第7話 盗作
結局、1限2限と寝過ごしてしまった。
それにチェアで座ったまま寝たからか、体の節々も痛む。
まだ眠そうに目を擦る神威を鞄に入れ、俺は学校を後にすることを決めた。
「てなわけで、帰るわ」
『2日連続は流石にえぐいで、ほんま』
「すまん。あとは頼むな」
『不良少年が、捨て猫拾ってより不良になるとか、誰が予想できんねん……』
俺はさっさと電話を切って、歩き続けた。神威のあくびが聞こえた。
というか、本当にこれからどうしようか。
姉貴が日勤の日なんて、全然普通にあることだし、寧ろ圧倒的に、家が空くことの方が多い。
そんなんで、こいつを守り切れるのだろうか。
俺たちは、旧時代の名残が未だ見られる市街地にいる。恐らくここは、昔でいうところの団地群とやらだ。
瓦礫だらけの道。向こうには、建物をつなぐアーチ状の橋があって。
「――居ねえ」
咄嗟に気づいた。鞄が軽いこと。あいつの体温が無くなったこと。
『言ったろうッッッッッ!!!
いつの間にか俺の手に握られていたトランシーバから、気色悪い声が聞こえる。
「ひとまずってか、ほぼ一日も経ってねえって」
『いやいやいやいやぁぁぁぁ!!!申し訳なかったねええええええッッッッッ!!
「……うちの子?」
「それじゃぁぁぁぁぁああああッッッッッ!! キミにはこれをプレゼントッッッッッッッッッッ!!」
「てめえ、今なんつった?なあ」
「ワイバーン、三種セットォォォォォォォォ!!! 最後に見せておくれよッッッッッ、キミの、その美しい力をッッッッッ!!」
アーチの周囲に、どこから来たのか、3匹の龍がいる。
青、白、黄のその龍たちは、俺を見て、今にでも食ってやろうと涎を垂らしている。
「なあ、言った筈だァ。俺は、あいつをさらさら返す気はねえってなァァァ!」
俺の声が、響いて響いて建物を揺らす。龍たちは一瞬、たじろいだ。
「それとよォ、もう一つ言っとくぜ? あいつは、
この空気に耐えられず、3匹は、それぞれ水、氷、雷の息吹を放つ。
俺は、右手の掌を向ける。
息吹は、吸い取られるように消え去った。
「楽しもうぜぇ?なあ、トカゲどもォォォ!!ギャハハハハハハハッ!!!」
これで俺は、ワイバーン全種を、2日たらずで殺したことになる。
*
冷たい鉄の檻。いつも、神威が感じていた感覚が戻ってきた。
嫌で、嫌で仕方なくて。辛くて怖くて、そして寒い。
ここは廃工場、スオウの人気のない場所に位置している。
「やあぁぁぁぁぁッッッッッ!!!!!」
聞き覚えのある、五月蝿い声。神威の耳をつんざいた。
「ぬしは…………
「いかにもッッッッッ!!おかえりッッッッッ、キミは、私たち
大男は気持ちの良い笑いを響かせる。神威は、歯軋りをした。
それは、自分が許せなかったから。一瞬でも、夢を見てしまったこと。
物乞いをしていたところを、連れ去られて、痛い思いを、つらい思いをしたことを忘れて安心に浸っていたこと。
毎日続く、訳の分からない拷問の末に、檻にぶち込まれ、俯いて生きていたこと。生きていることをかみしめる日々を忘れたふりをしていたこと。
そして、幸せを思い出してしまったことも。
「家族ごっこ、なんてッッッッッ!!、無駄なんだよ、無駄ァァァァッッッッッ!!!」
「…………」
家族ごっこ、と言われた神威は、途端に彼らのことを思い出す。思い出そうとしなくても、勝手に頭が幸せを噛み締めて、思い出していく。
初めて誰かに体を洗ってもらったこと、苦しくなるほど抱きしめてもらったこと。
誰かに初めて温かいご飯作ってもらえて、ふかふかのソファで何もせずにただ、ぼうと座れたこと。
誰かに、眠りながら傍に居てもらえたこと。寒くなかったこと。
神威にとって、すべてが夢のようで。
体を包む冷たさを感じるたび、幸せな記憶が呼び起されていく。
「んッッッッッ???? 神威ッッッッッ!!!!、なぜ泣いているんだいッッッッッッッッッッ」
神威は、知らず知らずに涙を流していたのだ。
神威はぐちゃぐちゃになった頭の中で。レオの顔を思った。
「……………………………………………………………………………………………………たすけて………………」
「グアアアアアアアアアアアアアアァァオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンンンンンンン!!!!!」
突然、どこからか龍の叫びが聞こえた。
「泣いてんじゃんねえぞ、神威ィ!!!」
落雷の落ちる音が、神威たちの足元に突然鳴った。
「な、なんだ!」「電気!?」
うろたえる武装した兵士たち。彼らは、地面を流れていく電気を見たと思った次の瞬間、意識が飛んだ。
氷が彼らを固めてしまったから。
「よう。男好きの次は、ケモナーとか、きめえ性癖のオードブルでもやってんのかァ?」
大男の目の前には、龍の首が落ちている。そしてそのそばには、レオが居た。
「三匹のワイバーンを、いともたやすくッッッッッ!!! 素晴らしいッッッッッ!!!!」
耳が割れそうになるほど巨大な音量で拍手をした。その瞳は輝いており、まったくの焦りも恐怖も感じられない。
「だが、しかしッッッッッ!!!!!! もう理解したよッッッッッ!!!キミの美しいその能力ッッッッッ!!!!!」
レオは何も言わずに、大男の前に立った。その栗色の髪を陽の光にあてながら、大男を見る。
「
大男は、手を翳す。その瞬間彼の背後から、巨大な時計が出現した。
「そのスキルッッッッ、
彼の声が届くころ。突如として時が止まる。
神威も、陽の光も、兵士たちを凍らせた氷が解けることすらも。
レオも、すべてが止まっている。
「私のッッッッッ!!!スキルッッッッッ!!!
大男は持っていたナイフの先端を、レオに向け、にっかり笑った。
「神威はねッッッッッ!!! キミには扱うことなんてできないんだよッッッッッ!!!」
大男はレオのすぐ目の前に立ち、首元にナイフをあてる。
「キミはッッッッッ!!! 世界の根幹に触れすぎたねッッッッッ!!!さようならッッッッッ!!!」
「別れの挨拶は、お前に送るべきじゃねえかな」
「ッッッッッ!?!?!?!?!?!?!?!?」
大男の前に佇むレオはにやりと不敵に笑っている。
それだけではない。大男は、自分の体が全く動かないことにも気づいている。
「慢心はよくねえよなァ、どう考えてもよォォ!」
レオは大男の体を蹴り飛ばす。が、時が止まったままの大男には、その衝撃は伝わらず、云わばのちに来る衝撃が加算されているのだ。
「なんだァ、その顔。まさに、『どうして』って感じの面だなァ!?!?ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
舌を出して笑うレオの手元には、大男の持っているナイフと全く同じ形のナイフがある。
「俺は確かに、スキル
くるくるとナイフを回す。大男は、なぜか意識だけを鮮明にできている。
「スキルだけじゃねえ。お前らの、銃やナイフ、体に着いた機関砲もォ! もちろん、トクベツな人間にしか開花しねェ、
にやけの止まらない、悪魔のような顔のレオに、意識だけは動く大男は心の中で恐怖する。
それは、今まで自分が。この時を止める能力だけは特別であり、生まれてこの方誰にも負けたこともなく、常に最強であり。
ついにはその力は世界を変えうる任務を任されるまでになったと、いうのに。
その全てを、たった一人の高校生に、粉々に砕かれて、力も何もかも奪われたことであった。
泣きたくても、涙すら流せない。絶望の中。
レオは、ナイフを、大男の首元に置き。
「スキルの名前はなァ、『
一気に横に動かした。
その瞬間に、真っ赤な血は吹き出し、首と胴体は離れ、そして体だけが奥に吹き飛ばされた。
レオは大男の間抜け面のまま固まった首をつかんで、こちらを先ほどから見ていたカメラに向かって放り投げた。
「見てんじゃねえぞ、クソ共」
ちょうど大男の頭とカメラが重なった瞬間に、コピーしたハンドガンで撃ちこんだ。
「神威」
レオの声が、静まり返った工場内に響く。
神威は瞬き一つせず、レオの目を見ていた。
「神威?」
「どうして、ここまで……」
神威は震える声で聞いた。
「あー、俺昔から匂いには敏感で……お前の獣臭さを追って」
「――そういうことではない!」
荒げた神威の声は、もっと震えている。
「どうして、我のことを助けるために、ここまで……!」
小さく震える神威に、レオは舌打ちする。
「……てめえ、いい加減にしとけよ」
レオはおもむろに、液体化し始めているナイフを神威の前で構える。
「俺が、てめえを助けた。だァ?勘違いも甚だしい、ただの妄想だろォが」
レオは歯ぎしりをたててナイフの刃を檻の柵に強く押し当てた。
「俺が……俺はなァ!?」
鉄同士が重なって音を鳴らす。何かが音を立てながら倒れて行く。その時、神威の視界を真っ暗なものが包んだ。
「俺は家族の、
その暗闇は暖かくて、さっきまでの冷たさも忘れてしまうほど温かくて。
「ああ……分かった。それでも………………ありがとう、レオ」
誰かに抱きしめられるのが、これほど嬉しいものなのだと。神威の記憶に刻み付けられるのは、言うまでもなかった。
目から涙が止まらなくても、レオは力強く抱きしめ続ける。
「ただいま…………」
「あァ、おかえり。神威」
レオは少しだけ嬉しそうに笑みを浮かべる。
お前の「武器」は、俺の「武器」 ~最強スキルも何もかも模倣して、家族のために全部ぶっ壊す~ 千春 @sanbashi0629
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