第26話
ドガーン!
さっきよりもはるかに大きな爆発音が響いた。
今度は地面の揺れも激しい。
「おいおい、これはヤバいんじゃないか?」
ガルクさんの顔が青ざめている。
さっきまでの余裕はどこへやら、完全に動揺していた。
「ガルクさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない! こんな音、聞いたことがないぞ!」
スラム街の住人たちも、慌てて建物の中に避難し始めた。
子供たちの泣き声が聞こえてくる。
その時、城壁の向こうから煙が立ち上った。
黒い煙が空高く舞い上がっている。
「まさか、城壁が……」
ガルクさんの呟きが聞こえた瞬間、目の前の城壁に亀裂が走った。
「うわあああああ!」
住人たちの悲鳴が響く。
亀裂は見る見るうちに広がって、ついに城壁の一部が崩れ落ちた。
石の塊が地面に落ちて、大きな音を立てる。
「城壁が壊れた!」
「逃げろ!」
パニックになった住人たちが、あちこちに散らばって逃げ始めた。
でも、俺はその場に立ち尽くしていた。
なぜなら、崩れた城壁の向こうから、見たことのない魔物がぞろぞろと現れてきたからだ。
「な、何だあれは……」
それは、まるでゼリーのような半透明の体をした巨大なスライムだった。
でも、普通のスライムとは全然違う。
体全体が毒々しい緑色に光っていて、触手のようなものをうねうねと動かしている。
そして、その周りには小さな魔物たちがうじゃうじゃといる。
毒蛇のような細長い魔物、トカゲのような魔物、得体の知れない昆虫のような魔物。
「腐毒の森の魔物だ!」
俺は思わず叫んだ。
あの忌まわしい森で見たことのある魔物たちだ。
でも、なぜこんなところに?
腐毒の森は、ここからかなり離れた場所にあるはずだ。
「キイ! 逃げろ!」
ガルクさんが俺の腕を引っ張った。
「でも……」
「でもも何もない! あんな魔物と戦えるわけがないだろう!」
確かに、あの巨大スライムは恐ろしい。
でも、俺は足が動かなかった。
なぜなら、崩れた城壁の陰に、小さな人影が見えたからだ。
「あ……」
それは、以前に俺が助けた迷子の女の子だった。
あの時の子供だ。
女の子は瓦礫の陰に隠れて、震えながら魔物たちを見つめている。
完全に逃げ遅れていた。
「あの子!」
俺は剣を握り直した。
「キイ、何をする気だ!」
「あの子を助けないと!」
「無茶だ! 君一人で何ができる!」
ガルクさんは必死に止めようとしたが、俺の決心は固かった。
「でも、見捨てることはできません!」
俺は剣を構えて、魔物たちの方へ走り出した。
「キイ!」
ガルクさんの叫び声が後ろから聞こえたが、もう振り返らなかった。
巨大スライムは、俺の存在に気づいて触手を向けてきた。
触手の先端からは、毒々しい液体が滴り落ちている。
「来るな!」
俺は剣を振り回したが、触手には届かない。
そのまま触手が俺の体に巻きついてきた。
「うわあああ!」
触手に巻きつかれた瞬間、激しい痛みが走った。
毒だ。
触手から毒が分泌されている。
でも、すぐに痛みが消えた。
超健康スキルのおかげで、毒が瞬時に中和されたのだ。
「よし!」
俺は安心して、触手を振りほどこうとした。
でも、触手の力は思った以上に強い。
全然振りほどけない。
「くそ!」
俺は剣で触手を切ろうとしたが、剣が触手に弾かれてしまった。
触手の表面は、見た目よりもはるかに硬い。
その時、小さな魔物たちが俺の周りに集まってきた。
毒蛇のような魔物が、俺の足に牙を立てようとしている。
「させるか!」
俺は足で蹴り飛ばしたが、魔物は素早く避けた。
そして、今度は別の方向から攻撃してきた。
「ちょこまかと!」
俺は必死に剣を振り回したが、小さな魔物たちには全然当たらない。
逆に、俺の体には魔物たちの攻撃が当たりまくっている。
毒、麻痺、腐食。
様々な状態異常が俺の体を襲ったが、すべて超健康スキルで瞬時に回復した。
「よし、これなら大丈夫だ!」
俺は自信を取り戻した。
確かに攻撃は当たっているが、ダメージは全然受けていない。
むしろ、魔物たちの方が俺の予想外の回復力に戸惑っているようだった。
「今だ!」
俺は魔物たちの隙を突いて、女の子のいる瓦礫の陰へ走った。
「大丈夫?」
女の子は涙を流しながら俺を見上げた。
「お、おにいちゃん……」
「心配しないで。 お兄ちゃんが守ってあげるから」
俺は女の子を抱き上げた。
小さくて軽い体だった。
「怖かったね。 でも、もう大丈夫だよ」
女の子は俺の胸に顔を埋めて泣いた。
「うん……」
俺は女の子を抱えたまま、魔物たちと対峙した。
巨大スライムは、まだ触手を俺に向けている。
「さあ、来い!」
俺は剣を構えた。
でも、女の子を抱えた状態では、さっきのように自由に動き回ることはできない。
攻撃を避けるのも困難だった。
「くそ、どうすれば……」
その時、巨大スライムの触手が俺たちに向かって振り下ろされた。
俺は女の子を庇うように身を屈めた。
「うわあああ!」
触手が俺の背中に当たった。
激しい痛みが走ったが、すぐに回復した。
「お兄ちゃん!」
女の子が心配そうに俺を見上げた。
「大丈夫だよ。 お兄ちゃんは強いから」
俺は笑顔で答えた。
でも、内心では焦っていた。
確かに俺は毒や状態異常には強い。
でも、物理的なダメージまで完全に無効化できるわけではない。
このままでは、いずれは力尽きてしまう。
「どうすれば……」
その時、女の子が俺の耳に口を寄せて囁いた。
「お兄ちゃん、私を守ってくれる?」
俺は女の子を見つめた。
澄んだ瞳が、俺を真っ直ぐに見つめている。
「もちろんだよ。 お兄ちゃんが君を守る」
その瞬間、俺の中で何かが変わった。
今まで感じたことのない、強い意志が湧き上がってきた。
「俺が、お前を守る!」
俺は大声で叫んだ。
その時、周りにいた魔物たちが一瞬動きを止めた。
巨大スライムでさえ、触手の動きを止めている。
「え?」
俺は驚いた。
なぜ魔物たちが動きを止めたのか分からない。
でも、チャンスだった。
「今だ!」
俺は女の子を抱えたまま、魔物たちの隙間を縫って走った。
魔物たちは呆然としたまま、俺を見送っている。
「ガルクさん!」
俺は安全な場所まで走って、ガルクさんに女の子を渡した。
「キイ、無茶をしやがって……」
ガルクさんは安堵の表情を浮かべた。
「でも、助かった。 ありがとう」
「いえいえ、当然のことです」
俺は剣を構え直した。
魔物たちは、まだ動きを止めたままだった。
一体何が起こったのか、俺にも分からない。
「お兄ちゃん……」
女の子が俺を呼んだ。
「何?」
「ありがとう」
女の子は涙を拭いながら微笑んだ。
「どういたしまして」
俺も微笑み返した。
その時、遠くから騎士たちの声が聞こえてきた。
「援軍が来たぞ!」
「城壁の修復を急げ!」
どうやら、騎士団の援軍が到着したようだ。
魔物たちも、騎士たちの気配を感じて動き始めた。
でも、なぜかさっきほどの攻撃性はない。
「なんだかおかしいな……」
俺は首を傾げた。
でも、とりあえず女の子を守ることはできた。
それだけで十分だった。
「俺が、お前を守る」
俺は小さく呟いた。
この言葉には、なんだか特別な響きがある気がした。
でも、それが何なのかは、まだ分からなかった。
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