第4話 90年越しの証明
「神様、今日ホームラン打てました」
「……」
「これも全部神様のおかげです!」
「……」
「神様?」
夜の公園。
この時間、いつもいるはずの猫神様の返事がない。
「あっ、神様! ――僕の声は聞こえてますか?」
「にゃー」
遊歩道から少し離れた広場にポツンとある照明。
その隣にある木の上が神様の特等席なのに見当たらない。そう思っていたら、少し離れたところで箱座りしてこちらを見ている白黒のハチワレ猫がいた。
少し前から様子がおかしかったけど、もしかして……。
もう野球の神様の声が聞こえなくなった?
いや、そもそも本当に野球の神様なんていたのだろうか?
白黒のハチワレ猫を見ていても、今まで語りかけてきていたのが嘘みたいによそよそしい。
「ははっ、ザマーみろ!」
瑠十君。
どうしてこんなところに?
「野球のアドバイスをもらえなくなったら、お前の成長もここまでだな?」
「そんな……なんでそんなことを言うの?」
「ずっと、お前のことが気に入らなかったんだよ、このウドの大木が⁉」
そんな風に思ってたんだ……。
口汚い言葉を並べ、少年の心を踏みにじろうと躍起になっている美少年。だが、彼がどんなに悪意ある意思の元、敵意を向けてきても、巨漢の少年にとっては、
「転校する前にお前の行く末がわかって良かったぜ……あ痛っ! ――ちょっ、なんたこのカラス?」
黒い鳥。
それも夜目が効くのできっとカラスに違いない。
でも、なぜ、カラスが天羽瑠十の頭を何度も襲っているのか、理由がわからなかった。
「くそっ、覚えてろ!」
捨て台詞を吐いて、天羽瑠十が公園から走って逃げだした。カラスも後を追っていったが、しばらく経つと、カラスだけ戻ってきた。
「今日のホームランは素晴らしカーった」
もしかして、野球の神様?
「左様、儂ガー……野球のカーみ様じゃ」
また、変な発音してる。
でも、良かった。
僕のこと見放したのかと思ったから……。
今度はカラスになって、試合を見に来てくれたんだ。
「校舎の屋上に止まっておったカーら、危うく少年のホームランボールに撃ち落とされそうになったわい」
冗談を軽く口にして老人は真面目な口調で少年に確認した。
「ホームランの手応えはどうじゃった?」
「はい、なんていうか、全然手応えがなくて」
「ふむ。それこそが
老人が90年バットを振り続けて辿り着いた答え。
弾道がまるで飛行機が離陸直後のような軌跡を描く神懸かった打法。
老人は90年かかったが、才能の塊である少年は1年で物にした。
「儂の打法を証明してくれて、ありガーとう……じゃガ」
一度も打席に立つことなく、自分が編み出した打法を証明してくれて感謝してもしきれない。しかし……。
まだまだ精度が低い。
中学、高校、大学またはプロの世界、とハードルが上がっていくにつれて、この打法を周囲に証明していくのは難しくなっていく。
それでも自信がある。少年が完全にライジングドライブを物にしたら、世界に通用するどころか、野球史を塗り替える偉業を達成してくれると……。
「じゃカーら、少年が儂の打法を世カーいに連れて行ってほしい」
少年はモジモジしながら、一度顔を伏せた。
だが、次に顔を上げた時には、胸の光がとてもまぶしく輝いた。
「はい、頑張ります!」
―― 終わり ――
90年越しの神アーチ あ、まん。 @47aman
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