第3話
気がつくと、俺は石畳の上に仰向けで寝ていた。
空を見上げると、青い空と白い雲が見える。
普通の空だ。
でも、なんか違和感がある。
むくりと身体を起こすと、目の前に広がっていたのは見たことのない光景だった。
石造りの建物が立ち並び、人々が行き交う街並み。
まるで中世ヨーロッパの映画のセットみたいな雰囲気だ。
でも、これは現実なんだよな。
俺は慌てて立ち上がった。
体に異常はない。
心臓も普通に動いている。
むしろ、なんだか体調がすごく良い気がする。
それよりも問題は——
「えーっと、ここどこ?」
当然のことながら、俺の疑問に答えてくれる人はいない。
というか、周りの人たちがこっちを見て何やらヒソヒソ話をしている。
近くを通りかかった商人らしき男性に声をかけてみることにした。
「あの、すみません」
男性は俺を見ると、眉をひそめて何かを呟いた。
でも、何を言っているのか全然わからない。
そりゃそうだ。
異世界なんだから、言葉が通じるわけがない。
こんな基本的なことを今更気づくなんて、俺はなんてバカなんだろう。
男性は俺に向かって何やら早口で喋っているが、さっぱり理解できない。
俺は困り果てて、とりあえず手を振って笑顔を作ってみた。
「あはは、言葉がわからないんです」
当然、これも通じない。
男性は首を振って、足早に去っていった。
次に通りかかった女性にも声をかけてみたが、やはり同じような反応だった。
みんな俺を見ると、明らかに警戒している。
そりゃそうだよな。
突然現れた見知らぬ人間が、わけのわからない言葉で話しかけてきたら、そりゃ怪しいと思うに決まってる。
俺は街の中を歩き回りながら、状況を整理しようとした。
まず、俺は確実に異世界に来ている。
システム32型の言った通りだ。
言葉が通じないのは予想できたことだし、今さら驚くことでもない。
でも、どうすればいいんだろう?
食べ物はどうやって手に入れる?
お金はどうする?
宿泊場所は?
考えれば考えるほど、不安が募ってくる。
俺は街の中央にある大きな建物の前で立ち止まった。
立派な石造りの建物で、周りには武装した兵士のような人たちが警備している。
これはきっと王城だろう。
システム32型が言っていた通り、この街は王城を中心とした城壁都市のようだ。
確かに、遠くを見ると大きな城壁が見える。
俺がキョロキョロしていると、警備の兵士の一人がこちらに気づいた。
兵士は仲間に何かを言うと、こちらに向かって歩いてくる。
「やばい、まずいことになった」
俺は慌てて逃げようとしたが、すでに遅かった。
兵士たちに囲まれてしまった。
兵士の一人が俺に向かって何かを言っている。
厳しい表情で、明らかに質問をしているようだが、もちろん何を言っているのかわからない。
俺は困り果てて、両手を上げて降参のポーズを取った。
「えーっと、降参です? 危険人物じゃありません」
当然、これも通じない。
兵士たちは俺を見て、また何やら話し合いを始めた。
そのうちの一人が、俺の腕を掴んで引っ張った。
どうやら、どこかに連れていかれるらしい。
俺は抵抗せずに、大人しく兵士たちについていくことにした。
変に抵抗して、事態を悪化させるのは得策じゃない。
兵士たちは俺を王城の中に連れていった。
石造りの廊下を歩いていると、なんだか映画の中にいるような気分になる。
でも、これは現実なんだよな。
しばらく歩いていると、大きな扉の前で止まった。
兵士の一人が扉をノックすると、中から返事が聞こえてきた。
扉が開かれ、俺は中に押し込まれた。
部屋の中は、立派な調度品で飾られた応接室のような場所だった。
奥には大きな机があり、その向こうに初老の男性が座っている。
男性は俺を見ると、興味深そうに眉を上げた。
そして、何やら兵士と話をしている。
俺はその間、部屋の中を見回していた。
壁には剣や盾などの武器が飾られており、いかにも王城らしい雰囲気だ。
男性は俺に向かって何かを言った。
でも、やっぱり何を言っているのかわからない。
俺は困り果てて、首を振った。
「すみません、言葉がわからないんです」
男性は俺の反応を見て、何かを理解したようだった。
そして、部屋の隅にいた別の人物に何かを指示した。
その人物は俺に向かって、片言の日本語で話しかけてきた。
「あなた、転移者、ですね?」
俺は驚いて、その人物を見た。
中年の男性で、学者のような雰囲気を持っている。
「え、日本語が話せるんですか?」
「少し、だけ。私、翻訳者、です」
翻訳者の男性は、片言ながらも日本語を理解しているようだった。
これで、ようやく意思疎通ができそうだ。
翻訳者は俺と、奥にいる男性の間に座った。
「こちら、王城、担当者、です。あなたの、こと、聞きたい、と」
「あ、はい。俺は安倉キイタです。えーっと、17歳で、高校生です」
翻訳者は俺の言葉を、現地の言葉に翻訳して担当者に伝えた。
担当者は何やら質問をしているようだ。
「どこから、来ました?」
「日本です。えーっと、地球という星の」
この会話が、しばらく続いた。
俺の出身地、年齢、職業、そして異世界に来た経緯などを質問された。
システム32型のことを説明すると、担当者は納得したような表情を見せた。
どうやら、転移者というのは珍しいことではないらしい。
「スキル、何、取得しましたか?」
「えーっと、超健康、健康、健康、初級魔法、身体強化です」
翻訳者は俺の言葉を聞いて、少し困ったような表情を見せた。
そして、担当者に翻訳した。
担当者は俺のスキルを聞いて、明らかに落胆したような表情を見せた。
その後、翻訳者と何やら話し合いをしている。
「あの、何か問題がありますか?」
「いえ、問題、ありません。ただ、あなたの、スキル、あまり、有用では、ないかも」
有用ではない?
俺のスキルが?
まあ、確かに「健康」を3つも取ったのは無駄だったかもしれない。
でも、「超健康」は15ポイントもしたんだぞ。
「超健康って、15ポイントもしたんですけど、それでも有用じゃないんですか?」
「超健康、病気、治す、スキル、ですね。でも、この世界、病気、あまり、ありません。魔法、で、治せます」
なんだって?
俺が15ポイントも使って取得した「超健康」が、この世界ではあまり意味がない?
それはひどすぎる。
システム32型のやつ、そんな重要なことを教えてくれなかったじゃないか。
「初級魔法、身体強化、よく、知られた、スキル、です。多くの、人、持っています」
つまり、俺のスキルは全部、この世界では大したことがないということか。
担当者は俺の落胆した表情を見て、何やら慰めるような言葉をかけてくれた。
「心配、しないで。転移者、支援、あります。少し、お金、渡します」
翻訳者は俺に、小さな袋を渡した。
中を見ると、見たことのない硬貨が入っている。
「これ、この国、お金、です。しばらく、生活、できます」
「ありがとうございます」
俺は感謝の気持ちを込めて、頭を下げた。
「それと、言葉、勉強、必要、です。この、本、どうぞ」
翻訳者は俺に、薄い本を渡した。
表紙には見慣れない文字が書かれているが、中を見ると基本的な単語や文法が載っているようだ。
「基本的、言葉、載っています。頑張って、勉強、してください」
「はい、ありがとうございます」
担当者は俺に向かって、最後に何かを言った。
翻訳者が通訳してくれる。
「この国、平和、です。でも、外、危険、あります。気をつけて、生活、してください」
「はい、わかりました」
俺は担当者と翻訳者に感謝の気持ちを伝えて、部屋を出た。
兵士が俺を王城の外まで案内してくれた。
王城の外に出ると、俺は改めて街を見渡した。
さっきまでは言葉がわからなくて不安だったが、今は少し希望が見えてきた。
お金ももらったし、言葉の本ももらった。
これで、なんとか生活していけるかもしれない。
でも、俺のスキルが全然役に立たないということは、かなりのショックだった。
特に「超健康」は、俺の心臓病を治すために取得したスキルだ。
それが、この世界では意味がないなんて。
まあ、でも心臓病は治ったんだから、それだけでも良しとしよう。
これから、この世界でどうやって生活していけばいいのか、考えなければならない。
俺は街の中を歩きながら、周りの人たちを観察した。
みんな、それぞれの生活を送っている。
商人、職人、農民、様々な職業の人たちがいる。
俺も、何かの職業に就かなければならない。
でも、何ができるんだろう?
高校生の俺に、特別な技能なんてない。
勉強はそこそこできたけど、それが異世界で役に立つとは思えない。
俺は街の中を歩きながら、自分の将来について考えていた。
不安もあるけど、なんだか少しワクワクしてきた。
これから、どんな冒険が待っているんだろう?
まずは、言葉を覚えて、この世界に慣れることから始めなければならない。
俺は言葉の本を握りしめて、新しい生活への第一歩を踏み出した。
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