第20話
俺の名前は安倉キイタ。
通称キイ。
現在、異世界で借金返済のために三つの仕事を掛け持ちしている十七歳だ。
早朝五時。
街がまだ薄暗い中、俺は既に走り回っていた。
「おーい、キイ! 今日もよろしく頼むぜ!」
配達業の親方が手を振る。
俺は元気よく返事をしながら、荷物を背負った。
「はい! 今日も張り切っていきますよ!」
配達の仕事は体力勝負だ。
でも俺には「超健康」のスキルがある。
疲れ知らずで走り回れるのは、今の俺にとって最高の武器だった。
街中を駆け抜けながら、俺は考える。
狐獣人のリィナを助けるために使った超級回復薬。
あれで俺の全財産が吹っ飛んだ上に、借金まで背負う羽目になった。
「でも、後悔はしてないぜ」
独り言を呟きながら、俺は次の配達先へ向かう。
午前中の配達が終わると、俺は急いで現場に向かった。
土木作業の現場だ。
「よう、キイ! 今日も来たな!」
親方が相変わらず厳しい顔で俺を迎える。
でも最近は、その厳しさの奥に優しさが混じっているのがわかるようになった。
「すみません、少し遅れました!」
「まあ、配達の仕事もあるんだからしょうがねえ。それより、今日は城壁の補強作業だ。頼むぜ」
俺は作業服に着替えて、現場に向かった。
城壁の補強作業は重労働だ。
重いレンガを運んだり、セメントを練ったりと、普通の人間なら一日でヘトヘトになる。
でも俺は違う。
「超健康」と「身体強化」のスキルのおかげで、どんどん体力が回復していく。
「キイ、水頼む!」
「はい!」
俺は「初級魔法」で水を生成する。
この能力は現場で重宝されていた。
水道がない場所でも、俺がいれば水に困らない。
「火も頼む!」
「了解です!」
今度は火を生成する。
セメントを固めるのに必要な熱を提供できるのも、俺の強みだった。
作業を続けていると、同僚の一人が話しかけてきた。
「キイ、お前最近すげえな。三つも仕事掛け持ちしてるって本当か?」
「ええ、まあ。ちょっと事情がありまして」
「借金でもあるのか?」
「そんなところです」
俺は苦笑いを浮かべた。
詳しい事情は話せないが、みんな察してくれているようだった。
「大変だな。でも、お前なら大丈夫だろう。体力お化けだもんな」
「ありがとうございます」
午後の作業が終わると、俺は急いで夜の店に向かった。
『酔いどれ竜亭』という店だ。
ここで用心棒兼雑用係として働いている。
「キイ、お疲れ様!」
店主のおばちゃんが笑顔で迎えてくれる。
この店の人たちは、俺の事情を知っていて、とても良くしてくれた。
「今日もよろしくお願いします」
「ああ、今日は新人の子が来るから、教育係もお願いするよ」
「わかりました!」
俺は店の奥で着替えを済ませ、仕事を始めた。
夜の店での仕事は多岐にわたる。
酔っぱらいを押さえつけたり、厨房で火を起こしたり、新人に仕事を教えたり。
でも一番大変なのは、お客さんとの会話だった。
「おい、兄ちゃん! 最近街で噂になってる話、知ってるか?」
酔っぱらいの冒険者が俺に絡んできた。
「どんな話ですか?」
「魔物の様子がおかしいって話さ。森の奥で変な動きがあるらしいぜ」
俺の心臓が一瞬止まった。
リィナが怪我をしたのも、そういう異常があったからだった。
「詳しく教えてください」
「騎士団が調査に乗り出すって話だ。大規模な討伐隊を組織するらしいぜ」
「そうなんですか」
俺は平静を装いながら、心の中で慌てていた。
リィナの報告が、こんなに大事になっているなんて。
仕事を続けながら、俺は他のお客さんからも情報を集めた。
どうやら、魔物の異常行動は広範囲に及んでいるらしい。
騎士団が本格的に動き出すのも時間の問題だった。
閉店時間が近づいた頃、俺は店主のおばちゃんに声をかけた。
「おばちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんですが」
「なんだい?」
「違法奴隷の話って、最近よく聞くんですけど」
おばちゃんの表情が少し曇った。
「ああ、それね。最近、騎士団が取り締まりを強化してるのよ。でも、根深い問題だから、なかなか解決しないわね」
「どんな問題なんですか?」
「獣人に対する偏見が関係してるのよ。特に狐獣人は、裏切り者が多いって噂があるから、正規の奴隷商でも扱いたがらない。だから、違法な業者が跋扈するってわけ」
俺の胸が痛んだ。
リィナのことを思い出したからだ。
「でも、実際はどうなんですか? 狐獣人の性格って」
「あんたの知り合いに狐獣人がいるの?」
「ええ、まあ」
「だったら、自分で判断すればいいじゃない。噂なんて、当てにならないものよ」
おばちゃんの言葉に、俺は少し救われた気がした。
店を出て家に帰る途中、俺は小さな路地で立ち止まった。
泣き声が聞こえてきたからだ。
「誰かいるのか?」
俺は声をかけながら、路地の奥に向かった。
そこには、小さな女の子が一人で泣いていた。
「どうしたんだ?」
女の子は俺を見上げて、涙を流しながら答えた。
「お、おうちが、わからないの」
迷子だった。
俺は女の子の手を取って、優しく話しかけた。
「大丈夫だよ。一緒に探そう」
女の子は小さく頷いた。
「お名前は?」
「マリアって言うの」
「マリアちゃんか。俺はキイだ。よろしくな」
俺は女の子を背負って、街中を歩き回った。
「超健康」のスキルのおかげで、全然疲れない。
むしろ、この子を助けることができて嬉しかった。
しばらく歩いていると、遠くから声が聞こえてきた。
「マリア! マリア!」
女性の声だった。
マリアちゃんの顔がぱっと明るくなった。
「ママ!」
俺は女の子を下ろして、声の方向に向かった。
そこには、心配そうな顔をした女性がいた。
「マリア! どこに行ってたの!」
母親は娘を抱きしめた。
「この人が、助けてくれたの」
マリアちゃんが俺を指差す。
母親は深々と頭を下げた。
「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」
「いえいえ、大したことじゃないですよ」
俺は照れながら答えた。
「でも、本当に助かりました。何かお礼を」
「いりませんよ。子供が無事だったから、それで十分です」
母親はもう一度お礼を言って、マリアちゃんと一緒に帰っていった。
俺は一人になって、夜空を見上げた。
星が綺麗だった。
「今日も一日、よく働いたな」
独り言を呟きながら、俺は家に向かった。
アパートに帰ると、リィナが起きて待っていた。
「お帰りなさい、キイ」
「ただいま。まだ起きてたのか?」
「はい。心配で」
リィナは俺の疲れた表情を見て、心配そうに眉をひそめた。
「大丈夫ですか? 働きすぎじゃないですか?」
「大丈夫だよ。『超健康』のスキルがあるからな」
俺は軽く笑って見せた。
でも、リィナは納得していないようだった。
「でも、体は丈夫でも、心が疲れることもあります」
「心配すんなって。俺はタフだから」
俺はリィナの頭を軽く撫でた。
「それより、体調はどうだ? まだ無理は禁物だからな」
「はい。だいぶ良くなりました。でも、まだ完全じゃありません」
「そうか。焦らなくていいからな」
俺は椅子に座って、今日あった出来事を思い返した。
配達の仕事、土木作業、夜の店での仕事。
そして、迷子の女の子を助けたこと。
確かに忙しい日々だった。
でも、充実していた。
人の役に立てているという実感があった。
「キイ」
リィナが俺の名前を呼んだ。
「なんだ?」
「ありがとうございます」
「何に対してだ?」
「私を助けてくれて。そして、今も私のために頑張ってくれて」
リィナの目には涙が浮かんでいた。
「別に、大したことじゃないよ」
「そんなことありません。キイは私の命の恩人です」
俺は少し照れくさくなった。
「そんなに深刻に考えなくていいって。俺は、やりたいからやってるだけだから」
「でも」
「でも、何もない。お前は俺の大切な仲間だ。仲間のために頑張るのは当然だろ?」
リィナは小さく頷いた。
「はい。私も、キイのために頑張ります」
「無理すんなよ。体調が完全に回復するまでは、休んでてくれ」
「でも、このままじゃ申し訳なくて」
「申し訳ないなんて思わなくていい。お前が元気になってくれるのが、俺にとって一番の報酬だから」
俺は本心から言った。
リィナが笑顔でいてくれることが、俺にとっては何よりも大切だった。
「キイ」
「なんだ?」
「私、キイと出会えて本当に良かったです」
「俺もだよ」
俺は笑顔で答えた。
確かに借金はある。
確かに毎日忙しい。
でも、俺は幸せだった。
この世界に来て、最初は戸惑った。
何もできない自分が情けなかった。
でも今は違う。
俺には大切な人がいる。
俺を信頼してくれる人たちがいる。
俺を必要としてくれる人たちがいる。
それがあれば、どんな困難も乗り越えられる。
「よし、明日も頑張るぞ!」
俺は拳を握りしめた。
「はい! 私も頑張ります!」
リィナも笑顔で答えた。
そんな俺たちの前に、新たな困難が待ち受けているとは、この時はまだ知らなかった。
でも、それでも俺は前に進む。
大切な人たちと一緒に。
だって俺は、この世界で超健康に生きていくって決めたんだから。
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