第27話

 まさかの展開すぎて、俺の脳みそが完全にフリーズした。


 毒々しい紫色の液体を垂らしながら、蛇のような魔物がニョロニョロと城壁の隙間から侵入してくる。

 その後ろから、ドロドロとした緑色のスライムが何体も続いていた。


「うわあああああ!」


 スラムの住民たちが一斉に悲鳴を上げて逃げ出す。

 でも、逃げ足の遅い人や、足腰の弱いお年寄りが取り残されていく。


 そして——


「お兄ちゃん! お兄ちゃーん!」


 聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 振り返ると、以前助けた迷子の女の子が、泣きながらこちらに向かって走ってくる。

 その後ろから、毒液を垂らした蛇型の魔物が追いかけてきていた。


「やべえ!」


 俺は支給された剣と盾を握りしめて、女の子に向かって駆け出した。

 心臓がバクバクと音を立てる。

 腐毒の森での屈辱的な敗走が頭をよぎる。


 でも、今は違う。

 あの時とは違うんだ。


 狐獣人との訓練で少しは戦えるようになったし、なによりも——


「女の子を見捨てるわけにはいかない!」


 俺は女の子の前に立ちはだかった。

 蛇型の魔物が毒液を吐き出してくる。

 紫色の液体が弧を描いて飛んできた。


「くそっ!」


 盾を構えて毒液を受け止める。

 ジュウジュウと音を立てて、盾の表面が溶け始めた。

 でも、完全に防げたわけじゃない。

 飛び散った毒液の一部が俺の腕にかかった。


「うぐっ!」


 焼けるような痛みが走る。

 でも、すぐに「超健康」のスキルが発動して、毒の効果が消えていく。

 傷も見る見るうちに治っていった。


「えっ?」


 女の子が目を丸くして俺を見上げる。


「大丈夫だよ。 俺がお前を守る」


 その瞬間、女の子の顔が真っ赤になった。

 周りにいたスラムの住民たちも、一斉に「おおおー!」と歓声を上げる。


 え? なんで?


 俺は困惑しながらも、再び攻撃を仕掛けてくる蛇型の魔物に向き合った。

 狐獣人との訓練を思い出す。

 相手の動きをよく見て、タイミングを計る。


 蛇型の魔物が再び毒液を吐き出してきた。

 今度は横に跳んで回避する。

 そして、すかさず剣を振り下ろした。


「せいっ!」


 ザシュッ!


 剣が魔物の頭部に命中する。

 でも、思ったより手応えが軽い。

 魔物は怯んだものの、まだ生きている。


「なるほど、一撃では無理か」


 続けて横薙ぎに剣を振る。

 魔物の胴体に傷をつけるが、やはり一撃では倒せない。


 その時、背後から別の魔物の気配を感じた。

 振り返ると、緑色のスライムが女の子に向かって跳び掛かろうとしている。


「やべえ!」


 俺は慌てて女の子を抱き上げて、横に転がった。

 スライムが俺たちがいた場所に着地する。

 地面がジュウジュウと音を立てて溶け始めた。


「うわあ、こいつも毒持ちかよ!」


 抱きかかえた女の子が俺にしがみついてくる。

 小さな体が震えているのがわかった。


「大丈夫、大丈夫だから」


 俺は女の子を安心させるように声をかけながら、周りの状況を確認する。

 蛇型の魔物とスライムに囲まれている。

 しかも、どちらも毒系の攻撃を持っている。


 でも、俺には「超健康」がある。

 毒なんて怖くない。


「よし、やってやる!」


 俺は女の子を近くの瓦礫の陰に隠してから、再び剣を構えた。

 まずは動きの早い蛇型から片付けよう。


 蛇型の魔物が再び毒液を吐き出してくる。

 今度は盾で受け止めずに、横に跳んで回避する。

 そして、魔物の側面に回り込んで剣を振り下ろした。


「でりゃあ!」


 ザシュッ!


 今度は深く切り込めた。

 魔物が苦しそうに身をよじる。

 でも、まだ倒れない。


「しつこいなあ!」


 続けて突きを繰り出す。

 剣の先が魔物の頭部を貫いた。

 ようやく蛇型の魔物が動きを止める。


「よし、一体目!」


 でも、喜んでいる暇はない。

 スライムが跳び掛かってくる。


 俺は盾を構えてスライムの体当たりを受け止めた。

 ベチャッという嫌な音がして、盾にスライムの体液がくっつく。

 盾がジュウジュウと音を立てて溶け始めた。


「うわっ、盾が!」


 慌てて盾を投げ捨てる。

 スライムは地面に落ちたが、すぐに形を整えて再び向かってくる。


 盾を失った俺は、剣一本で戦うしかない。

 でも、スライムには剣での攻撃が効きにくい。


「どうすればいいんだ?」


 その時、狐獣人との訓練を思い出した。

 彼女が言っていた言葉が頭をよぎる。


「魔物にはそれぞれ弱点がある。 スライムは魔法攻撃の方が効果的よ」


 そうだ、魔法だ!


 俺は剣を構えながら、初級魔法を発動させる。

 「火」の魔法で小さな火球を作り出した。


「食らえ!」


 火球がスライムに命中する。

 ボワッと音を立てて、スライムの体が燃え上がった。


「おお、効いてる!」


 スライムが苦しそうに身をよじる。

 でも、まだ完全には倒れない。


 俺は続けて火球を撃ち込む。

 二発目、三発目と命中させると、ようやくスライムが溶けて消えた。


「やった!」


 俺は勝利のポーズを取る。

 でも、その瞬間、背後から新たな魔物の気配を感じた。


「え? まだいるの?」


 振り返ると、また別の蛇型魔物が壁の隙間から侵入してくる。

 しかも、今度は二体同時だ。


「うわあ、マジかよ!」


 俺は慌てて女の子の元に駆け寄った。

 彼女は瓦礫の陰で震えている。


「大丈夫、俺がついてるから」


 俺は女の子を抱きかかえて、安全な場所を探す。

 でも、魔物たちがどんどん近づいてくる。


 その時、遠くから馬の蹄の音が聞こえてきた。

 騎士たちがようやく到着したようだ。


「おおー! 騎士様の到着だ!」


 スラムの住民たちが歓声を上げる。

 でも、騎士たちがここまで来るのはまだ時間がかかりそうだ。


「それまで持ちこたえないと」


 俺は女の子を背負って、魔物たちと対峙する。

 二体の蛇型魔物が同時に毒液を吐き出してきた。


「くそっ!」


 俺は横に跳んで回避する。

 でも、女の子を背負っているせいで動きが鈍い。

 毒液の一部が俺の足にかかった。


「うぐっ!」


 痛みが走るが、すぐに「超健康」で治癒する。

 でも、魔物たちはお構いなしに攻撃を続けてくる。


「参ったな、このままじゃ」


 その時、女の子が俺の耳元で小さくつぶやいた。


「お兄ちゃん、頑張って。 私、お兄ちゃんを信じてる」


 その言葉に、俺の心に火が灯った。

 そうだ、この子を守らなきゃいけない。

 絶対に諦めるわけにはいかない。


「よし、やってやる!」


 俺は女の子を近くの建物の陰に隠してから、再び魔物たちと向き合った。

 今度は攻撃的に行く。


 まず、火の魔法で牽制する。

 火球を連続で撃ち込んで、魔物たちの動きを制限する。


「そりゃあ!」


 魔物たちが炎に怯む隙に、俺は一体目に接近した。

 剣を大きく振りかぶって、全力で振り下ろす。


「でりゃあああ!」


 ザシュッ!


 今度は一撃で頭部を両断できた。

 一体目が倒れる。


 残りは一体。

 俺は勢いに乗って二体目にも突進する。


「うおりゃあ!」


 でも、魔物も必死だ。

 毒液を連続で吐き出してくる。

 俺は剣で毒液を弾きながら距離を詰める。


 そして、最後の一撃を放った。


「終わりだ!」


 剣が魔物の急所を貫く。

 二体目もようやく倒れた。


「はあ、はあ、はあ」


 俺は息を切らしながら、周りを見回す。

 もう魔物の気配はない。

 女の子も無事だ。


「やった、俺やったよ!」


 俺は拳を突き上げる。

 周りのスラムの住民たちが拍手をしてくれた。


「すげえじゃないか!」


「毒を受けても平気だなんて!」


「あの子を守りきったぞ!」


 そして、ついに騎士たちが到着した。

 馬に乗った騎士が俺の前で馬を止める。


「民間人は下がれ! 我々が処理する!」


 騎士は威厳のある声で言った。

 でも、もう魔物は全部倒してしまった。


「あの、もう片付けましたけど」


 俺がそう言うと、騎士は目を丸くした。


「君が? 一人で?」


「はい、まあ」


 騎士は倒れた魔物たちを見回して、感心したような表情を浮かべる。


「なるほど、君が噂の転移者か。 なかなかやるじゃないか」


 その時、女の子が俺の元に駆け寄ってきた。


「お兄ちゃん、ありがとう! 本当にありがとう!」


 彼女は俺にぎゅっと抱きついてくる。

 周りの住民たちが「おおー!」と歓声を上げた。


「いやあ、これは美談だな」


「英雄の誕生だ!」


「あの子、幸せになれそうだな」


 なんか、みんなが勝手に盛り上がってる。

 俺は何がなんだかよくわからないまま、女の子を抱きしめ返した。


「大丈夫だよ、もう安全だから」


 こうして、俺の初めての本格的な戦闘が終わった。

 腐毒の森での屈辱を晴らすことができた。

 でも、なんか周りの反応が異様に大きい気がするんだよな。


 まあ、とりあえず女の子を守れてよかった。

 これで胸を張って冒険者と名乗れる。


 そんな風に思いながら、俺は夕日に照らされた戦場を見渡していた。

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