第五話 アイベルサスコロニー

ドライデンを含む三隻の軍艦と、輸送艦ジーベックはすれ違う。


「艦長、輸送艦はアイベルサスコロニーに針路を取った模様です」

「うむ。我が艦隊は従来の哨戒任務に戻る、ライベーグとシャルサトールにも伝えろ」

「ラジャー!」


「艦長、よろしかったのですか?、あの輸送艦に乗っていた二人は見るからに怪しいところだらけでしたが?」

「確かに怪しいところはあったが、宙賊でもなければ他国のスパイでもないのなら、引き止める理由はない」


セリアリアは、副官の疑問に応える。


アレンと名乗った男とネオンと名乗る女を、軍の犯罪者データベースに照合したが、ヒットしなかった、故に宙賊、もしくは重罪犯ではない。


次に他国のスパイの可能性を考えたが、スパイであれば襲ってきた宙賊を返り討ちにすることはあっても、その母艦を報復で襲ったりはしないだろう。


あまりに目立ちすぎるし、もし何らかの理由で襲ったとしても、みすみす脱出艇を見逃したりはしないだろう。


艦長であるセリアリアと会話しても、アレンは緊張はしていたものの焦ってはいるように見えなかった。


「それに手練の傭兵が増えるのなら我が国にとって喜ばしいことだ」


セリアリアの脳裏には、ネオンの顔が浮かんでいた。


◆◆◆◆


「はぁーーーーーーー」


三隻の軍艦と距離が十分に離れたのを確認したアレンは特大のため息を吐く。


「お疲れ様、アレン」


そんなアレンの頭をネオンは、撫でる。


「突っつかれたらボロを出す自信しかなかったよ」

「あの大佐が割り切りのいい性格で助かったね」

「本当にな、任務に忠実で有能な軍人に出会えたのは幸運だったよ」


少なくともセリアリア大佐は、賄賂やコネだけで出世した人物ではなさそうだった。


「どっと疲れたよ、もうアイベルサスコロニーまで何もしたくない気分だ」

「アレンは休んでていいよ。貨物室の整理は私がやっとくから」


「いいや、やりかけの仕事を放置するのは性分じゃないんでね」


再び貨物室に移動した二人は、二つ目と三つ目のコンテナを開ける。


「ガラクタの山、廃棄品が詰まったコンテナか、それとこっちは…ボールダイトの山か」


「ボールダイト?」

「一般的な航宙艦の外壁とかに使われる合金の元になる金属だな、トラビッシュ宙域ではかなり取れるみたいだ」


「コロニーに持っていけば売れる?」

「売れることには売れるだろうけど、ボールダイトは別に希少な金属ってわけじゃないから、大した額じゃ売れないと思う」


「そう、残念」

「んで、こっちは使えるものがあればいいけど」

「ゴミの山じゃないの?」


「ネオン!」

「っ!、な、何?」


初めて聞くレベル、いや、以前シルヴァーナを小破させた時と同じレベルのアレンの大声に、ネオンは驚く。


「ゴミと君は言うが、それは間違いだ。こんな感じのガラクタの山の中にはお宝が眠ってる相場が決まってるんだよ!」


話しながら、興奮した様子のアレンはガラクタが詰まったコンテナの中に突撃する。


「おっ、旧式のコンデンサか、こっちは破損した外核ユニット、これは多脚清掃ロボットのフレームか?」


楽しそうにガラクタを漁るアレンを、ネオンはしばらく見守った。


◆◆◆◆


「で?、何を作ったの?」

「よくぞ聞いてくれたな!」

「聞いてって顔に書いてあった」


「こいつは自立小型カメラロボットだ、ライブ機能もあってマイクも付けたから映像だけじゃなくて音も聞こえるぞ」


アレンは、自分の肩に乗せた手のひらサイズのビデオカメラに6本の金属フレーム製の足が生えた小型ロボットを自慢する。


「デバイスで遠隔操作できる範囲が半径100メートルなのを除けば、十分優れものだ」

「うん、すごい」


あのガラクタの山から、一端の機械を作り出せるのだから、アレンは凄腕の技術者なのだろう。


その自立小型カメラロボットが一体何に使えるのかは、ネオンには分からない、というかアレンもあまり考えていないかもしれない。


ただ先程軍人と緊張した会話を強いられたアレンなりのストレス発散方法なのだと自分を納得させた。


「アレンが遊んでいる間に、アイベルサスコロニーが見えてきたよ」

「ん?、本当だ」


アレンは、パネルを操作し、目視したアイベルサスコロニーを拡大する。


「とりあえず傭兵管理機構マセナリーとやらに行って傭兵のライセンスを取得して、その後はどうする?」

「お金を稼いで、家を作る」


「家か」

「ダメ?」

「いや、そうじゃなくて。その単語は俺にも縁遠いものだなって思っただけだ」


戦争によって両親を失い、戦災孤児となってからは、宇宙工学や宇宙物理学の学習に没頭し、シルヴァーナの研究と開発に人生の殆どを捧げた、当然家なるものを構えた記憶はない。


「家、家か。ネオンはどんな家を想像してるんだ?」

「私が想像してるのは、居住惑星の着陸パッド付きの家。娯楽小説で見た」


「惑星に住むってなると、連邦の市民権が必要だな、おそらく最上級の」


アレンはパネルを操作して、宙域ネットワークにアクセスし、連邦の市民権について調べる。


「連邦の市民権は、3級から1級の三種類あって、何らかの功績を上げることで与えられることもあるみたいだけど、基本的に取得するには連邦に税金を納められる財産と収入が必要みたいだな。それと惑星に住むにはやはり1級市民権がいるな」

「壁は高そう、でも言い換えれば金を稼げばいい」


「そうだな、そもそも俺たちはまともな艦にすら乗っていないしな」

「ん、まずは身近の生活環境を改善させるところから」

「市民権やら惑星居住の話はまた後にしよう」


多くの航宙艦とすれ違ったジーベックは、アイベルサスコロニーの制宙圏に入る。


アレンはアイベルサスコロニーの港湾入管局に、通信を入れる。


『こちらは輸送艦ジーベック、入港許可を求める』

『来航の目的は?』

『傭兵ライセンスの取得の為だ』

『了解、入港を許可する』


通信を切り、アレンは誘導ビーコンの光に従って、港へジーベックの艦首を向ける。


「あっさりと許可が降りたね」

「一応セキリュティスキャンは受けたけど、このコロニーは緩いのかもしれないな」


アレンとネオンは無事にアイベルサスコロニーに寄港することに成功した。

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