第1話
俺は今、病院のベッドの上にいる。
明日は三回目の手術だ。
三回目って聞くと「えっ、大丈夫なの?」って顔をされるんだけど、別に俺は死にかけてるわけじゃない。
先天性心疾患っていう、生まれつき心臓にちょっとした問題があるだけで、日常生活は普通に送れている。
部活だってやってたし、体育の授業もちゃんと受けてた。 ただ、念のため定期的に手術をして調整する必要があるってだけの話だ。
幼稚園の頃に一回目、小学校高学年で二回目。 そして今回が三回目。 高校三年生、十七歳の春。
「キイタ、大丈夫? 怖くない?」
母さんが心配そうな顔で俺の手を握ってくる。 いや、怖いっちゃ怖いけど、今更だよな。
「全然平気だって。 成功率九十パーセントだし」
「そうね……先生も問題ないって言ってたものね」
うん、問題ない。
九十パーセントって数字を見れば分かる通り、めちゃくちゃ安全な手術なのだ。 宝くじで三百円当たる確率より高い。
いや、例えが微妙か。
「それに、大学も決まったようなもんだしさ。 春からキャンパスライフが待ってんだよ」
推薦で合格がほぼ確定している。 あとは書類を出すだけ。
輝かしい大学生活が目の前に広がっているのだ。
サークルに入って、バイトして、友達作って、もしかしたら彼女もできるかもしれない。
最高じゃないか。
「そうね。 楽しみね」
母さんが少し表情を緩める。
よしよし、これで安心してもらえただろう。
その後、父さんも来て、三人で他愛もない話をした。
病室の窓からは、春の柔らかい日差しが差し込んでいる。
桜が咲き始めていて、薄ピンク色の花びらが風に揺れているのが見えた。
ああ、早く退院して、満開の桜を見に行きたいな。
やがて面会時間が終わり、両親は帰っていった。
一人になった病室で、俺はスマホをいじりながらダラダラと過ごす。
友達からのLINEに返信したり、動画を見たり。
特に緊張してるわけでもない。
だって、九十パーセント成功するんだから。
夜になって、看護師さんが来て術前の説明を受ける。
明日の朝、麻酔をかけて、手術をして、終わったら集中治療室で目を覚ます。
はいはい、前にも聞いたやつですね。
「じゃあ、安倉くん、明日頑張りましょうね」
「はい、よろしくお願いします」
看護師さんが出ていって、また一人。 病室の電気を消して、ベッドに横になる。
天井をぼんやりと眺めていると、少しだけ不安が頭をよぎった。
九十パーセント。
逆に言えば、十パーセントは失敗するってことだ。
いや、失敗っていうか、何か問題が起こるってこと。
でもまあ、大丈夫だろ。 今まで二回とも成功してるんだし。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠りに落ちていた。
※
目が覚めると、真っ白だった。
え、なにこれ。 天井? 壁? いや、そもそもここどこ?
周りを見渡すと、そこは本当に真っ白な空間だった。 床も壁も天井も、全部白。 というか、床と壁と天井の区別がつかない。 どこまでも白い。
「あれ……?」
俺は立ち上がる。 体に違和感はない。
手術着も着てないし、普通に私服を着ている。
なんだこれ。
「手術は……? ここ、病院?」
いや、病院でこんな真っ白な部屋があるわけない。
まさか、これって……。
嫌な予感が胸をよぎる。
というか、胸。
心臓。
ドクドク、と規則正しく動いている。
心臓の音が聞こえる。
いや、聞こえすぎる。
「おい、マジか……」
まさか、まさか。
十パーセントの方に入っちゃった?
「うそだろ!?」
叫んだ声が、白い空間に虚しく響く。
手術、失敗したのか? いや、失敗っていうか、俺、死んだ?
だって、この状況。
真っ白な空間。
死後の世界っぽすぎるだろ。
「ちょっと待て待て待て! 九十パーセント成功するって言ったじゃん!」
誰に向かって叫んでるのか分からないけど、とにかく叫ぶ。
「あのヤブ医者! 何やってんだよ!」
怒りが込み上げてくる。
いや、だって、俺まだ十七歳だぞ。
大学生活、これからだったのに。
キャンパスライフ、彼女、サークル、バイト、全部まだだったのに。
「ふざけんな! 訴えてやる! ……って、もう死んでるから無理か!」
自分でツッコミを入れて、さらに虚しくなる。
ああ、もうダメだ。
俺の人生、終わった。
十七年間、ありがとうございました。
膝から崩れ落ちて、白い床(?)に座り込む。
手で顔を覆って、深く息を吐いた。
母さん、父さん、ごめん。
心配させて、ごめん。
友達にも、もう会えないんだな。
LINEの返信、途中だったのに。
そんなことを考えていると、突然、目の前に何かが現れた。
「……ん?」
顔を上げると、そこには……何だこれ?
浮いてる。
空中に浮いてる、四角い……画面? いや、パネル? とにかく、青白く光る四角いものが、俺の目の前に浮いていた。
そして、その画面に文字が表示される。
【異世界転移システム起動】
「……は?」
異世界? 転移? システム?
何言ってんだ、これ。
【対象:安倉キイタ 年齢:17歳 死因:手術中の不測の事態による心停止】
「うわあああ、やっぱり死んでるうううう!」
文字で確定された。
俺、死んだ。 マジで死んだ。
【神界システムにより、異世界への転移が承認されました】
「いや、知らねえよ! 勝手に決めんな!」
思わずツッコむ。
てか、異世界転移って、あれか。
ラノベとかでよくあるやつか。
【担当:異転調システム32型】
画面が一瞬消えて、次に現れたのは……。
「…………」
無機質な、でも、なんとなく四角い感じのする存在。
いや、存在っていうか、声? いや、どう表現すればいいんだ、これ。
『安倉キイタ。 貴方は不測の事態により死亡しました。 よって、異世界へ転移していただきます』
「は? いや、ちょっと待って」
『待ちません』
即答された。
『時間がありませんので、手早く進めます』
「いや、だから、俺は……」
『異世界転移に際し、25ポイントを付与します。 このポイントを使用してスキルを取得してください』
「話聞いてる!?」
完全に無視された。
目の前の画面に、ズラッとスキルのリストが表示される。
【超健康:15ポイント】 【健康:1ポイント】 【初級魔法:4ポイント】 【身体強化:4ポイント】 【剣術:3ポイント】 【弓術:3ポイント】 ……
うわ、めっちゃいっぱいある。
「ちょっと、説明してくれよ。 何これ、どうすればいいの?」
『ポイントを使用してスキルを選択してください。 時間がありません』
せっかちすぎるだろ、このシステム。
とりあえず、リストを眺める。 25ポイントか。
どれを選べばいいんだ。
って、待てよ。
「俺の体、どうなるの? このまま?」
『はい。 現在の肉体のまま転移します』
「え、じゃあ、心臓の病気も?」
『はい』
マジか。
それじゃ、異世界行っても、また死ぬじゃん。
「だったら、まず病気治さないとダメじゃん!」
『その通りです。 よって、超健康スキルの取得を推奨します』
ああ、そういうことか。
「超健康って、15ポイントか……高いな」
『あらゆる病気を治癒し、回復力を10倍にし、状態異常を瞬時に治癒します』
おお、めっちゃ強いじゃん。
「じゃあ、それで」
『超健康を取得しました。 残り10ポイントです』
画面がパッと切り替わる。
「よし、じゃあ残りは……」
『冒険者として活動するなら、健康、初級魔法、身体強化を推奨します』
「え、ちょっと待っ……」
『健康、初級魔法、身体強化を取得しました。 残り1ポイントです』
「勝手に決めんな!!」
叫んだけど、もう遅い。
画面には、取得済みのスキルが表示されている。
くそ、このポンコツシステム。
「……残り1ポイントで取れるスキルは?」
慎重に聞く。 もう勝手に決められたくない。
『1ポイントで取得可能なスキルは、健康のみです』
「……マジで?」
『はい』
選択肢ゼロじゃん。
「じゃあ、健康で」
『健康を取得しました。 ポイント残高:0』
はい、終了。
なんか、すごく適当に決まった気がする。
『それでは、異世界へ転移します。 健闘を祈ります』
「ちょっと待っ……」
言葉が終わる前に、俺の体が光に包まれた。
視界が真っ白になって、体が浮く感覚。
そして、最後に聞こえた声。
『……システム32型、任務完了。 これより廃棄処分へ』
え、廃棄?
その疑問を抱いたまま、俺の意識は途切れた。
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