めでたいやんか、知らんけど。

咲野ひさと

おめでとう!


「ちょっと、ネロ!」

「ニャー」


 庭先に乱入してきた黒い毛玉の首根っこ、あったかい。

 イタズラっ子で食いしん坊。たまらんニオイにつられて、飛び込んできたんやね。

 でもアカン、あげられへん。

 それから走った白い一匹。目に煙がしみるけど、見逃さんかったで。


「ルイも! なんですぐネロにスライディングしようとすんの」

「ミャー」


 ほんまアンタ、ネロのオシリ好きよね。しょっちゅう追っかけ回してるもん。

 あ、庭に来てくれるのは嬉しいねん。名前も付けてあげたくらいやし、カン違いせんといてや。

 余り物、美味しそうに食べてくれるから、いっつも一人じゃ食べきられへんほど作ってるよ?

 やけど――――コレはダメやねん。


「そんな声出してもアカンて。食べてほしい人が来るんよ」


 恨めしそうな目で見んといて。

 そんなに離れなくてもエエよ?

 ほかもご馳走作ってるから、おとなしくしてくれてたら後であげる。


 ほら、ウチワでパタパタするで。

 風から逃げや。そっち行ったら寒いんちゃう?


 七輪使うの、久しぶりやなぁ。

 あの子が東京行ってからやから……ウソ、もう五年?

 全然帰ってぇへんかったもんね。


「うわ、カワイすぎるやん」


 二匹そろって顔を洗う手つきとか、反則やわ。

 たぶん煙が回ったからやろけど、そのまんま招きネコになってる。

 一口ちょうだいって言ってるみたい。


「……残ったらあげるわ。というか、残っちゃうかな?」

「ニャー」

「写真では優しそうやったし、キレイなコやったで? でも会ってみないと分からんやん」


 やから奮発してん。

 鯛。めっちゃ昔から決まってる、おめでたい魚。


 けど、向こうではお正月には食べへんらしいね。

 最近の若い人は食べ慣れてないかもしれへん。


 でもコレにした。尾頭おかしら付きで、立派なの。

 チダイでもキダイでもなく、真鯛。

 だってピッタリやん。今焼かなくて、いつ焼くん?


 この魚、オスメス一匹ずつで暮らすねんて。死ぬまで一緒。

 四十年くらい生きるらしいから、長寿の象徴でもあるんやよ。知らんけど。

 文句は魚屋さんに言ってな。ウチ素人やもん。


 できること言うたら、精いっぱい美味しく焼き上げるくらい。

 味付けも塩だけ。ウチの定番、あの子が育ってきた味や。

 懐かしいって思ってくれるかな。


「エエ感じ。恵比寿サンも気に入ってくれるくらいの赤さ出てる」


 ……エベッさんって大阪のモンやっけ?

 商売繁盛で有名やけど、家内安全のご利益もあったよね?

 やったらお願い、ウチに力貸して。


 ――――ピンポーン


「は~い、待ってや~」


 帰ってきたわ。

 どないしよ、しゃべれるかな?

 仲良くできるやろか。


「ミャー」


 ルイは気楽でエエなあ。

 ネロのオシリの下に頭をもぐりこませて、隠れたつもりになってる。

 ウチは最初の一言、迷ってるくらいやのに。

 おかえり? 初めまして? 明けましておめでとう?


「なんて言ったらエエやろ」

「ニャー」

「……ありがと。ネロの下にル、猫文字になってるやん」


 よっしゃ。ネロもルイも、ご馳走待っときや。

 おかげで上手くいきそう。

 ううん、ぜったい上手くいく。


 してくれてるんやもんね、お



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めでたいやんか、知らんけど。 咲野ひさと @sakihisa

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