第三話 宙賊母艦鹵獲
『つまり襲ってきた連中は救難信号を囮にして救助しに来た船を襲っていたと』
『ん、そういうこと』
『なるほど、小賢しい宙賊がいたもんだ。自分たちが救難信号を出した時のことは考えてなかったのかね』
この広い宇宙で、もし船が航行不能になってしまったら、それはほぼ死と同義だ。
救難信号はそんな状況に陥ってしまった時の最後の命綱だ。
『そこまで考えてる連中なら、宙賊になったりしない』
『違いないな、っと、データの抜き取りが終わった』
『ん、ありがとう』
ネオンに頼まれて彼女が破壊した戦闘艇のマザーユニットに、ハッキングしたアレンは、無事にデータを引っこ抜くことに成功した。
『このレベルのファイヤウォールなら、ないのと同等だから大した手間じゃないよ』
シルヴァーナの手に乗って、アレンはコックピットに戻る。
「さてと、シルヴィ、お前にやるよ」
アレンは、ホロ端末のホロディスプレイをスワイプして、シルヴィに抜き取ったデータを、転送する。
《受信完了、回収したデータの解析を始めます》
「シルヴィ、欲しいのは宙賊の母艦の座標、あとはとりあえずいらない」
《了解》
「宙賊の母艦を襲うのか?」
「ん、反対?」
「いや?、でも単騎で大丈夫なのか?」
「大丈夫、あの戦闘艇が主戦力の宙賊団の母艦なら負けようがない」
アレンはあまり意識していなかったが、ネオンは軍のプロガンダの為に捏造された偽物のエースではなく、本物のエースパイロットだということは改めて思い出した。
「シルヴィ、勝率は?」
《|ネオンの乗るシルヴァーナを落とそうとするのであれば最低でも精鋭パイロットが乗る軍用ARMSで構成された中隊規模の戦力が必要です、宙賊の戦力は不明ですが、勝率が8割を下回ることはありません》
「すごいな」
「ふふん、アレンは自分が作った最高のARMSと私を信じるだけでいい」
「そいつは楽でいいな」
「真面目なことを言うと、戦うこと以外のことは苦手だから、他のことはアレンに頼みたい」
「俺にできることなら何でもやるよ」
「お願い。それじゃあこの話は終わり。ネオン、ベルトして、囮の船を破壊するから」
「了解」
「シルヴィ」
《熱源反応も生命反応はありません、船内はもぬけの殻です》
「ん」
ネオンは囮の船をレーザーで撃ち抜き、永遠に沈黙させる。
《宙賊の母船と思われる座標を入手しました。現在地からおよそ一万》
「そこへ向かう、目標は母艦の破壊」
飛行形態へ移行したシルヴァーナは、発見した座標へ向けて飛び立つ。
「シルヴィ、抜き取ったデータの中に星系図はあるか?」
《あります、其方のデバイスに転送しますか?》
「頼む」
アレンはデバイスを起動し、転送された星系図をホログラムで表示する。
「トラビッシュは、13のコロニーと100近いプラントコロニー、そして9つの資源惑星と無数の小惑星が散らばる宙域か」
「石ころがたくさん」
「資源採掘が主な産業みたいだ、最寄りのコロニーはアイベルサスって名前のコロニーか」
「そのコロニーに行けば傭兵になれるかな?」
「シルヴィ、どうなんだ?」
何せネオンもアレンも、傭兵に関する知識は全くと言っていいほど、持っていない。
傭兵になることを提案してきた
《傭兵になるには、傭兵管理機構マセナリーに登録し、ライセンスを発行する必要があります》
「それだけいいのか?」
《はい。傭兵になるのに複雑な手続きは必要ありません》
「それならあとはアイベルサスコロニーに入港できるかが、問題か。シルヴァーナ単騎では入港許可は怪しいし、できれば船がある方がいいな」
「ネオン、もし宙賊の母艦を鹵獲できるか?」
「できるけど、宙賊を残す?」
「いや、必要ない。船が欲しんだ」
「ん、やってみる、できなかったらごめん」
「ああ、あくまでついでで構わないよ」
《宙賊の母船と思わしき輸送艦を捕捉、全速力で航行中》
「ネオンに戦闘艇の小隊が殲滅されたからだろうな」
「ん、足を止める」
加速したシルヴァーナは、格闘形態へと移行し、高エネルギービームライフルを二連射する。
ブルーの閃光が、艦橋とメインスラスターを撫でる。
輸送艦に張られたシールドが、一瞬でエネルギー限界を迎え、貫通したビームによって装甲が焼かれて真っ赤になっていた。
『今すぐエンジンを止めないのなら、次は当てる』
『ふ、ふざけるな!』
再び放たれたブルーの閃光が、艦橋の目前を通過する。
『二度は同じことは言わない』
恐怖した宙賊の母艦は、足を止めてエンジンを停止させた。
シルヴァーナは艦橋の目前に移動する。
『全員即刻退艦すれば、命だけは助ける、ただし一人でも宙賊が船に残っていたら、脱出艇を追って撃ち落とす。十分待つ』
ネオンの言葉に、慌ててブリッジを後にする宙賊たちが見えた。
「宙賊にはシルヴァーナが悪魔に見えているんだろうな」
「そんな怖い存在じゃない、悪魔よりも妖精と呼んで」
「妖精か、ビームライフルと機動鋼翼を持つ妖精が居るなら驚きだよ」
「ん、名付けて
「娯楽小説の影響を受け過ぎだぞ」
「アレンも読むといい、面白いよ?」
「丁重にお断りするよ」
タイトルが長すぎたり、ややテンプレートのようなストーリー展開は別に構わないのだが、突飛な設定や、脈絡のない物語の飛躍など、アレンには理解できないジャンルだった。
そんなくだらない雑談をしつつも、宙賊たちは脱出艇に乗り、母艦から逃げ出した。
《生命反応はありません、宙賊は全員脱出艇に乗った模様》
「ん、鹵獲成功」
「ほぼ無傷で中型の輸送艦を手に入れるなんて、注文しといてなんだけどすごいな」
「宙賊の船だから、軍艦だったらはこうもスムーズにはいかなかった」
「それはそうだろうな」
輸送艦の側面に移動したシルヴァーナは、格納庫と見られる場所のハッチをハッキングし、艦内に入る。
ハッチが閉まり、格闘形態のシルヴァーナは、片膝をつく形で、格納庫内に着陸する。
コックピットを開いて、鞘に納まった単分子ブレードを持ったネオンと、アレンが降りてくる。
『シルヴィ、待機して』
《了解》
コックピットが閉まり、シルヴァーナの
「まずはブリッジに行って、エンジンを始動させよう」
「ん、艦内地図を転送して、念の為私が先導する」
非常灯が点灯する通路をネオンとアレンは、歩く。
一応警戒はしていたが、警備ドローンなどが出てくることはなく、二人は難なくブリッジに辿り着く。
「よし、エンジン始動」
ブリッジのパネルに触れたアレンによってエンジンが始動し、非常灯の赤い光が消えて通常灯に切り替わる。
「ふぅ、とりあえずは一息つけるな」
「ん」
二人は揃って、ヘルメットを脱ぎ、小脇に抱える。
「見たところ3、4世代前の旧式輸送艦だな、宙賊にだいぶ改造されてそうだけど、航行には問題なさそうだ」
「良かった、それならアイベルサスコロニーに行こう」
「ああ、目的地はアイベルサスコロニーだ」
アレンは目的地をアイベルサスコロニーに設定し、自動航行モードを起動した。
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