第六話 禁断の果実

 帰り道、俺の頭の中から興奮はすでに消え去っていた。

 代わりに俺の頭を支配していたのは、冷たい現実。


「……やっぱり、厳しいか」


 俺は脳内で、一般的な冒険者と自分自身のステータスを比較していた。


 この世界において、レベル10になった一般的な冒険者の基礎能力値は、初期値と成長分を合わせて「20」前後。

 そこに戦士や剣士といった職業補正(1.2倍~1.3倍)が乗ることで、主要な能力の実数値は「25」近くになる。


 対して、俺はどうだ。


 基礎能力値は「30」。

 成長率が高いおかげで、素体としてのスペックは彼らを凌駕している。

 だが、そこに〈遊び人〉の補正である「0.5倍」が掛かることで実数値は一律で「15」。


「一般的な冒険者より弱い、か」


 ぽつりと呟く。


 これが現実だ。

 ゴブリンやスライム程度なら、ようやく正面から倒せるようになった。


 だが、ゴブリンはそもそも、レベル1の冒険者でも倒せる最弱モンスターだ。

 俺がレベル10になるのに時間がかかったのも、ゴブリンやスライムのような、適正よりも低いモンスターを狩っていたのがその理由。


 これから先強くなるためには、それ以上に強い敵と戦う必要がある。


(普通の武器じゃ、状況は変わらない)


 銅の剣や鉄の剣のような「普通の」武器を買ったところで、補正で半減されればやはり一般の冒険者に一段も二段も劣る。

 この状況を打開するには、その前提を覆すしかない。


 つまり――半減されることを前提に、敵の防御力を強引にぶち抜く「異常な攻撃力」を持つ武器を用意すること。


「……だとしたら、やっぱり『アレ』だよな」


 俺の足は、自然とバイト先の道具屋へと向いていた。


 あては、ある。

 こんなタイミングで転職できるとは思っていなかったから何もしていなかったが、取り置きするか迷っていた武器が、あの店にはあるのだ。


 カランカラン、とドアベルを鳴らして店に入る。


「あれ、レイトさん? 忘れ物ですか?」


 カウンターの中にいた同僚のミリアが、きょとんとした顔でこちらを見た。

 俺はカウンターに歩み寄り、単刀直入に切り出す。


「お疲れ様です。……あの、さっき俺が検品した『アレ』、まだ裏に残ってますか?」

「アレって……あ、もしかして、『呪いの短剣』ですか? ありますけど……」


 彼女は不思議そうに首を傾げた後、何かを思い出したように顔をしかめた。


「明日の朝イチで教会に持ち込んで、廃棄してもらう予定です。処分料が高くて店長が泣いてましたけど」

「そうですか。なら――それを、俺に譲ってもらえませんか」

「へ?」


 彼女の動きが止まる。

 言葉の意味を理解するのに数秒かかったようで、彼女は目を見開いて叫んだ。


「え、ええ!?  何を言ってるんですか、レイトさん! ご自分で『気をつけて』って言ってたじゃないですか!  あれ、〈バーサーク〉の呪い付きなんですよね!?」

「ええ、知ってます」

「知ってます、じゃないですよ! 装備したら最後、理性を失って死ぬまで暴れ続けるんですよ!? いくらなんでも危険すぎますって!」


 彼女の反応は正しい。


 あの短剣は、初心者がうっかり装備して破滅するように仕組まれた、悪質な「罠アイテム」だ。

 だからこそ、レベル制限が緩く、レベル10そこらでも装備できてしまう。


 だが、その「罠」こそが、今の俺には唯一の突破口になる。


「実は、心当たりがあるんです。俺ならその呪い、無効化できるかもしれなくて」

「……は?」


 彼女が呆気にとられたような顔をする。


 無理もない。

 呪いの無効化なんて、呪いに特化した特殊職でもなければ不可能だ。


「じょ、冗談ですよね? もし失敗したらどうするんですか?」

「そのための検証です。……譲ってくれとは言いましたが、いきなり持ち帰ろうとは思っていません」


 俺は真剣な眼差しで彼女を見る。


「試させてほしいんです。もちろん、何かあっても他人に危害がおよぶようにはしませんから」

「そんな……」


 彼女は迷うように視線を彷徨わせた。


 廃棄予定だったとはいえ、店の品を危険な用途で持ち出させるわけにはいかないと考えているんだろう。

 だが、俺の目が本気であることも感じ取ってくれているようだ。


 しばしの沈黙の後、彼女は覚悟を決めたように顔を上げた。


「……分かりました。でも、レイトさん一人に行かせるわけにはいきません」

「え?」

「私が一緒に行きます。もしレイトさんが暴走したら、私が責任を持って人を呼びますから!」


 彼女はカウンターを出て、店の奥へと向かう。

 戻ってきたその手には、厳重に封印された黒い箱が抱えられていた。


「……ありがとうございます」


 俺は苦笑しつつ、彼女の責任感の強さに感謝した。

 一人でやるより、第三者がいた方が客観的な証明にもなる。


「じゃあ、行きましょうか」

「は、はい……。でも、どこへ行くんですか?」


 俺は店の出口へと向かいながら、この街で唯一、暴力を振るうことが許された場所の名を告げた。


「――闘技場へ」


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特に意味はないんですが、次は朝7時に更新です

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放棄世界の転生者 ウスバー @usber

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