第2話
死んだ。
間違いない。
完全に死んだ。
目の前に広がっているのは、真っ白な空間だった。
どこまで行っても白い。
上も下も、左も右も、全てが白で統一されている。
まるで病院の天井みたいだ。
いや、病院の天井より白い。
こんなに白いものを見たのは初めてかもしれない。
とりあえず立ち上がってみた。
なぜか体に痛みはない。
手術前の麻酔が効いているような感覚だ。
「うわあああああああ!」
現実逃避していた心が一気に崩れた。
死んだのだ。
十七歳で死んだのだ。
大学生活はどうなる?
推薦で決まったも同然だったのに。
バイトをして、サークルに入って、恋人を作って、そんな輝かしいキャンパスライフを夢見ていたのに。
全部パーになった。
「クソ医者め! 九十パーセント成功するって言ったじゃないか!」
怒りが込み上げてきた。
あの医者の顔を思い出すだけで腹が立つ。
「残り十パーセントに入るなんて聞いてないぞ! 詐欺だ! 訴えてやる!」
でも、もう訴えることもできない。
死んでしまったのだから。
「畜生! 畜生! 畜生!」
地団駄を踏んだ。
でも、この白い空間では音が響かない。
足音すらしない。
不気味だ。
『システム起動中です』
突然、機械音のような声が響いた。
どこから聞こえてくるのかわからない。
空間全体から聞こえてくるような感じだ。
『異世界転移により魂を調整するシステム、通称異転調システム32型が起動しました』
「は?」
何を言っているのかさっぱりわからない。
異世界って何だ?
魂を調整って何だ?
『対象者:安倉キイタ。
死因:手術中の医療事故。
魂の状態:良好。
転移適性:問題なし』
「おい、ちょっと待てよ」
慌てて声を上げた。
「異世界転移って何だ? 俺はただの高校生だぞ?」
『説明します。
爆発的な人口増加に対応しきれなくなった神界は、輪廻転生システムを導入しました。
また、神のシステムでも不測の事態で死んでしまった者に関しては、別世界に送り込んで寿命をまっとうさせることになっています』
「神界? 輪廻転生?」
頭がついていかない。
何を言っているのか全然わからない。
『あなたは医療事故により本来の寿命より早く死亡しました。
よって、異世界転移の対象となります』
「いやいやいや、ちょっと待てって!」
手をぶんぶん振った。
「俺は普通に天国に行きたいんだけど! 異世界とか知らないし!」
『申し訳ありませんが、天国の受け入れ態勢が整っていません。
現在、天国は満員状態です』
「満員って何だよ! ホテルじゃないんだぞ!」
『よって、異世界転移となります。
転移先では、あなたの魂に適したスキルを付与いたします』
「スキル?」
『はい。
異世界で生活するために必要な能力です。
あなたには25ポイントが付与されます』
急に目の前に、青い光でできた画面のようなものが現れた。
まるでゲームの画面みたいだ。
『スキル一覧を表示します』
画面に文字が並んだ。
超健康:15ポイント
健康:1ポイント
初級魔法:4ポイント
中級魔法:8ポイント
上級魔法:15ポイント
身体強化:4ポイント
……
ずらずらと続いている。
「これ、全部で何個あるんだ?」
『全部で1,247個のスキルが存在します』
「多すぎるだろ!」
とりあえず、一番気になることを聞いてみた。
「俺の体はどうなるんだ? 心臓病もそのまま?」
『はい。
肉体はそのまま転移されます。
病気もそのまま持ち越されます』
「それじゃあ、異世界に行っても死ぬじゃないか!」
これは大問題だ。
心臓病を抱えたまま異世界に行ったら、すぐに死んでしまう。
「病気を治すスキルはないのか?」
『「健康」スキルがあります。
病気にかかりにくくなり、回復力が2倍になります。
状態異常の治癒も早まります』
「それだ! それをくれ!」
『「健康」スキルは1ポイントです。
しかし、あなたの心疾患には効果が薄いと思われます』
「じゃあ、もっと強いやつはないのか?」
『「超健康」スキルがあります。
あらゆる病気を治癒し、回復力を10倍にします。
状態異常は瞬間的に治癒されます』
「それだ! 絶対にそれだ!」
迷う必要はない。
心臓病を治せるなら、15ポイント払っても惜しくない。
『「超健康」スキルを選択しました。
残りポイント:10ポイント』
「よし! これで心臓病とはお別れだ!」
嬉しくて飛び跳ねた。
でも、音はしない。
『続いて、冒険者としてのおすすめスキルを付与します』
「ちょっと待て、俺まだ選んでない──」
『「健康」スキルを付与しました。
残りポイント:9ポイント』
「勝手に決めるな!」
『「初級魔法」スキルを付与しました。
残りポイント:5ポイント』
「おい! 人の話を聞けよ!」
『「身体強化」スキルを付与しました。
残りポイント:1ポイント』
「あああああ! 勝手に決めるなって言っただろ!」
怒りで頭がくらくらした。
何なんだ、このシステムは。
『残り1ポイントです。
1ポイントで取得可能なスキルを表示します』
「もう勝手に決めるなよ? 絶対にだぞ?」
『了解しました』
画面に1ポイントのスキル一覧が表示された。
見てみると……
健康:1ポイント
それしかない。
「これしかないのかよ!」
『はい。
1ポイントで取得可能なスキルは「健康」のみです』
「同じスキルを重複して取れるのか?」
『はい。
重複取得により効果が向上します』
仕方ない。
他に選択肢がないなら、これしかない。
「じゃあ、「健康」で」
『「健康」スキルを付与しました。
残りポイント:0ポイント』
『スキル付与が完了しました。
取得スキル:
・超健康
・健康
・健康
・初級魔法
・身体強化』
「健康が3つもあるじゃないか」
『「超健康」も「健康」系スキルです。
効果は重複します』
「まあ、健康になるのは悪くないか」
前向きに考えることにした。
心臓病が治るなら、それだけでも十分だ。
『それでは、転移を開始します』
「ちょっと待てよ! まだ聞きたいことが──」
『転移開始』
急に体が浮き上がった。
いや、浮き上がったというより、下に落ちていく感じだ。
「うわああああああ!」
白い空間がどんどん遠ざかっていく。
風が吹き荒れて、髪がなびく。
そして、意識が遠のいていった。
『……32型廃棄決定……64型への移行完了……』
遠くから、機械音のような声が聞こえた。
でも、もう意識がなくて、何を言っているのかわからなかった。
気がつくと、俺は草原の真ん中に立っていた。
青い空。
白い雲。
緑の草。
確実に、地球ではない場所だった。
「マジで異世界に来ちゃったのか……」
呟いた瞬間、胸の奥からじわじわと温かさが広がった。
心臓のあたりがぽかぽかしている。
そして、体全体に力が湧いてくる。
今まで感じたことのない、健康的な感覚だった。
「おお……これが超健康か」
試しに深呼吸してみた。
空気がおいしい。
肺の奥まで、きれいな空気が入ってくる。
心臓もしっかりと動いている。
今まで感じていた不整脈も、息切れも、全部なくなっていた。
「すげえ……本当に治った」
嬉しくて、その場で何度も跳び上がった。
体が軽い。
こんなに軽やかに動けるなんて、生まれて初めてだ。
でも、喜んでいる場合ではない。
ここは異世界だ。
どうやって生きていけばいいのかわからない。
とりあえず、人がいる場所を探さなければならない。
遠くを見渡すと、何かの建物が見えた。
城のような形をしている。
あそこに人がいるかもしれない。
「よし、行ってみよう」
俺は城に向かって歩き始めた。
新しい人生の始まりだ。
たとえ異世界でも、この健康な体があれば何とかなるだろう。
そう信じて、俺は歩き続けた。
でも、その時はまだ知らなかった。
異世界での生活が、想像以上に大変だということを。
そして、あの機械音のような声が言っていた「32型廃棄」の意味も、後になって痛いほど理解することになるのだった。
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