽しそうに二人をキョロキョロ。可愛い。
さて、買い物や準備は昨日までに済ませてあるため王都には何の用事もないので、このまま出発することになる。微妙に寂れた王都を抜けて、門を超えたら街道だ。可及的速やかにこの国を離れなければならない。目的の方向へ。
王都を出て道行くことしばし、人気はどんどんなくなっていく。街道端に小さな森が見えた。フィラルムはそこに馬車を向かわせる。
後方や上空を見て、監視の目が無いことを確認する。
「ここで? 王国を抜けてからのほうがいいんじゃないか?」
人数が増えているのを確認されたくない。まだ監視がいるかもしれない。
「いえ、ガチャの出次第にはなりますが、速度上昇や飛翔のスキル持ちを引ければ、感知される前に王国を抜けられます。割とありふれたスキルですので分の良い賭けかと。駄目なら途中の町に寄らねばよいだけの話ですし」
そのために食料も用意した。多少無理をして大きめの馬車を買ったので、人員を隠して乗せる余裕はある
このゲームのガチャ実装キャラは現在のところ24人だったはず。配布石だけで全員引けるとは思えないが、さすがに多い。荷物を捨てれば乗れないこともないが、馬車がギュウギュウだ。10人くらい引いたら止めればいいだろう。
実際のところ、チュートリアルガチャが10回、配布チケットで引けるのは21回で、無料の配布石で引けるガチャは全部で50回。合計81回なのだけど、石は体力回復やコンティニューや倉庫の拡張にも使えるので残したい。チケットだけ使うのが理想だ。
ちなみに倉庫は持っているアイテムを100枠入れることができる謎空間で、ガチャ一回分の石で枠が10増える。元が領地と軍団経営要素のあるゲームなので、資金と食糧は無限に入るし、同じものならスタックするので結構な量が収納できるのだが、少しでも違うものは別個にカウントされる。
例えば、水や小麦は割と無限に収納できるが、装備品などはやけに細分化される。普通のシャツとズボンと下着がそれぞれ別枠なので、それらは畳んで馬車にしまう方がかさばらない。デイリーガチャで出たアイテムは何故か枠も取らないで仕舞える。
今のところ倉庫の枠には困っていないが、いざという時にコンティニューや体力回復できるのは心強い。コンティニューってどんな仕組みかわからないけど。死んでも生き返るのか?
ともあれガチャだ。至福の時間だ。ソシャゲの半分はガチャでできている。
「そうか……ガチャか!」
「ええ、ガチャです」
ガチャ……ガチャだ! ガチャの時間だぁ!
ガチャ。ソシャゲの華。射幸心とコレクター欲を煽りに煽る魅惑の存在。人は皆、これに一喜一憂し、ここの出次第で課金したりゲームを辞めたりする。それくらい重要なもの。誰彼構わず育成したい僕だが、ここで運が悪いと育てる対象すら手に入らない。
待っていたぜ、この時をよォ。この数日というもの、☆3までしか出ない無料のデイリーガチャで装備やアイテムや金をちょこちょこと引いていたが、育成キャラは一人も出なかった。運が悪いのか、デイリーからは出ないのか。とにかくはやく育てたい。育てさせろ。何はともあれキャラクターだ。フェイだけじゃ足りないんだ。
「まずはチュートリアルガチャとガチャチケットからです。馬車の容量的に、これだけ使えばいいでしょう」
「え、あぁ、そうか、うん……」
そりゃそうだ。石は温存するべきだ。
事前に見た記憶が確かなら、このゲームのガチャは最高レアが☆5、最低が☆1。石ガチャにもデイリーガチャと同じアイテムが含まれる上に、キャラと装備とアイテムがごっちゃになった闇鍋だ。10連でキャラの確定枠が1つと、☆4以上の確定枠がある。☆4のほうはキャラとは限らない。最悪の場合、☆1のキャラと☆4の消耗品、あとはゴミといった結果もありえるのだ。☆1のキャラなんているのかどうかも知らないが、多分名も無き歩兵とかだろう。
さて、たった31回のガチャで何が引けるか。全てはここにかかっている。
まずはガチャ画面を開き、チュートリアルガチャを選択。画面は多分ゲームのままだが、プライバシーポリシーとか提供割合とかは書いていない。
「どんな風でありますか?」
フェイが覗き込んでくる。そうだ、この画面を見せれば知っている相手がいるんじゃないか? ガチャ画面には3人のキャラが映っている。
「ほら、見覚えあるやついるか?」
「おお、これはエルミーナ殿であります! それにこちらはヴァイセ殿!」
「強いのか?」
「エルミーナ殿は魔法使いで対軍戦闘のエキスパートでありますな! ヴァイセ殿は盾の乙女と呼ばれる守護騎士であります!」
「もう一人は?」
「ううん、見覚えがないであります。ひめさ……フィラルム様はご存知でありますか?」
「いいえ、まだ知られていない人物かしら」
姫様言いそうになったなコイツ。
フィラルムも知らないと。うん、何もわからないも同然だな。アタッカーとタンクってくらいか。
この3人はピックアップ対象だろうか。いや、始まったばかりのゲームで最高レア6人のうち3人だけピックアップするわけがない。ということは、ストーリーモードでメイン級になるキャラか、運営の推したいキャラだろう。
「ま、いいか。引いてみないとわからない」
「そうでありますな」
では行こう。チュートリアルガチャをポチッとな。
「これは、地母神アルタナー?」
フィラルムが呟く。画面では、神像のようなものに光がまとわりつき、クルクルと回るようなエフェクトが表示されている。この神像が地母神とやらなのだろう。神様というにはセクシーだ。神話的というよりはグラビア的。
光はやがて丸く形を成し、1つずつ止まる。止まった丸には色があった。白、白、青、白、青、白、白、白、白、金色。
「この色は?」
「たぶんレアリティだ。金色は1つだけ。こりゃ最低保証だな」
渋い。あまりに渋い。
ちなみに、このチュートリアルではレアキャラ確定枠といったような生温い仕様はない。最近のゲームでは最高レアが一枚確定ってのも多い中、あまりにもストロングスタイルだ。一応、特別なガチャチケットが一枚あるがそれだけで、あとはガチンコの運勝負だ。リセマラできるならしたい。
閑話休題。
たぶんこの金色が☆4と思われる。一般的に、ソシャゲにおいてレアとされるのは最高レアとその一個下まで、つまりこの金色からだ。なお、フェイは☆3。フィラルムはナビキャラなので不明。
画面をタップ。最初の1つは白。内容は、コモンソード。☆1武器だ。デイリーガチャでも引いたことがある。
「支給品の剣であります」
「うん」
次。また白。タップ。☆1、コモンスタッフ。杖だ。これもデイリーで出る。
「これも支給品であります」
「うん……」
次は青だ。少し期待する。タップ。
☆3、気力薬グレート。回復アイテムだろうか。
「あー、お高いやつであります!」
「いいものか?」
「気力回復用であります。徹夜で作業する時や、病気の時に飲んだりするのであります」
「栄養ドリンクか……」
ユ○ケルの高いやつみたいだな。HP回復したりはしないのか。デイリーでは☆1だが体力回復ポーションも引いたことがあるので、それとは別枠ということだろう。もしかしてスタミナ回復か? プレイヤーが使うのかも。
次、白。タップ。
☆2、ケーキ。プレゼント用好感度アイテムだ。
多くのソシャゲにはキャラクターに好感度があり、上昇するとステータスが上がったり、スキルが開放されたり、イベントが見られるようになる。好感度を上げるには主に2つの方法がある。1つめは戦闘やイベントに参加することで上がる方式。もう1つはプレゼントで、このゲームの場合、プレゼントには食べ物、可愛いもの、筆記用具、雑貨の4種類がある。キャラクターごとに設定された好みのプレゼントを渡すと好感度が上がりやすい。例えばフェイなら食べ物だ。
「ケーキ……」
ミミが呟く。うん、食べ物が欲しいのはフェイだけじゃなさそう。
「あとでみんなで食べような」
「ん」
ちょっと嬉しそう。子供にお菓子ってどれくらいあげていいんだろう。さて次。青だ。タップ。
☆3、麻痺の弓矢。武器だ。抵抗値の低い相手を麻痺状態にする、らしい。
「猟師が使うやつであります」
「フェイは弓使えるのか?」
「自分は剣と盾しか!」
よさそうな武器だが、装備できるやつがいない。なんなら僕が使おうか。使えるのか?
さて、次。白。☆1、コモンガントレット。腕防具だ。これもデイリーガチャで出るやつ。
次、白。☆1、雑貨だ。
「うぅん……」
渋い。渋すぎる。
こういうガチャって、デイリーガチャで出るのと同じだとしても、デイリーガチャにおける当たり枠の☆3が出るものじゃないか? 石ガチャにまで☆1を仕込むのは悪意を感じる。
中華運営ってこういうの多いよなぁ。課金圧が強いというか、そう簡単にコンプリートさせないという強い意志があるというか。ごく少数の課金兵を囲って無微課金を切り捨てるというか。
金で解決できるならいくらでも課金するのだけど、今の僕には課金をする方法が無い。石は貴重だ。
残り3つ。そういえばまだキャラクターが来ていない。最低保証なのでキャラクター枠が1つあるはずだ。☆4キャラクター来るか?
白、タップ。☆2、レオタード。防具だ。
レオタード……? こんな布が下手な鎧より強いのか。ゲームの不思議。
さて、次でキャラクターじゃなければ☆4キャラクター確定だ。胸が高鳴る。白、タップ。
おや、画面が違う。いや、これは……!
ガチャ画面ではない。現実にぺかーと光った。光の中に見えるシルエット。キャラクターだ!
「うわぁ! て、敵でありますか!?」
「落ち着きなさい。これは……」
しかし、シルエットは明らかに人間ではない。これは、動物? 光が収まり姿が見えた。
「犬……?」
しかも子犬だ。上半分は青く、下半分は白い毛並み。青いのが実にファンタジーだが、犬、いや狼? ワンと一声。
「アイスウルフの子供でありますなー」
「ええ、魔物なのだけど……大丈夫なのかしら」
「赤ちゃんから慣らせば大丈夫でありますよ! 田舎ではよくあることであります!」
犬じゃなくて狼か。そして魔物。慣らせるならいいけど。
「かわいい」
これにはミミがご満悦。トコトコと近寄って、手を差し出した。犬……じゃなくて狼はフンフンと匂いを嗅いで、ぺろりと舐める。そこでミミは頭を撫でてワシャワシャした。コロンと転がる狼。野生は無いのか。
うむ、少女と動物、どちらも子供。実に絵になる可愛い光景だ。
「飼っていい?」
「捨てるわけにもいかないよ」
なんだろう、パパの気分。もともとガチャキャラを捨てる選択肢なんてないのだが。
「ん……」
嬉しそうに抱き上げている。こうして見ると、子犬とはいえ大きいな。すでに小型犬よりは大きく、中型犬くらいありそう。
しかし、これキャラクター扱いか。マジか。最低保証を使い切ってしまった。
まあ、動物とか魔物キャラはよく見るよ。犬……狼は定番だ。ドラゴンやスライムも定番だし、猫も馬もアルパカも見た。亀やトカゲもいた。そう思えばまあ普通か。普通か?
最後だ。金色。☆4。
ドキドキしてきた。装備だろうか、消耗品だろうか。いや、キャラクターいうこともあり得る。
タップする。☆4、マイクロビキニアーマー。
マイクロビキニアーマー。
おい運営、ふざけてるのか。
「なんだこれ……」
「これは……」
形としてはどう見ても水着だ。それもほとんど紐みたいな。かろうじて先端と股間を隠す程度の面積があり、本来は布地であるべき場所にプロテクターのようなものがついている。あとは鎖。構成要素はそれだけだ。
「拝見します。これは……全身鎧ですね」
このゲームでは、装備品は頭、上半身、下半身、脚、右手、左手に分かれているのだが、全身鎧は上半身と下半身と手と脚が同時に埋まる装備だ。
「性能は……ああ、とても優秀です。フェイの今の装備より格段に上がりますね。数値だけ見ても何倍も強いです」
「うぇ!? じ、自分が着るのでありますか!?」
「ええ、今はあなたしか戦闘要員がいないもの」
「しかし、これは、あまりにも……」
「動きやすさを追求した逸品らしいわよ」
「姫様なら着られるでありますか、これ!」
「着るわ。当たり前でしょう」
「い、言うのは簡単であります!」
「見られて恥ずかしい身体はしていないわ。今のわたしは王族ではないし、見咎める者もいない。それに、国家再建のためだもの」
「ううっ」
確かに恥ずかしい身体ではないだろう。小さな背丈に巨大な何か。グラビアアイドル顔負けだ。だけどそういう問題ではない。
「いいから装備してみなさい。命令よ」
「あっ、ズルいであります! なら姫様も! 姫様も着るであります!」
「いいでしょう。御主人様、少々お待ちを」
「あ、うん……」
「わたしが着たらあなたも着るのよ」
「は、ハイ……」
「どうせ見るのは御主人様とミミだけだもの。あなたはずっと着ることになるけれど」
最後は小声。ここでちょっと着て見せるだけのフィラルムと違い、フェイはこれからずっとこれを着るのだが、それに気付いていない。
何が起きているんだろう。完全に姫様呼びしてしまっているし。遠慮のない物言いは仲良くなったってことか。いいことだ。
二人は馬車に隠れてしまった。なにやらゴソゴソしながら言い合っているのが聞こえる。ミミは狼の毛をワシャワシャしているが、僕は何もやることがない。ガチャ続けていい?
「ハミ出るであります! これ絶対ハミ出るでありますよ!」
「大丈夫よ。魔法武具には自動調整機能があるわ。ほら」
「なっ、隠れてる! ちゃんと隠れてるであります!? ギリギリだけれども! ほとんど丸出しだけれども!」
「ええ、どうもこのプロテクター部分は胸に合わせて伸縮するようね。しかもちゃんと固定されるわ。ほら、跳ねても大きく揺れないの。さすが魔法武具ね」
「胸に合わせてというか……あ、でも下は……」
「あ」
「ガッツリハミ出るでありますよ!」
なんて話をしてるんだ。
「あの、御主人様、カミソリはありますか? ナイフでもいいであります」
馬車から顔だけ出したフェイ。何に使うんだとは聞けない。自分の荷物から、髭剃り用に買ったカミソリと油を渡す。また馬車に隠れる。
「ほら、剃って。自分でやったことが無いのよ」
「は、はい。うう……その、後で自分のもやっていただけるでありますか?」
「やるわ。だから剃り残さないで」
「不敬……こんなの不敬でありますよぅ……ここはお世継ぎを育むための……」
だから聞こえてるんだって。もうガチャして待ってようかな。あと21連。チケットガチャ画面を開く。
「ミミ、ここタップして」
「ん? ん」
最低保証を引くとは、今の僕はあまりにも弱運だ。なのでかわりにミミが引く。狼をワシャワシャしててすごくおざなりだったけど。
地母神アルタナーの周りを光が回る。おお!?
白、青、青、金、金、青、青、金、白、金。
金が4つ! 金が4つもあるぞ! すごい強運だ! いや☆5無いけど今はいい!
興奮してタップする。あ、さっきは気づかなかったけど、これ選んでタップできるな。ならまず白から開けるか。
白はコモンシールドとプレゼントの筆記用具だった。安定のゴミだが無駄ではない。次は青。☆3、プリンセスドレス(上)、麻痺防止の御守り、ガーターベルト、破毒のリング。
なんだろう、明らかに僕より引きが良い。同じ☆3でもこの格差。
あっ、これキャラクターも金色確定じゃないか! ここまでキャラクターを引いていない!
すごい、僕の運が悪いのか、それともミミが強運なのか。
意を決して金色をタップする。
まず1つめ。ああ、これさっき引いたやつだ。マイクロビキニアーマー。2個あってもいらないな。いや、限界突破できるのか?
2つめ、スカート、下半身装備だ。白くて短いプリーツスカート。いや短いなこれ。尻が出そう。
3つめ……ボンデージ。いやこれ十八禁ゲームだったっけ? 全年齢のはずでは?
これだから中華ゲーはよォ!
レア装備はエロ方向なのか? ゲーム内ではグラフィックが変わるわけでもなさそうだからお遊び要素なんだろうけど、ここは現実。エロ装備はちゃんとエロい。ちょっとしたお遊び要素がえらいことになっている。
だが、これだけは言わせてほしい。露出度が高いことだけがエロスではない。まずはそれを学んでいただきたい。
まあ、いい。最後、キャラクターだ。ここまでは前座。重要なのはあくまでここだ。キャラクターが大事なのだ。
「ここ押して」
「ん」
ミミの指を借りてタップする。少しでも運を。さっきの狼と同じくぺかーと光った。浮かぶシルエット。
人間! これは人間の影だろ!
光の中から出てきたのは年若い女の子だった。ミミよりは上だがフィラルム達より下、見たところ中学生くらいの、ローブ姿の少女。髪色や顔立ちなど、なんとなくフィラルムに似ている。
よっし、間違いなく人間だ!
「招致に応じました。わたくしはヴァルハイム王国第三王女兼宮廷魔術師、心眼の魔女ルパル。お供させていただきます」
おお! それっぽい。
初めての人間召喚だが、状況はどの程度理解しているのだろう。召喚がストーリーに組み込まれているゲームもあるけど、だいたいのゲームだと加入エピソードは好感度を上げれば閲覧できたり、イベントとして設定される。ちゃんと出会いは設定されてるんだよな。そこをすっ飛ばしていきなり仲間。どういう認識なのだろう。ううん。聞いたほうが早いな。
「ええと、状況は理解してる?」
「あなたが軍団の指揮官で、混沌軍を倒す旅の途中だと」
「それをどうして知ってるんだ?」
「どうして……?」
僕は旅立ったばかりで、世直しなんかしていないし混沌軍なんか知らない。噂になるはずもない。軍団の指揮官って言うけど、そんな大層な人数でもないし、実質的な指揮官はフィラルムだ。
「誰かに聞いたの?」
「いえ、ただ、知っています。祖国の復興には、貴方についていくのが一番だと」
「ええ……?」
そういう設定のキャラクターだ。設定が刷り込まれているのだ。
いくらガチャで引いても、即座に信頼してついてくるのは現実では変だと思うが、そんなものなのだろうか。
ゲームによるが、好感度は信頼度だったり絆という名前に設定されていることもある。上げると能力が上がったり、スキルが使えるようになるやつだ。設定としては、指揮官である僕を信頼していないから能力が発揮できないという訳だろうか。
信頼度が上昇することで実力が発揮できるようになると考えれば、現状のルパルはまだ僕を疑っている状態のはず。ただ、刷り込まれているから旅にはついてくる。都合はいいがなんだか不気味だ。小市民の僕は、誰かに頼られることに慣れていない。
「混沌軍の撲滅と、ヴァルハイムの復興を目指していると噂されていたと記憶していますが……どこで聞いたのでしたかしら……? 酒場……いえ、傭兵が? 夢で見た……? アルタナーの導き……そう、地母神アルタナーのお告げですわ」
ああ、地母神の加護とか導きとか、設定としてはそんなところなのだろう。
「そっか。でも、ここには混沌軍はいないんだ。違う世界に来てしまったから」
「違う世界……それでは、ここは天国か何かですの?」
ああ、神様に導かれてついた場所って言ったら天国になるか。
なんと説明するべきか。フィラルムは即座に状況を理解して対応してくれたし、フェイは何も気にしていなかったしフィラルムに言われるまま納得したが、僕の説明でなんとかなるのだろうか。無理そう。あとでフィラルムに説明してもらうしかないな。
「いや、違うんだけどね。建国を目指しているのは本当だよ。ところでヴァルハイムの王女ということは、フィラルムの?」
「フィラルミリアお姉様かしら? でしたらわたくしの姉ですわ。お姉様もここにいらっしゃるのですね。今はフィラルムと名乗っておられるのですか」
フィラルム、本名じゃなかったのか。
妹。そりゃ年下だよな。なんというかサイズが違う。全然違う。手に余るほど大きいフィラルムと較べ、こちらはまったく慎ましやかだ。年齢相応といえばその通りか。年齢知らないけど。絵師、お前ほんと両極端だな。ビッグスピア酸先生か。だとすると本当はロリコンなのに巨乳を描かされている可哀想な被害者だ。
さておき。
背も低く体格も華奢で、見た目は深窓の令嬢という雰囲気。全体的に小型化したフィラルムという感じだ。絵師、こういうのも描けるんだな。最初の二人とキービジュアルがひたすら爆だから誤解していた。ゲームの顔となるキャラクターは大きいのが多いものだ。エロは目を引くからね。僕としては成長の余地が見える方が好みだけど。
さて、ステータスを確認する魔女というだけあって、後衛の魔法キャラだ。あ、身長体重とスリーサイズ載ってる。ちっちゃ、軽っ、ほっそ。
「フィラルムならそこの馬車にいるよ」
「……滅びた祖国を出てから、初めて希望が持てそうです。敵討ちができないのは残念ですが、お姉様がいらっしゃるのなら」
「この世界のことは、フィラルムから説明を受けるといい」
「ええ、そうしますわ」
説明する自信がないし、信じてもらえる自信はもっとない。
「お姉様はすごい方なのですよ。常に貞淑で、その美貌と才覚は周辺諸国に轟くほどであり、プロポーションも女としての理想型。国内外問わず求婚が殺到していました。見た目だけでなく、一度見聞きしたことは忘れず、いつも本をたくさんお読みになり、庶民の風習から外国のマナーまで完璧なのです。盤上遊戯では誰も敵わず、かといって勝ちすぎることや奢り高ぶることもない。それに、常に新たな政策を考えておられますし、父の代わりに外交をすることもあり、次期国王として……」
お、おお、すごい熱量。
確かに美貌だ。プロポーションもすごい。擬音にするなら、バイン、スッ、ドンッ、て感じだ。バレーボールみたいだった。身長が低いので理想型というには疑問が残るが。ちなみにフェイはドーン! キュッ、クイッ、って感じだ。こっちはこっちですごい。ラグビーボールみたいだった。腹筋割れてたし切れ上がってた。
フィラルムは頭もいい。今回の作戦も全部フィラルムが考えたものだ。僕もフェイも何も発案していない。
「ルパルはフィラルムが好きなんだな」
「ええ、あれほど完璧な女性は世にありませんわ。わたしの理想像ですの」
その理想は今、マイクロビキニアーマーに着替えてるのだが。
その時、ちょうどフィラルム達の会話が聞こえてきた。
「フェイ、確認を」
「んー、んー、よし、ハミ出てないし、剃り残しも無いであります!」
「では御主人様に見ていただきましょう。そうしたら次は貴方の番ですよ」
「うっ……うー、ええ、い、いいでありますよ」
「御主人様、こちらがマイクロビキニアーマーです」
ああ、タイミングが悪すぎる。
馬車から飛び出してきたフィラルムの姿は、端的に言って痴女だった。
ほぼ紐で構成されたマイクロビキニアーマー。かろうじて尖端だけを覆い隠す胸部のプロテクターは、自然とは言い難い形をしている。まるで何かの形に沿うような楕円形になっているのだ。つまり形が丸わかり。
下も酷い。ただの紐が、一部分だけ少し太くなって食い込んでいるだけ。太くなっている部分は一応プロテクターなのだろう、金属の質感があった。隠せているのは一本筋だけだ。あとは肩当てと直垂、それと篭手と脚絆がついている。全身鎧という名目だけど、こんなものほぼ全裸だ。
「この通り、肝心の箇所は全て隠せていますし、こんなのでも性能は優秀でして、胸などは揺れも軽減……」
自分の身体を確かめるように見ながら、両手で胸を揺らしながら説明しようとして。
視線を上げてこちらを見て、気が付いた。
気が付いてしまった。
「……ルパリア?」
「お姉様……その格好……」
「あ……その、見……」
フィラルムは両手で身体を隠すように抱きしめ、へたり込む。さっきまでノリノリでふざけていたのに。
本当にすごい格好だ。隠れているのは全身の5%くらいか。形としては水着だが、構成要素はプロテクター部分と白い紐だけ。尖端しか隠れていない。記憶にある胸の尖端の形状ギリギリのサイズだ。
フィラルムは身体の一部が大きいので裸だと重力の影響があるのだが、マイクロビキニアーマーによって左右から寄せられつつ下から支えられ、重力に逆らうように上向いている。下は正面から見えない。へたり込んで女の子座りになっているからだが、見えないからこそ面積の少なさがわかる。
ミミは子供だし、フェイは従者だし、僕には既に見られているから恥ずかしくない。そう計算していたのに、不意打ちで妹に見られたのが恥ずかしかったのだろう。友達とテンション高く遊んでいるところに家族が来たり、カラオケでネタ曲を熱唱している時に店員が入ってきたようなものだ。
「貴方は……」
ルパルは僕をキッと睨んだ。え、なんで僕?
「お姉様に何を……?」
「えっ」
「貴方はお姉様を拐い、慰み者に」
「いや、違う! 違うよ!」
あ、でも慰み者にはした。同意の上だけど。むしろあっちから来たけど。
もともと興味はあったらしいし。男と女ですもの。あと、どちらかと言えばフィラルムがフェイを慰み者にする側だった。元の権力差はベッドの上でも適用されるらしい。
「お姉様にこんな格好をさせておいて、よくもぬけぬけと!」
「いやあれ自主的に着たんだよ」
「お姉様があんな馬鹿みたいな格好するわけがないでしょう!」
「馬鹿みっ……」
やめてあげて。お姉様がダメージを受けている。
「おや何を座って……転んだでありますか? 足元には気を付けないと駄目で……え?」
フェイがフィラルムを追って馬車から出てくる。座り込むフィラルムに向けて手を伸ばそうとて、ルパルに気付く。
「ルパリア様!?」
「あなた、我が国の兵? 見覚えがあるわ」
「はっ、騎士見習いのフェイであります! 現在は主殿とフィラルム様の従者兼護衛を勤めているであります!」
「そう、良かった、あなたが守ってくれていたのね」
安堵の溜め息を吐く。そうそう、無理矢理拐ったりしてない。
「うん……? では何故、お姉様はあんな格好を……」
「あ、それは自分に着させる為であります!」
「なんですって?」
「先に姫様……ええと、フィラルム様が着たら、自分も着る約束をしたのであります」
「は?」
「フィラルム様は誰に見られても恥ずかしくない身体をしているから大丈夫だと! 率先して!」
「え、えぇっ?」
「自分はこの装備は恥ずかしいと思うのでありますが、フィラルム様に着られては嫌とも言えないでありますなー!」
「…………」
黙っちゃった。
ルパルは恐る恐るといったふうにフィラルムを見た。
「そんなに馬鹿みたいかしら?」
「いやっ、そのっ、違……」
「性能の良い武具を、見た目で嫌がるフェイに着させる為の策略だったのだけど……」
「え、ええ! 自ら見本を示したのですわよね! わかりますわ!」
「いいえ、あなたは何も解っていないわ」
「え……?」
フィラルムが立ち上がり、その身体を誇示するようにポーズを決めた。堂々たる態度はさすがに王族だと思わせる。ほぼ全裸だけど。
「王族たるもの、持てる全てを武器とするべき。この身体も武器のひとつということよ」
「え、ええ、そう思いますわ」
「色仕掛けもそう。身体を使って取り入ることも必要な要素よ」
「その通りで……え?」
「国が滅びた今、復興を成し遂げるにはご主人様の力が不可欠。それ程の力を持つお方よ」
「コレが……? いえ、お姉様が仰るならそうなのでしょう。地母神アルタナーもそう告げたのですが、どうも……」
コレて。
まあ、僕が弱そうなのは自覚があるし、才気闊達にも見えないだろう。僕はソシャゲと何かを育てるのが好きな小市民。たまたま能力を与えられただけだ。
「故に、ご主人様の寵愛を得るのは最優先事項と言えるわ」
「理解は……できますわ。納得は難しいですが」
「ではあなたも着るのよ」
「理解も納得もできませんわ!」
長々と喋っていたのはそのためか。なんのことはない、自分が恥ずかしい思いをしたから妹にもさせたいのだ。
「いいから。困ったことに、ご主人様はあまり胸に執着なさらないわ。胸に視線が向く頻度が他の男より明らかに低いのよ。代わりに脚や鎖骨を見ているの。細いほうが好みなのかもしれない。つまりあなたが適任である可能性があるわ」
「よくないですわ! 着ませんわ!」
バレてる。確かに別に好きではない。
大きな胸が嫌いなわけではないが、なんというか、育ちきったものにはあまり興味が沸かない性分だ。フィラルムの場合、体格比で見ると胸だけがやけに大きく成熟している。成長期が過ぎたとはいえ他はまだ成長の余地がありそうなので、そっちに目が行きがちだ。成長には骨格が重要なので骨張った箇所や手足を見てしまう。僕が女を見る目線はエロだけではない。
見る楽しみというなら、フィラルムやフェイよりもミミや狼を見たほうが楽しい。全身が成長性の塊だからだ。興奮はしないけど。
「わたしたちは敗走の身。王家の血を絶やさぬように少しでも血を繋ぐ確率を上げる必要があるわ。この先、女と出逢わせるつもりはないけれど、召喚するのは止められない。抱かれる相手は増えるけれど、弾数は有限なのよ。幸いご主人様は多いほうですが」
「意味がわかりませんわ」
「あなたも習ったはずよ。閨の作法を。房中術と精をつけるための栄養学を駆使して、二人がかりで一晩に8回。十分に思えるけれど、懐妊が解禁される頃にどうなっているかはわからないのです。少しでも印象付けなくては」
「……つまり、お姉様の貞操は……」
「貞操なんてものは必要な相手に捧げて気に入られる為にあるの。既に必要な相手を見付けたわたくしたちには不要よ」
恋とか無縁なんだろうな。実利100%の意見だ。俺の子を……まだイメージできない。いずれ育てたいとは思っていたが。
「いえ、あの、こういうのは生き残りの確率を上げるために分散するべきなのでは? わたしはわたしで別の方に……」
「いいえ、明らかに劣る人間しかいないわ。文明のレベルが低すぎるのよ。ご主人様のいた場所はもとより、わたくしたちの国よりも。教育の程度も知れたもの。王族ですら愚鈍だったわ」
「う……」
「さあ、理解したわね。理解したなら、着なさい」
「あ、ダブりのマイクロビキニアーマー出たよ」
「まあ、お揃い。しかし今は1つで大丈夫です」
色々と思惑が聞こえてきたけど、要するに僕との子供が欲しいってことだ。嫌な気分になるわけがない。僕だって子供の育成には興味があるし、ベッドの上のスキルだって成長したいしさせたい。
それにしても力技だ。フィラルムらしくない。身内が相手だとこんなものかな。どうでもいい他人は道具として扱うが、身内は感情論と利で懐柔する。僕の寵愛が利益だとは思えないけど。長期作戦の立案はともかくアドリブは苦手なのかもしれない。
まあ、この世界の人達が色々とひどいのはその通り。教育の程度が低いのも事実だ。それは滞在中に実感できた。
「これの性能が高いのは本当よ。あなたはわたくしと違って戦闘要員なのだから、良い装備を身に着ける必要があるわ。ほら、能力値を見なさい」
「性能って……え、こんなに……?」
「さあ着なさい。処理はフェイがするわ」
「でもこれ前衛用……わたしは後衛で」
「フェイ! 着替えを手伝いなさい!」
「はい! 処理するであります! 自分も処理したのでチェックお願いするであります!」
「えっ、いや、ちょっ……」
ルパルが馬車に担ぎ込まれる。なんだかなぁ。
「装備、この子もできる?」
「ん、さぁ、どうだろう。着けてみる?」
「ん」
立ち尽くしていると、ミミが腕の中の狼の毛に顔を埋めながら聞いてくる。いいなぁ、それ。でも狼にマイクロビキニアーマーは無理だろうな。
ステータス画面を見る。ユニット数は3。フェイと狼とルパルだ。ああ、狼の表記名はアイスウルフ。装備箇所は牙と爪、頭とアクセサリーみたいだ。手持ちにはアクセサリーしかない。
「はい、麻痺の御守り。ええと、首につけるのかな」
「ん」
紐を首にぶら下げる。何かに似ていると思ったが、ドリームキャッチャー、あれの小さいのだ。派手なネックレスみたいで、ブラブラ揺れて狼はちょっと困惑している。
「あとで首輪を買おうね」
「ん」
ミミは高速で頬擦りする。そんなに気に入ったのか。アイスウルフは熱いのか少し嫌そうだ。大きな子犬は可愛い。子供も可愛い。それは間違いない。可愛いは正義だ。正義は勝つ。
ふとミミが止まり、少し考えてから言う。
「装備、わたしもできる?」
「あー、いや、どうだろう」
キャラクター以外はステータスが見れない。ただ、ゲーム内の存在ではあるがユニットとしてのキャラクターではないフィラルムに装備できているのだ。できそうな気はする。
「着てみる?」
「ん」
女物だし、僕は着られない。ええと、余っているのはプリンセスドレス(上)とミニプリーツスカート、レオタード、ボンデージ、あとはガーターベルトか。アクセサリーは破毒のリング。コモンシリーズの装備はいっぱいある。
「どれ着る?」
「これ」
試すならコモン装備でいいのだが、ミミが選んだのはプリンセスドレスとプリーツミニスカートだ。うん、女の子だもんね。可愛いのがいいよね。
「じゃあ、はい」
「ん」
特に隠れるでもなく着替え始める。今着ているのは王宮でもらった綿製のシンプルな服。貫頭衣で、腰をベルトで絞るワンピースのようなものだ。僕はそれにズボンを合わせている。ミミが服を脱ぐと、靴とパンツだけになった。
渡した服を頭から被る。プリンセスドレスはディ○ニープリンセスにいるような、首元の開いたピンク色のフリルのついた服だ。自動調整機能だろう、明らかに大人サイズで大きかったそれは、ミミの身体に合わせるように縮んでピッタリになる。ふむ、キャラクターじゃなくても装備できるようだ。
次いでスカートを履く。白地に青いラインの入ったプリーツスカートで、同じくダボダボになりそうなサイズだったが、収縮するように腰回りにピッタリと合った。
ただ、もともと常軌を逸する短さのスカートだ。真正面から見ればギリギリ隠れているが、少しでも角度をつければパンツが丸見えになりそうな短さになっている。ソシャゲキャラにはそんなのよくいるけど。むしろ丸見えのもよくいるけど。
ついでに穿いているのがモコッとした綿パンツなので、上から見てもハミ出てしまっていた。いわゆる磯の若芽ちゃん状態だ。昭和の頃はこれが普通だったのだろうか。昭和怖い。
ピンクの服に白のスカート。ハミ出るパンツ。微妙にチグハグだが、可愛くはある。オシャレ上級者の範疇かもしれない。嘘だが。
「どう?」
「可愛い可愛い」
くるっと回る。コスプレみたいだけど可愛いのは確かだ。パンツはもう少しモコッとしてないのを履いたほうがいいな。多分来たときに着ていた私物だろうから、こちら用の下履きとかに変えるとなお良い。それと、靴が地味な茶色の革製なので、こちらも変えたほうが収まりがいい。明るい色のブーツなんかがいいか。
「靴と下着を変えたほうがいいかな。あとで買おうか」
「ん? ん……」
ハミ出たパンツを気にしてか、ギュッと引っ張っている。そんなに食い込ませると痛いだろう。あんまりオシャレとか気にしなさそうだと思っていたが、やはり女の子。身を飾るのは本能か。
「下着も自動調整機能があるやつが引ければいいんだけどね」
「引いて」
「無理を言わない。下着って項目が無いんだが……重ね着ってできるのかな」
「ん?」
「いや、例えばこのマイクロビキニアーマーを下着代わりにしたり」
「ん」
ミミが手を出したので渡すと、パンツを脱いでマイクロビキニアーマーの下を履こうとしてスカートが邪魔で履けず、一回スカートを脱いでマイクロビキニを履き、それからスカートを上げた。少しは隠そうよ女の子。
マイクロビキニアーマーは少し腰高なので紐がスカートの上からハミ出ているが、綿パンツのモコモコよりは違和感が無い。
「履けた」
「おお、大丈夫なのか……あ、上も着ける?」
「んーん」
ミミは首を振る。まあブラとかまだいらないよな。寄せて上げるモノも無いし、肩の出たドレスだから紐が見えそうだし。
改めて狼を抱っこする姿は、思いっきり日本人顔だがソシャゲのキャラクターといっても遜色ない姿だった。まぁあくまでコスプレだなぁ、といった感想。黒髪なのが似合わないのかもしれない。
「さて、これで防御力は上がってるのかな」
「んー……」
装備したところでステータスが見られない。ミミはゲームキャラではないからだ。
「まさか攻撃するわけにもいかないし」
「ん」
「とりあえず服としては使えるとわかった」
王族は絹とか綿を着ていたが、安い店で売っているのは麻のゴワゴワした服とか微妙に臭う革製品だった。それよりはいい。どうせこの先もガチャは回すのだから、やってりゃ装備なんて余ってくるのだし、使えるにこしたことはない。
なお露出度のことは考えないものとする。
さて、とにかくキャラクター以外も身に着けられることがわかった。装備こそ女向けだが、アクセサリーくらいはつけてもいいだろう。破毒のリングを装備しておこう。
そんな検証をしていると、馬車からドッタンバッタン聞こえてくる。どうもフィラルムの着替えが終わって、次はルパルを着替えさせようとしているようだ。
「あなたの着る番よ」
「だからわたしは後衛でっ!」
「フェイ、脱がせなさい」
「はい!」
「ふ、不敬! 不敬ですよ!」
「上位王族の命令であります!」
話し声と暴れる音。どっちも丸聞こえだ。
上位って、姉のほうが偉いんだな。
「ほら、逃げても御主人様に見られますよ。では……あら」
「これくらいなら剃らずともよさそうでありますな」
「ううっ……」
だから聞こえないようにしてほしい。
暇なので狼を撫でるミミを撫でる。子供の生育にはスキンシップが重要だと何かで読んだ。多分親とのスキンシップなのだろうが、ここにミミの親はいない。任せられた以上、ミミを育てるのは僕の役目だ。
人間の育成とは面倒が多いが、それだけに達成感もありそうだ。長期飼育をしたことはないのだが、これを期に試してみるのもいいだろう。もちろん狼もだ。
んー、狼って犬と同じでいいのかな。
「とりあえずガン見しとこう。ちょっと貸して」
「ん……」
「大丈夫、ただの躾けだよ」
「ぶたない?」
「ない」
「……ん」
狼を受け取り、手で口を押さえてガン見する。決して目は逸らさない。やがて狼が目を逸らしたので格付け完了。手を離す。
「はい、オッケー」
「なにしてたの?」
「んー、狼は群れを作る動物だから、周囲の人をランク付けするんだ。ミミは狼より身体が大きいけど、抱えあげて遊んでいるからたぶん同格の遊び仲間扱いだろう。だから僕は二人……一人と一匹よりも格上。そう思わせないといけないんだ。にらめっこで勝ったから、この子も僕が上と認めたはずだよ」
「そうなんだ」
小さい頃は、よく動物の育て方を調べたものだ。喘息持ちが家族にいるので毛のある動物は育てられなかったが憧れていた。そのうち小動物にシフトしたが、その頃の思いはいつまでも残っている。
その他、躾けに有効的なのは餌だが……そもそも何を食べるんだろう。魔力とか言われたらどうしよう。
「こいつの餌は何がいいんだろうな」
「ん……ドッグフード?」
「売ってないだろうなぁ」
「……ミルク?」
「仔犬だけど、走り回れるくらいには成長してる。そこまで未熟じゃないと思う」
「お肉あげる」
「うん、あとで何か倒すか」
街道から外れると魔物と呼ばれる動物が出現するらしいので、フェイとルパルに倒させて、それを食わせれば……いや、解体とかできないしなぁ。餌の用意はどこかの町ですればいいかな。
「そういえば名前とか付けないのか?」
「……いいの?」
「いいよ。呼ぶのが面倒な名前じゃなければ」
ペットは虫や魚やザリガニなど無数に飼ったが、名前を付けたことはない。数が多いしすぐに死ぬからね。ゲームでもデフォルトネーム派だ。付けるにしても身の周りにあるものや好きな食べ物の名前にしていた。育てること自体が好きなのであって、名前にはあまり興味が無い。好きにつけてくれていい。
「んと……んーと……」
「ゆっくり決めなよ」
どのみち狼を育成するのは先のことだ。するにしても、今は素材が足りていない。デイリーガチャで育成素材も僅かに入ったが、前衛のフェイを優先したい。レア度で言えばルパルなのだが、☆5ならともかく☆4ではな。それに初期キャラってだいたい強いものだし。
しかしそれもガチャ次第。残りを引いてから考える。
「残り11回か……」
今のところキャラクターが最低保証数しか引けていない。そういう輩出率設定なのだろうか。提供割合が見れないのが辛いな。暁の騎士物語における個人戦のパーティー人数は5人。未だその枠すら埋まっていないのだ。
数値やパラメーターをいじるだけで量産できる装備と違ってキャラクターを作るのは労力が掛かるので、勿体ぶる気持ちはわかる。今をときめくセールスランキングトップ常連のゲームでも初期はキャラクターが全然出ない時期があった。それを思えば最低保証があるだけ良心的……な訳がない。あっちは無料ガチャからもキャラクターが出るし、それを育てればストーリークリアくらいはできたのだ。最低レアリティの暗殺キャラでドラゴンスレイヤーしていた。
対して、暁の騎士物語はどうだろうか。量産型パクリ中華ゲーにバランス意識があるとは思えない。あっちのスタイルはPay to win。金を出せば出しただけ強くなるというシステムが主流だ。特に対人要素のあるゲームは。
しかし、今の僕には課金ができない。
僕はどんなゲームも、ちゃんとプレイすると決めたらお布施をする。最初の課金は大体お得なキャンペーンを組んでいるからだ。フット・イン・ザ・ドアというか、ほんの少額でも一度課金をすると、次の課金へのハードルが著しく下がる習性が人間にはある。それを狙って、最初の課金にはガチャチケットがついてきたり、ゲームが有利になるアイテムが手に入ったりするのだ。
課金額はそれぞれ異なる。しばらく遊べそうなら確定ガチャや月額プラン。期待できないならミニマムの課金。つまりゲーム会社へのお布施だ。賽銭箱に投げ入れるのと同じ感覚。たまにサービス終了が早すぎて返ってくるけど。
だけど、僕はまだ暁の騎士物語に課金をしていなかった。チュートリアルが終わるという所でこちらに喚ばれたからだ。もう数分あれば、ミニマムとはいえ課金していたのに。いや、嘘だ。パクリ具合を見てから決めようと思っていた。
課金……課金といえば、石はどう補充すればいいのだろう。
石はガチャを回したり、コンティニューをしたり、便利機能を開放したりと色々使い道があるのだが、ゲーム内で手に入る数には限りがある。それでも順当に進めていけば、それなりの量が手に入るものだ。
ストーリークリア報酬だったり、イベント報酬だったり、ログインボーナスだったり、キャラクター育成報酬だったり、運営からのお詫びだったり、様々な方法で石が貰える。
普通のソシャゲなら、だ。
今の僕が見ている画面は、所々に簡略化した形跡が見られる。具体的には、運営との繋がりが存在しないように見える。ガチャ画面で提供割合が見れなかったり、問い合わせ先が無かったり、お知らせやメールなども無い。あるのはガチャと、ユニットやアイテムの一覧だけなのだ。
僕はこのゲームをまともにプレイする前にこちらに来たのでわからないが、もしかしたらこういうゲームなのかもしれない。それでもストーリーくらいはあって然るべきだろうけど。
考えてゾッとした。石の入手方法が無いのだ。今ある石を使ってしまえば、もう後がないということだ。
となると、ガチャチケットはなおさら貴重だ。残り11回。1枚は特殊チケットなので、10連できるのはあと1回。
こうなればもう高レアリティとか言っている場合ではない。必要なのはキャラクターだ。せめて5人。
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原作ゲーム内におけるキャラクター設定
名前:『心眼の魔女』ルパル
年齢:14歳
身長:142cm
体重:34Kg
B:68
W:52
H:72
武器:杖
防具:軽装
好物:甘いもの、魔法
趣味:魔法研究
キャうラクター説明:ヴァルハイム王国第三王女。ルパリア・クラート・ハインネット・ヴァルハイム・イェイン。
自称宮廷魔法使いだが、ヴァルハイム王国にそんな制度は無い。心眼の魔女と名乗るが、誰にもそう呼ばれない。ただし魔法の知識と実力は間違いなく本物。ろくに社交をしないので誰にも知られていないだけである。
好奇心が強く、周囲からは魔法バカと呼ばれるほど魔法が大好きで、使える使えないに関わらず知識は膨大。ただしそれ以外の能力は欠如していて、記憶容量のほぼ全てが魔法で埋め尽くされている。何でも卒なくこなす長女を神聖視しているが、姉と比して慎ましい胸にはコンプレックスを抱いている。
魔法使いのコミュニティで学んだことは、男には強く当たるべし、だった。
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